imidas - 情報・知識&オピニオン

連載

都立高入試英語スピーキングテスト「20点」の謎 〜配点も点数も全てが不可解

第27回

大内裕和(武蔵大学教授)

 前回の「若者のミカタ」で、都立高校入試に2023年度から導入が予定されている「中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)」について、私が感じた問題点を取り上げました。そうしたところ、各方面からさまざまな反響をいただいたのですが、その中で実際に東京都の公立中学校で教鞭をとっている先生からちょっと気になる情報を得ました。

 それは21年秋に実施されたプレテスト(入試に導入する準備として行われた模擬試験)において、試験の結果を受験生に通知する「中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)スコアレポート」という通知書にまつわる疑問があるというのです。話をうかがって私もびっくりしました。

 1つは前回の「英語のスピーキングテストが危うい」でも指摘したように、このテストは100点満点の得点をA~Fの6ランクに振り分けて配点するのですが、その振り分け方におかしな点があるということ。2つめは、総合得点は通知されるけど、どの設問で何点とったのかという採点内容が受験生に通知されてないという点です。

 そこで今回は、この2つの疑問点から掘り下げてみました。

◆◆

 まずは1つめの疑問。スピーキングテストの総合得点は「ESAT-Jグレード」というA~Fの6ランクに振り分けられるのですが、その際に100点満点を6等分してランク分けするのではないことが判りました。実際には「80点~100点=A(得点幅21点)」「65点~79点=B(同15点)」「50点~64点=C(同15点)」「35点~49点=D(同15点)」「1点~34点=E(同34点)」「0点=F」と不均等な得点域で分けたのち、A=20点、B=16点、C=12点、D=8点、E=4点、F=0点と配点されます。

 この方法だと、例えば1点しかとれなかった人も、34点とれた人も同じくEに評価されて4点が配点されます。つまり最大33点違っても同じ点数になってしまうのです。また1点はEで4点に換算され、0点はFで0点に換算されますから、1点でもとればテストの結果は4点差としてカウントされます。

 こうして算出されたESAT-Jの得点は、志望校へ送る「調査書」(=内申書)に記載されます。わずか1点の差が合格・不合格を分ける入試において、このような換算の仕方が許されるとは思えません。

◆◆

 2つめの疑問は、スコアレポートで受験生に通知されるのが「総合得点」と「ESAT-Jグレード」のみということ。21年に実施されたプレテストの設問は、「A(音読)」「B(Q&A)」「C(描写・説明)」「D(意見・コメント)」の4つのパートからなっていたそうですが、「どのパートで何点とれたのか」という採点内容がないのです。このほかスコアレポートには、受験生の参考用に「CEFRレベル」と「学習アドバイス」が記載されます。CEFR(Common European Framework of Reference for languages ヨーロッパ言語共通参照枠)とは、01年に欧州評議会によって発表された外国語能力の参照基準のことです。

 採点内容の詳細がわからないと、自分の習熟度を詳しく知ることができません。当然、総合得点とESAT-Jグレードのみの通知に疑問を抱く受験生、保護者、教員が多数出てくることが予想されます。疑問を解消するため、採点内容の開示請求をする人も出てくるでしょう。今回、情報を寄せていただいた公立中学校の先生も、21年のプレテストで実際に開示請求を行ったそうです。その先生からの報告は以下の通りです。

「採点に疑問があったので、スピーキングテストのプレテストの開示請求をしたところ、教育庁指導課より連絡が来ました。結論としてスピーキングテストの採点の開示請求はできないとのことでした。担当者は『今年は無理ですが、今後、検討します』とのことでした」
(前出の公立中教諭)

◆◆

 東京都教育委員会が公開している「令和4年度東京都立高等学校入学者選抜における本人得点等の開示について」には〈令和4年度東京都立高等学校入学者選抜においては、学力検査や面接・作文などの得点及び学力検査の答案の開示を請求することができます〉とあり、〈開示を請求できる内容〉として次の項目が挙げられています。

1)学力検査等得点表(学力検査の得点及び面接、作文、実技検査等の得点)

