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なぜ、セクキャバに行った彼はDV加害者プログラムへ通うのか

雨宮処凛(作家、活動家)

 そして思えば、私自身、「してほしくない」と伝えた行動が、相手によって何度も破られた経験を持っていることに気づいた。その相手とはもうとっくに別れたのに思い出すだけで辛いのは、「自分が軽視されている」ことに気づいていて、そのことに当時も深く傷ついていたからなのだろう。だけどその頃、私はそれが「DV」の一つのケースにあたる可能性があるだなんて、まったく認識していなかった。それどころか、「こういうことをしてほしくない」と伝えることで、「理解のない女」「束縛女」扱いされ、嫌われてしまうのではという恐怖だけがあった。

 さて、吉祥さんによると、社会的地位の高い男性が家庭をおろそかにするケースは非常に多いという。

「そういう人こそ、家庭の中で横暴に振る舞い、パートナーを軽視しているケースが多い。高井さんが生まれ変わるには、一番小さい組織の単位である家族の中でパートナーを大事にする。聞く耳を持つ。そういう人にならなければ、国を動かし政策を作る重要なところで、『誰一人取り残さない政治』ができるわけがないと思いました」

 まったくもってその通りだ。

 高井氏はブログ で、〈私の中で最も欠けていたのは「パートナーを思いやる気持ち」と「コミュニケーション」であることがわかりました〉と書いている。文章は、以下のように続く。

〈勉強を重ねていくうちに、日本の男性のほとんどが、実は「DV的発想」を心のどこかに持っているのではないか、と思うようになりました。

 その原因は、子どもの頃から見てきた、教えられてきた「男尊女卑的発想」にあると思います。

 私の経験で言えば、正月やお盆に親戚一同が集まると、食事の準備や片づけは全て女性だけが行い、男性はただ飲んだり食べたりしているだけでした。日本ではそれが当たり前だと、子どものころから刷り込まれていたように思います。

 多くの日本男性の心の中に潜む「男尊女卑的発想」を根本から変えない限り、ジェンダー平等は実現しないと思い至りました。

 既に1年以上通っていますが、まだまだ学びは道半ばです。でもこのプログラムを続けていけば、DV問題だけでなく、ジェンダー問題全般に対する理解が深まり、政策に活かせる気がしています〉

 吉祥さんによると、高井さんはこの1年間、ほぼ皆勤賞でプログラムに参加し続けてきたという。が、まだ「卒業」ではないそうだ。

「1年間通って、自分の考え方に問題があったと気づいたばかりです。ここで告白したことで禊ぎ終了ではない。みなさんどうぞ高井さんを見守ってください」

 続けて、高井さんも言った。

「最低1年、52週通って、パートナーのOKが出たら卒業できるルールと聞いて、『1年か……』と思ったんですけど、1年じゃとても変わらない。一緒に学んでる仲間は4、5年とか、長い人だと10年以上、毎週土曜、通っています。とてもDVをしたとは思えない人が今も通っていて、大きな学びを頂いています」

 プログラムの「卒業」ルールの厳しさに驚いたが、それでも、誠実に話をする高井さんを見ていると、応援したい気持ちになった。

 なぜなら、高井さんには「逆ギレする」という選択肢もあったからだ。

「なんで合法の店に行っただけでDVとか言われて加害者プログラムなんて行かなきゃいけないんだ、みんなやってることじゃないか、ふざけるな」

 そんなふうに開き直る選択だってあったはずだ。というか普通、多くの男性は「あなたのやっていることはDVだ」と指摘されるとキレる。もしくは無視する。しかし、彼は「DVはしていない」と思いつつもそれを受け止め、1年間、徹底的に自分を見つめ直した。

 私の知人男性に、吉祥さんと同じようにDV加害者プログラムの講師をしている人がいる。その男性に、このプログラムは非常に高い人間性を求めていると聞いたことがある。自らを振り返る作業は決して楽ではないだろう。しかし、たどり着いた先に、生まれ変わった人々が多くいるという。

 私はこのような「回復者」の姿に、幾度も感銘を受けてきた。

 例えば覚醒剤で逮捕され、自助グループにつながったことで自らを振り返り、今、様々な形で発信している俳優の高知東生(たかちのぼる)さん。高知さんがツイッターで発する言葉が「深い」と評判だが、「仲間」とともに語る作業という意味では、加害者プログラムと自助グループには共通点がある気がする。

 高知さんだけでなく、私がこれまでの人生で最も感動させられてきたのは、なんらかの事情で「どん底」に落ち、その後、自助グループなどにつながって復活した「回復者」である。その人たちの言葉は、優しく、深く、鋭く、そして人間への深い理解に満ちている。

 高井さんは今回の衆院選で落選したが、当選したら、おそらく日本で唯一の「加害者プログラムを受けた男性議員」だ。ジェンダー問題に対して、どんどん発信してほしい。

 最後に。加害者プログラムを受けるべきは、高井さんだけではない。まずは永田町で、全男性議員にプログラムを受けてほしい。最低でも、みっちり1年間。

 そこからしか、日本社会は変わらないと思うのだ。

著者情報

作家、活動家

雨宮処凛

あまみや かりん

1975年、北海道生まれ。作家、活動家。反貧困ネットワーク世話人。バンギャル、右翼活動家を経て、2000年に自伝的エッセー『生き地獄天国』でデビュー。自身の経験から、若者の生きづらさについて著作を発表する傍ら、イラクや北朝鮮へ渡航を重ねる。その後、格差や貧困問題について取材、執筆、運動を続ける。『生きさせろ! 難民化する若者たち』でJCJ賞受賞。著書に『一億総貧困時代』『「女子」という呪い』など多数。

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