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連載

学校の先生になりたい人が減っている!? 〜教員不足で露見した過剰労働の現実

第16回

大内裕和(武蔵大学教授)

 皆さんは学校の先生が足りなくなっているのを知っていますか? 最近は新聞やテレビでも報道されることが増えたから、ご存じの人もいらっしゃるかもしれません。実は近年、学校の先生を志望する人が減っているのです。

 2020年度の公立学校教員採用選考試験 で、小学校教員の競争率(採用倍率)は過去最低の2.7倍となりました。中学校は5.0倍、高校は6.1倍と、いずれも前年度から減少しています。小・中・高校教員をすべて合わせた20年度の競争率は3.9倍で、前年度の4.2倍から減少しました。近年では最も倍率が高かった2000年度の13.3倍からは、大きく低下しています。

 このように競争率が下がった理由の一つには、採用者数の増加があげられます。小・中・高校とも、教員採用数は増加傾向にあります。しかし一方で、受験者数のほうも小学校が前年度比2951人減の4万4710人、中学校が3427人減の4万5763人、高校が3226人減の2万6895人といずれも減っています。ですから、教員採用試験の競争率低下の大きな要因が教員志望者数の減少であることは間違いありません(文部科学省「公立学校教員採用選考試験実施状況調査」より)。

 実際に、学校現場では教員不足が目立ってきています。文部科学省が17年度、11の都道府県・指定都市で行ったアンケート によると、始業日時点における「教員の不足数」は小学校で316人(常勤266人、非常勤50人)、中学校で254人(常勤101人、非常勤153人)に達していました。中学校では教科担任の不足数も34人となっています。また、朝日新聞が全国の公立小・中学校について調査したところ、19年5月1日時点で1241人の教員が「未配置」となっていることが分かりました。

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 18年、島根県松江市の中学校では教員不足のために3年生の英語の授業が1カ月間できず、自習が続いたことが大きなニュースになりました。19年、千葉県千葉市では保護者向けに教員募集のチラシを配布したことが話題となりました。教員が不足した場合、その学校の教頭あるいは副校長が臨時教員を探しますが、いくら電話してもたった1人の教員も見つけられない――とよく耳にします。いまや教員不足は、ここまで深刻なのです。

 では、なぜ教員の志望者が減っているのでしょうか? 私は、教員の労働環境が劣悪であることが、広く知られるようになったからだと思います。最近では「ブラック部活動」「教員の働き方はブラック」といった言葉が、若者の間で共有されるようになりました。これらの言葉は、部活動のあり方や教員の働き方を改善しようという文脈の中で使われていることも多いのですが、一方で教員の仕事をネガティブに伝える役割を果たしてしまい、志望者の減少をもたらしているように思います。

 ここで各国の教員の労働状況を見てみましょう。OECD(経済協力開発機構)の「国際教員指導環境調査(TALIS)2018」の結果によると、日本の教員の労働時間は小学校で週54.4時間、中学校で週56.0時間と、OECD加盟国平均の38.3時間(中学校)を大きく上回り、ともに加盟国・地域の中で最長となっています。しかも、問題はその中身です。日本の中学校教員の授業時間の週平均は18.0時間で、加盟国平均の20.3時間を下回っています。つまり日本の教員は、授業以外の労働時間がとても長いのです。

 ではどうして、日本の教員の労働時間はこれほど長くなったのでしょうか。私は大きく3つの理由があると考えます。

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 第1に部活動の過熱化です。従来、学校では教育課程内の必修クラブ活動が授業時間に行われていましたが、1989年の学習指導要領改訂 によって、放課後などに行われる教育課程外の部活動に参加すればクラブ活動の履修とみなす「部活動代替措置」が取られるようになりました。この部活動代替措置は、学力試験偏重が教育の画一性をもたらしているとの批判から臨時教育審議会(以下、臨教審)が打ち出した「個性重視の原則」を踏まえたものです。子どもの個性を重視するうえで学力試験以外の評価軸が求められ、そこで候補となったのが部活動でした。