2)学力検査における答案の写し

 ここで言う「学力検査」とは、入試当日に実施されるペーパーテストのことです。つまりスピーキングテストの得点は学力検査の得点ではなく、調査書(=内申書)に記載する成績扱いなので、「答案」にあたる音声データや採点評価の内容などは開示の対象外といったことのようです。こうした情報を繋ぎ合わせて考えると、22年11月に行われる本番のスピーキングテストの結果についても、開示請求ができない可能性があります。

 しかし、学力検査は得点表と答案の写しまでが開示請求できるのに対して、スピーキングテストについてはNGというのは、対応があまりにも違っています。採点に対する信頼性を高め、受験生や保護者の理解を得るためにも、「どのパートで何点とれたのか」を通知し、開示請求にも応じるべきです。

◆◆

 私が開示請求の重要性を強調したいのは、過去の入試で大規模な採点ミスがあったからです。それは14年度の都立高校入試で起こりました。都立荻窪高校が新入生の学力を把握するため入試答案を確認したら、8人の答案に採点の誤りがあることが判明したのです。これを受けて、東京都教育委員会がその年の都立高校入試の全答案を再点検したところ、48校で計139件の採点ミスが発覚し、本来は合格していた4人の受験生が不合格となっていたと発表されました。

 入学試験における採点ミスは絶対に許されませんが、人の手で行われる以上ミスをゼロにすることはできません。受験生の「知る権利」を守ることに加えて、採点ミスを是正するためにも開示請求は有効な手段です。

 そこでもう一つの疑問が出てきます。先の一件で学力検査の結果を再点検することができたのは、採点の記録である答案が残っていたからです。スピーキングテスト結果の開示請求に応じるためには、音声データと採点記録が残されていなければいけません。

 前回の「英語のスピーキングテストが危うい」でご説明したように、このテストの採点は音声データをフィリピンに移送して、現地で採点が行われます。その後、スピーキングテスト結果の音声データとその採点記録はどこに保管されることになっているのでしょうか?

 東京都教育委員会は、スピーキングテストの音声データとその採点記録をどのように保管するかについて、試験実施前に明確な説明を行うべきです。それがなければ、スピーキングテストに対する信頼を得ることはできないでしょう。

◆◆

 スピーキングテストのESAT-Jで算出された最高20点の得点は、調査書の「諸活動の記録」欄に記入されます。他にも在学時の全教科の成績などが同じように調査書点として換算されて記載されますが、私には、スピーキングテストの成績が占める割合がかなり大きく、入試のバランスを崩しているように思えます。

 例えば都立高校入試の第一次募集(前期募集)の場合、学力検査が行われる5教科の調査書点は、通知表の5段階評価を4.615倍して換算されます。ですから英語で成績「5」を取ると、調査書点は約23点となります。

 調査書点は「中学校3年間にわたる教育と生徒の学習の成果」を意味します。3年間、英語を教え学んだ成果の最高評価が約23点なのに対し、特定の1日に行われるスピーキングテストが20点にもなるというのはあまりにも配点が大き過ぎます。普段の授業や定期テストを軽んじていると思われても仕方ないでしょう。

 しかも国語、数学、理科、社会の調査書点が最高約23点なのに、なぜ英語だけ調査書に記載された点数が全部で約43点にもなるのか? 合否のボーダーライン上にいる受験生にとって、調査書からの加点は重要このうえありません。それを英語だけ特別扱いしたような、アンバランスなものにしてしまってよいのでしょうか? 私は調査書点の存在意義そのものに疑問符が付く危険性があると思います。

◆◆

著者情報

武蔵大学教授

大内裕和

おおうち ひろかず

1967年、神奈川県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得。松山大学教授、中京大学教授を経て2022年度より現職。「入試改革を考える会」代表。「奨学金問題対策全国会議」共同代表。著書に「ブラックバイトに騙されるな」(集英社)、「教育・権力・社会」(青土社)、「ブラック化する教育 2014-2018」(青土社)などがある。

関連記事

新着記事

imidasの更新情報をお届けします。