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常識を疑え!

「保育園落ちた」はなぜ共感を呼んだのか?

香山リカ(医師)

 ひとりの女性が書いたブログから大きな動きが起きている。復職のため子どもを保育園に預けようとした女性が入園を断られ、「保育園落ちた日本死ね!!!」と強烈な言葉で社会を批判した。希望しているのに定員オーバーなどの理由で入園を断られる「待機児童問題」は以前から政治の場でも議論されてきたが、今回は民主党の女性議員が衆議院予算委員会でこのブログを取り上げつつ安倍晋三総理に解決を迫った。しかし、総理は「匿名なので本当かどうか確かめようがない」と答え、フロアからもブログの信ぴょう性を問うヤジが飛んだ。

 これに対してまず怒りの声を上げたのが、同じ経験をした母親たちだった。ネットには「私も保育園に断られ仕事を辞めた」「誰にも言えなかったけど同じことを思った」といった書き込みがあふれた。次いで、「私は運良く保育園に入れられたけれど、ひとごとではない」「まだ結婚していないが将来は子どもも持ちたいし仕事も続けたい」といった当事者の周辺の人たちからの書き込みが増えてきた。

 実は私には子どもがいない。だから、直接、保育園の待機児童問題の影響を受けたり悩んだりしたことはない。しかし、診察室ではこの問題に直面して「仕事に戻りたいのに戻れない」と苦しむ女性や、うつ病などで育児が負担となっても入園許可が下りず疲弊した女性に会う機会がある。待機児童問題にまったく無縁というわけではないのだ。

 さらに今回の反響の広がりの特徴は、ついにこの問題には直接的にも間接的にも関係ない人までが声を上げるようになったことだ。「独身男性ですが問題の深刻さはわかります」「子育ては終わったシニアですがこれは社会全体で考えるべき」とネットで語る人、「国会前に集まりましょう」とプラカードを持って集合した女性たちに混じってスタンディングする人もいた。

 先ほど述べたように私には子どもがいないので、この待機児童問題についてネットで発言したところ、「関係ないのに口を出すな」「子育て経験もないのに目立とうとしているだけ」といった批判のコメントが多く寄せられた。その人たちには「診察室でそういう女性に接することがあるので」と返答しながらも、心の中では「関係なくても発言していいじゃない」と思っていた。もちろん、いま子どもを預けられずに困っている母親たちの声がいちばん重要であることは言うまでもない。「この4月から仕事に戻りたいのに子どもが入園できなければ退職しかない」といった切実な訴えには説得力があり、一日も早く対処しなければならない。

 しかし、たとえ仕事をしておらず子どもを保育園に預ける必要がない母親でも、子育てに携わる機会のない独身の男性や子どものいない女性でも、当事者の苦労を想像することはできる。また、子育て支援や女性の就労支援はいま差し迫った社会の課題であることも十分、理解できる。だとしたら、「こんな社会、おかしいでしょ? どうしてもっと保育園を作ったり保育士の待遇を良くしてその職につく人を増やしたりできないの?」と意見を言ったり行動したりするのは、ごく自然のことと言えるのではないか。

 直接、自分がかかわっていないことでも、「おかしい」と思ったら声を上げる。
 よく考えれば、そんなあたりまえのこともこれまではどこかしづらい雰囲気があったのだ。被害者、当事者にしか発言の権利がない、というのはあまりにも時代遅れ。この保育園の問題をきっかけに、誰もがどんどんいろいろな問題に口を出し、「これは違う」「そんなのひどいよ」と自由に語り合う雰囲気が広がっていけばよいと願っている。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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