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常識を疑え!

不倫の本当の問題はどこにあるのか?

香山リカ(医師)

 芸能人、政治家、文化人の不倫がたて続けに報道され、大きな社会的注目を集めている。とくに文筆家でこの夏の参院選に自由民主党から出馬予定であった乙武洋匡氏の場合は、自身のサイトで妻が「このような事態を招いたことについては、妻である私にも責任の一端があると感じております」と謝罪したことをめぐり、「妻が謝る必要はない」「夫を守る姿勢がすばらしい」と議論を呼んでいる。

 こういった不倫報道で注目されるのは、いつも不倫する夫とその被害を受けた妻だ。しかし、私の診察室に不倫がらみでやって来る人でいちばん多いのは、“家庭のある男性と交際した女性”だ。不倫のもうひとりの当事者である女性の話には、その人が芸能人など特殊なケース以外、ほとんど目が向けられることはない。あるいは、世間の主婦たちからは「妻から夫を奪った許せない女性」と見られがちだ。

 とはいえ、この女性たちも決して幸せではない。たとえば乙武氏と交際した女性たちも、そのときは彼にひかれていたのだろうし、もしかすると真剣に恋愛感情を抱いたかもしれない。ただ、乙武氏と交際していることは誰にも言えないし、それ以上、結婚などに発展する可能性もない。女性の場合、何人もの相手と交際することは少ないので、ひとりとつき合っているときは“その人だけ”。だから不倫が終わると、そこからまた恋人や結婚相手を探さなければならない。3年間不倫をしていれば3年、7年間不倫をしていれば7年、自分の結婚は遅れてしまうことになるのだ。

 診察室に来る不倫経験のある女性たちは、いずれもその間は本気で男性と恋愛し、その人に家庭があることで罪悪感に苦しみ、週末や正月をいっしょにすごせないことで寂しい思いを味わう。不倫する男性の中には、恋人を失いたくないあまり、「いつかは君と結婚する」などと口約束をする人も多く、女性はその言葉を信じてひたすら待ち、結局はそれがかなわないとわかり心身がボロボロに傷ついてしまうこともある。

 では、女性たちはなぜ不毛な結果に終わることを知りながら、つい不倫をしてしまうのか。中には仕事もできて十分に魅力的な女性もいるのだが、そうであればあるほど、同世代の独身男性はもの足りなく見え、同時に男性たちも「あんなデキる女性とつき合ったら自分がバカにされそう」と怖気づく。結局、そういう女性を受け止めることができるのは、結婚して家庭があり、男性としての自信や精神的余裕のある年上の人ということになってしまいがちなのだ。

 いずれにしても、不倫に実りはない。それを防ぐためには、まず家庭内では夫と妻が結婚後も男性と女性でいられるよう、お互い努力する必要がある。それから独身男性も結婚対象となる年齢の女性に対して「仕事がデキる女はいや」「意見を言わずにただかわいくしているほうがいい」といった考えを持つのをやめるようにすることが大切だ。「君は仕事ができて輝いているね。でもいっしょに成長できるように僕もがんばるから、僕にもどんどん意見を言ってほしい」。男性が同世代の女性に対してこれくらいのことを言ってあげられなければ、結局は20代、30代のシングル女性は自分に向き合ってくれる相手を見つけられずに、年上の既婚男性に近づいてしまうことになる。

 こう考えてみると、いちばん肝心なのは、シングル男性たちの奮起ということになるだろうか。いつまでも10代のアイドルに癒やしを求めてばかりいないで、がんばるおとなの女性としっかりコミュニケーションすることを怖れないでほしい。また既婚男性たちも、「妻はもう母親になった」などと考えず、しっかりひとりの女性、ひとりの人間として向き合ってほしい。不倫は誰も幸せにしない。しかし、ただ禁じるだけではなくならない。不倫しなくてもいい状態を作り上げることが必要なのだ。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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