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連載

変革への闘い

ラテンギャング・ストーリー21 マラスと生きる女性たち~ジェシカ(下)

工藤律子(ジャーナリスト)

「わざとMS-13のタトゥーが見える格好で、M-18の支配地域を歩いたりしました。誰か私を殺して! と心で叫びながら。すると2017年、遂に撃たれました」

 銃弾が肺に近い場所に命中し、ジェシカは1カ月ほど、意識不明の状態に陥る。しかし、それでも彼女は生き延びた。

  • コネーハの夢

「今は神の教えに従い、子どもたちと前を向いて歩いていこうと決めています」

 現在、JHA-JAの活動を手伝っているジェシカは、ジェニファーに話し相手になってもらうことで心を癒やしながら、ホベルが残してくれたものと自分の役割について、考え直している。

「暴力に満ちた世界で生きてきた女、母親として、私ができるのは、これ以上、子どもや若者たちが暴力に関わることを許さないこと、ギャングを生み出さないことだと思います」

自宅の入り口に座り込み、今の暮らしぶりをジェニファー(左)に語るジェシカ。撮影:篠田有史

 幾度もの危険と苦しみ、悲しみを乗り越え、ようやく踏み出した希望への道を、彼女はまっすぐに進もうと努力している。まずは自分自身の子育てをきちんとすることからだ。

「先日、ダニエルがお菓子を手に帰ってきました。『それ、どうしたの?』と尋ねると、『ホーミー(マラスのリーダー)にもらったんだ』と言います。私はすぐに息子を連れて、そのホーミーのところへ行き、『こういうことはしないでください』と伝えました」

 人生経験豊かな母親は、ホーミーの思惑を見通していた。お菓子やジュースで気を引いて、次は「あの辺りで敵が来ないか見張っていてくれないか?」と、ちょっとした仕事を頼む。そうやってプンテーロ(縄張りの見張り役)に仕立てれば、あとは武器の使い方を教え、恐怖心を取り除くマリファナを与えて、本物のギャングに育てるだけだ。その手に乗せられてしまったら、もう抜け出せない。未然に防ぐことが肝心なのだ。

「この間など、近所に住む12歳の少年が、『おばさん、携帯電話欲しいって言ってたけど、これ、100レンピーラ(約450円)で買わない?』と、スマートフォンを持ってきたんです。どこで手に入れたのか聞くと、『学校のビンゴ大会で』と答えましたが、明らかに盗んだものです。私はすぐにその子の母親のところへ行って、危ない道に足を踏み入れないよう注意した方がいいと、アドバイスしました」

 周りに気配りをする余裕ができ、一歩ずつ前進しているジェシカだが、ギャング経験者の多くがそうであるように、時々、精神不安定になり、麻薬に手を出してしまうことがある。過去の体験から生まれたトラウマや不安のせいだ。とはいえ、今の彼女には、そこから抜け出すための信頼できる助っ人がいる。

「つまずいた時は、すぐにJHA-JAを、ジェニファーを頼ります。そしてもう一度、立ち上がるんです。間違いに気づいて、それを認め、再挑戦する。これしかありません」

 そう話すジェシカを、ジェニファーが母親のような顔で見つめていた。

 

 インタビューの翌日、ジェシカは私たちのために、「タマーレス」と呼ばれるトウモロコシを材料にした粽(ちまき)のような食べ物を作ってくれた。料理が好きで、タマーレスなどの伝統的な庶民の料理を作っては販売し、生活費を稼いでいるという。トウモロコシの自然の甘みが生かされていて、なかなか美味しい。

 味付けの上手さに感心していると、ジェシカが口元を緩めて、こう言った。

「いつか自分の店を出せたらと、夢見ています」

ジェシカが作ってくれたタマーレス。トウモロコシの皮に包んで蒸す。撮影:篠田有史

著者情報

ジャーナリスト

工藤律子

くどう りつこ

1963年大阪府生まれ。東京外国語大学地域研究研究科修士課程在籍中より、メキシコの貧困層の生活改善運動を研究するかたわら、フリーのジャーナリストとして取材活動を始める。著書に『仲間と誇りと夢と』(JULA出版局)、『ストリートチルドレン』(岩波ジュニア新書)、『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社、開高健ノンフィクション賞受賞)、『マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』(岩波書店)、『ルポ 雇用なしで生きる スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』(岩波書店)、『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』(集英社新書)などがある。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。

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