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慶應義塾長「国公立大の学費を150万円に」提言の衝撃と問題性

第54回

大内裕和(武蔵大学教授)

 最近では「経済的に恵まれた世帯の学生が国立大学に集まるようになり、私立大学より安い学費で質の高い授業を受けられるのは不平等である。こうした状況を考えれば、国立大学の学費を引き上げても構わないのではないか」という主張が社会で一定の支持を得るようになっています。こうしたことが「国公立大学の学費を150万円に」提言の背景にあると思われます。

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 こうした議論に対して、どのような方策を取ればよいでしょうか? 私は国公立大学の学費を値上げするのではなく、むしろ私立大学の学費を引き下げるべきだと思います。私立大学の学費が高くなるのは、高等教育にかける公的予算の関係で、国から交付される助成金(=税金による支え)が極めて少ないことが最大の理由です。2023年度の私立大学(4年制大学622校)への公的助成である私立大学等経常費補助金は2849億円で、同年度の国立大学(4年制大学86校)の運営費交付金1兆626億円とは大差がついています。

 かといって国公立大学が「恵まれている」のではありません。私立大学への公的助成が少な過ぎるのです。国公立大学の学費を150万円に値上げして、私立大学の学費水準に合わせる下向きの「公平」ではなく、私立大学への助成を増やして授業料を引き下げ、国公立大学の条件に近づけていく上向きの「公平」が望ましいと考えます。

 23年3月8日、私は労働者福祉中央協議会(中央労福協)の研究会で主査をつとめ、「大学・短大・専門学校の授業料を現在の半額とする」という方針を盛り込んだ「高等教育費の漸進的無償化と負担軽減へ向けての政策提言」を発表しました。すべての大学の授業料を半額にするのですから、引き下げ率こそ国公立大学も私立大学も同じですが、値下げ額は授業料が高い私立大学のほうが大きくなります。私は、この提言で示した形での学費の格差是正を推奨します。

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 最後に、難関国立大学についてはどう考えればよいでしょうか? 私はそうした大学についても、学費値上げは望ましい解決策にはならないと思います。現時点でも経済的に恵まれた世帯の学生のほうが有利に進学を目指せる状況なのに、さらに学費負担まで重くなれば低所得世帯の学生には一層門戸が狭まり、教育格差を今まで以上に助長する危険性があります。解決のカギは、大学入学前の教育機会の平等、特に公教育の質の向上にあります。

 公教育の質の向上とは、小学校、中学校、高校、特に公立学校の教育環境の充実――具体的には教員の労働条件の抜本的改善(長時間労働の是正と給与水準の上昇)と1学級20人の実現によって、家庭の貧富に関わらず、どの地域に住んでいても一定水準以上の教育を受けられる初等・中等教育システムを整備することです。「子どもの貧困」や「格差社会」が社会問題となっている今こそ、塾・予備校など金のかかる教育産業を利用することなく学力が身につき、難易度の高い大学入試にも対応できるような「公教育の充実」を、十分な公的予算投入で実現することが強く求められています。

著者情報

武蔵大学教授

大内裕和

おおうち ひろかず

1967年、神奈川県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得。松山大学教授、中京大学教授を経て2022年度より現職。「入試改革を考える会」代表。「奨学金問題対策全国会議」共同代表。著書に「ブラックバイトに騙されるな」(集英社)、「教育・権力・社会」(青土社)、「ブラック化する教育 2014-2018」(青土社)などがある。

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