 個性重視の原則の観点から、高校・大学の推薦入試も拡大されました。部活動が入試の評価対象となることで、学校生活における部活動の位置づけは大きく変化しました。「部活動で活躍することは進学にも有利になる」という事実が、子ども、保護者、教員それぞれを後押しして、部活動に一層熱心に取り組ませることになりました。

 のちに実施された「ゆとり」教育も、部活動の過熱化につながりました。1992年から段階的に始まり、2002年に完全導入された「学校週5日制」ですべての土・日が休校日となりました。特に授業がなくなった土曜日は、部活動を行ううえで長時間練習や対外試合、コンクールなどを実施できる都合のいい日となったのです。

 教育社会学者の内田良氏らが行った17年度の調査では、教員が部活動に立ち会う平均時間は平日よりも土・日のほうが長く、休校日に部活動が盛んに行われていることが分かりました。また神奈川県の中学校と高校の教員を対象にした調査でも、1998年度以降、教員の部活動指導日数が着実に増加しており、指導日数が週6日以上の割合は1998年度の21.7%から、2013年度では33.0%となりました。この点からも、学校週5日制が部活動の過熱化に一定の役割を果たし、教員の労働時間の増加をもたらしたことが分かります。

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 第2に「教育の新自由主義改革」の影響です。教育の新自由主義改革とは、公教育を縮小し、民営化、自由化などで市場原理や競争原理を拡大することを意味します。この施策によって、それまで公的な教育機関に等配分されていた国の教育予算が、評価配分されるようになりました。そうして06年の教育基本法改正と、その翌年の学校教育法・地方教育行政法改正によって、教員、学校、教育委員会など教育に関わる者が互いを評価しあう「教育評価システム」が生み出されました。

 評価システムの結果次第で教員の身分や処遇、職場の予算配分に影響が出る可能性があるのですから、学校も教育委員会も評価を得るための「計画書」や「評価書」の作成に追われることとなりました。学校運営費が競争的に配分されることから、各校では予算獲得に向けて「教育プロジェクト」を立案し、その度に教員は申請書や報告書を作成しなければなりません。膨大な事務作業に追われるようになり、ここでも労働時間が延びました。

 第3に「給特法」(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の存在です。1972年1月に施行された給特法では、給与総額の4%を「教職調整額」として一律加算する代わりに「時間外業務手当及び休日勤務手当は、支給しない」(第3条2項)と明記しています。つまり公立学校の教員は、超過勤務手当が出ないのです。

 どんな職場でも職員の労働時間を適正に管理することは、管理職の重要な仕事であるはずです。しかし、給特法が超過勤務手当の不支給を規定しているため、学校の管理職は教員の超過勤務を気にしなくなりました。教員の勤務時間を把握しなければならない、という意識さえ希薄になっている学校も少なくありません。

 教育行政(文部科学省、教育委員会)は給特法の存在によって、教員の超過勤務にともなう人件費の増加を意識することなしに、さまざまな教育政策を実行してきました。新たに政策を加えれば、それまで行っていた業務を減らさない限り現場の負担は増え、教員の労働時間はより長くなります。コストが増加するという意識があれば、新たな政策を実行する代わりに、従来の業務を減らすか、追加の予算や人員を準備するはずです。しかし実際には何の手当もなく、教員の過剰労働を促進することになりました。

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 では、こうした状況を打破して教員の負担を軽くし、志望者増へとつなげるにはどうすればよいでしょうか? 部活動については顧問教員による指導をやめて外部の指導者に委託する案や、学校の課外活動から切り離して地域のスポーツクラブに移行させる案などがあります。しかし、すべての学校が適任な外部指導者や、受け皿となるスポーツクラブを確保できるかというと短期的には困難でしょう。

著者情報

武蔵大学教授

大内裕和

おおうち ひろかず

1967年、神奈川県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得。松山大学教授、中京大学教授を経て2022年度より現職。「入試改革を考える会」代表。「奨学金問題対策全国会議」共同代表。著書に「ブラックバイトに騙されるな」(集英社)、「教育・権力・社会」(青土社)、「ブラック化する教育 2014-2018」(青土社)などがある。

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