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連載

突然の停電で数十万円 〜詐欺? ぼったくり? その一部始終に立ち会った顛末記

雨宮処凛(作家、活動家)

 それが国境を越えて中国に入った途端、ポツンポツンと灯りが見えてきて、都会に近づきネオンが見えた時、私は同行した人たちとともに「文明だー!!」と歓声を上げていた。同行していたのは当時の私と同じ20代で、北朝鮮に興味があるサブカル系(まさに私がそうだった)や、今でいういわゆる「資本主義キャンセル界隈」な人々。が、みんなが等しくネオンに狂喜し、感極まって「資本主義、万歳!!」と叫ぶ人まで出る始末。そう、どんなに資本主義や文明的なものを否定しても、所詮私たちは電気がなきゃ判断力も思考力も一瞬で奪われてしまう脆弱な存在なのだ。暗闇から一刻も早く解放されたい文明の申し子なのだ。

 そんなことを思い出していた時、パッと部屋が明るくなった。40万円の支払いにA子が同意したため、部屋の電気がつけられたのだ。同時に、ウーンというモーター音があちこちから響く。家電製品が目を覚ました、文明の、命の音だ。

「ありがとうございます!」

 A子と私は目をうるませて、カミヤに頭を下げていた。今の私たちにとって、彼は間違いなく「救世主」だった。

 カミヤは「よかったです!!」と白い歯を見せて笑い、私たちは外に出た。自宅に40万円なんて大金はないため、近くのコンビニで下ろすのだ。A子はコンビニから戻ってくると、マンション前で待っていたカミヤに渡した。すると、「あ、4万円足りないです」と言われた。カミヤが手にする「工事請負契約書」には、工事代金40万円+消費税4万円、計44万円と書かれていた。

「あ、すみません」

 慌ててA子が財布から追加の4万円を渡す。

「ありがとうございました!」

 そうしてカミヤともう一人は颯爽と帰っていった。

「まぁ、むちゃくちゃ高かったけど、よかったよね」

 私たちも胸を撫で下ろし、その日は解散となった。

 それから数週間後、A子の部屋で経験したようなことが、「電気工事詐欺」としてテレビで取り上げられていた。いわく、電気のトラブルが起き、ネットで見た「最短○○分」「即日対応」などの業者に電話したところ、法外な工事料金を支払わされたという相談が相次ぎ、詐欺事件として逮捕者も出ているのだという。

 紹介されていたのは、お金を取られたものの電気がつかなかったというケース。心臓をドキドキさせながら「A子はちゃんと電気ついたから詐欺じゃないよね?」と思っていると、別のケースでは分電盤交換などをして電気がついたという人もいた。が、請求された額が35万円など高額で、通常の分電盤交換は10万〜20万円だという。また、本当は交換や工事は必要ないのにされた可能性もあるということで、最近、「急な電気トラブル」でネット検索する人をあてこんで相場より高い代金を支払わせる詐欺的行為が流行っているのだという。

 頭の中が真っ白になった。思いきり、A子のケースと同じではないか。あれは、あの爽やかな笑顔のカミヤは、詐欺師だったのか?

 慌ててA子にその旨を伝えると、驚愕した様子。また、その手の詐欺は多くのネット記事にもなっていたのでそれを送る。と、ある記事に「消費者ホットライン」に相談したところ、交渉の結果、半額程度が返ってきたというものがあるではないか。

 A子はすぐに電話。そこで紹介された東京都の相談窓口に電話して事情を話し、当日もらった見積書や工事請負契約書を送付。するとクーリングオフの8日間はとっくに経過しているものの、見積書の記載が適当すぎて特定商取引法の書面不備にあたることから、今からでもクーリングオフができるとのこと。そうして相談員に教えられて業者に「契約解除通知書」を書き、郵送。

 また、そのような詐欺業者に工事された場合、配線がめちゃくちゃだったりで危険極まりないとも報道されていたので、東京電力に事情を話して来てもらったところ、交換したと言われた分電盤は交換されておらず、また「開けるだけで10万」と言っていたメーターは開けた形跡すらなかったという。

 配線の方はそれほどひどくなかったものの、ネジの緩みなどが何箇所もあったとのこと。ちなみに今回のように急な停電の場合、東電に連絡すれば24時間対応しているとのことで、業者ではなく最初から東電に電話していれば、もっとずっと安く済んでいた可能性大、ということもわかったのだった。

 さて、窓口に相談した結果どうなったかというと、初めて電話して約3週間後、大きな動きがあった。相談員がカミヤと粘り強く交渉した結果、全額返還は無理だったものの3割返還が決まったのだ。そうしてすぐに13万円ほどがカミヤから振り込まれたという。

 それでも30万円以上は取られているわけだが、A子は「1円も戻ってこないと思ってたからよかった」と晴々した顔で言った。

 ということで、もし、あなたの家の電気が突然消えたら――。

 今言えるのは、焦ってネット検索の上位に出てきた「即日!」などの業者には連絡しない方がいいかもしれないということだ。

 そして今回のことで痛感したのは、暗闇は、びっくりするほど人の判断力も思考力もすべて奪うということ。しかもこれからは、猛暑の季節がやってくる。あれがエアコンが必須の真夏だったら、さらに恐怖を感じていただろう。そしてもっとふっかけられてても、「仕方ない」という気持ちになっていたかもしれない。

 とにかく、あまりにも高い勉強代を支払ったA子には、今度何か奢ろうと思う。

著者情報

作家、活動家

雨宮処凛

あまみや かりん

1975年、北海道生まれ。作家、活動家。反貧困ネットワーク世話人。バンギャル、右翼活動家を経て、2000年に自伝的エッセー『生き地獄天国』でデビュー。自身の経験から、若者の生きづらさについて著作を発表する傍ら、イラクや北朝鮮へ渡航を重ねる。その後、格差や貧困問題について取材、執筆、運動を続ける。『生きさせろ! 難民化する若者たち』でJCJ賞受賞。著書に『一億総貧困時代』『「女子」という呪い』など多数。

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