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人気絶頂の「箱根駅伝」から考えたこと ~学生スポーツのあり方と一般学生との格差

第50回

大内裕和(武蔵大学教授)

 私が指摘したいのは90年代後半以降、箱根駅伝を目指す学生たちと一般学生たちの間で、格差が拡大し続けてきたということです。90年代半ばから親世代層の所得が下がり、親から大学に通う子への経済的支援が急速に減少しました。東京私大教連(東京地区私立大学教職員組合連合)の調査によれば、学生への仕送り額の平均は94年(6月以降/月平均)の12万4900円から、2021年には同8万6200円へと激減しています。21年の仕送り額から家賃額をのぞいた平均額は月に1万9500円で、1日あたりの生活費にすると650円です。

 かくて親からの経済的支援の減少によって、奨学金の利用者が急増しました。日本学生支援機構(JASSO)の調査によれば、奨学金を利用する大学生の比率は1996年の21.2%から2012年には52.5%へと上昇しています。その当時、日本学生支援機構の奨学金は「貸与型」のみでしたから、大学卒業後に奨学金返済に困る若者が急増。このことが、奨学金が社会問題となるきっかけとなりました。

 また同時に、大学生のアルバイトをめぐる状況も大きく変わりました。1980年代~90年代半ばまで、親から十分な経済的支援を得られることが多かった時代には、学生のアルバイトは主に「趣味やサークルなどで自由に使えるお金」を稼ぐためのものでした。世の中が変わり、親からの経済的支援が得にくい時代になると、アルバイトは「学費や生活費など学生生活を続けるために必要なお金」を稼ぐためのものへと変わりました。学生生活がかかっている以上、職場に多少の不満があっても辞めることはできません。これが「学生であることを尊重しないアルバイト」である「ブラックバイト」を生む理由の一つとなりました。

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 90年代半ば以降、親からの経済的支援が減る中で奨学金という名の「借金」と「ブラックバイト」に苦しむ一般学生が急増する一方、箱根駅伝への出場を担う学生には「返済不要の多額の奨学金」が支給され、「アルバイトをしている学生はひとりもいない」という状況が生まれていました。そうした学生と一般学生との格差はこの間、とても拡大したということが言えます。

「箱根駅伝に出場できるほどの優れた学生には、十分な待遇があってしかるべきだ」という意見もあるでしょうし、また一般学生との格差がどこまで容認されるのかというのも一義的には決めにくいと思います。しかし、大多数を占める一般学生の窮状が放置されたまま、箱根駅伝で世間の注目を集めそうな学生は厚遇され、両者の格差が拡大し続けることは学生スポーツとして望ましくないと思います。

 人気絶頂で記録も向上している箱根駅伝ですが、その「過熱」によって学生たちの間に弊害や格差が生じ、今後も広がり続けるとしたら不幸なことです。問題点があるなら適切に改善し、健全に発展させることが望まれます。それは箱根駅伝以外の学生スポーツ競技にとっても、よい方向につながると考えます。

著者情報

武蔵大学教授

大内裕和

おおうち ひろかず

1967年、神奈川県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得。松山大学教授、中京大学教授を経て2022年度より現職。「入試改革を考える会」代表。「奨学金問題対策全国会議」共同代表。著書に「ブラックバイトに騙されるな」(集英社)、「教育・権力・社会」(青土社)、「ブラック化する教育 2014-2018」(青土社)などがある。

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