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変革への闘い

「社会的連帯経済」への誘い9「豆乃木」 フェアトレードコーヒーで人をつなぐ

工藤律子(ジャーナリスト)

「私たちの組合のコーヒーの60%は、日本と米国とスイスへの輸出、つまりフェアトレードで取引されています。おかげで、私たちの生活は安定しました」
 マヤビニック生産者協同組合(組合員数594人)の代表、アントニオ・ペレス・パチタンさん(61)は、オンラインでのインタビューに笑顔でそう応じた。フェアトレードが協同組合の収入の基礎を支えるようになったことで、労働環境や暮らし、組合の経営状況が良くなったのだ。

現地でコーヒー豆の選別作業に立ち会う杉山さん(中央)。(2016年6月)杉山さん提供

 フェアトレードには、途上国の生産者・労働者が持続可能な形で生活を向上させることができるように、「国際フェアトレードラベル機構」が定める国際基準がある。「生産者の対象地域」、「生産者基準」、「トレーダー(輸入・卸・製造組織)基準」、「産品基準」の4つで構成され、生産者とトレーダーは、これらの基準を守って生産、取引しなければならない。誰でもどんな品でも「フェアトレード」と言えるわけではないのだ。
 4つの基準には、経済・社会・環境の3つの側面において守るべき共通原則がある。経済面では、最低価格の保証、「フェアトレード・プレミアム(奨励金)」の支払い、長期的な取引の促進、必要に応じた前払いの保証などが定められている。コーヒーのような価格変動の激しい作物に対して、最低価格を保証し、必要な時は前払いもするといった長期的視点に立つ取引をすることは、生産者の生活の安定と向上に直結する。
 フェアトレード・プレミアムは、最低価格の保証にプラスして支払われるお金で、生産地のコミュニティ全体の生活向上に生かされている。
「私たちは、フェアトレード・プレミアムのお金でコーヒーの木のまわりに木陰ができるように植林をしたり、水資源を守るために使ったりしています」
と、パチタンさん。それは、フェアトレードの環境面での原則である土壌・水源・生物多様性の保全、有機栽培の奨励などにもつながっている。
 社会面での原則には、安全な労働環境、民主的な運営、差別の禁止、児童労働や強制労働の禁止などが挙げられている。
 これらの基準・原則を守る形で、マヤビニック生産者協同組合は、オーガニックコーヒーを生産し、国外へ輸出。国内では、ほぼ全国に取引先を持ち、サンクリストバル・デ・ラスカサスで経営するカフェテリアでの直接販売も手掛ける。
「2020年には、年間315トンのコーヒー豆の生産を達成しました。そこまで成長できたのは、山本先生や(杉山)セイコのようなすばらしい人たちと出会えたおかげです。パンデミックで、直接会える機会がなくなってしまっていますが、またこちらに来てくれると信じています」
 PC画面の向こうのパチタンさんは、そう微笑んだ。

サンクリストバル・デ・ラスカサスにあるマヤビニック生産者協同組合経営のカフェテリアの前で、杉山さんと記念撮影するカフェテリアのスタッフ。皆、組合員の娘だ。(2012年2月)杉山さん提供

 

互いに想いを馳せる

 豆乃木は、現在、10カ国のコーヒーを、合わせて年間およそ30トン扱っている。その半分は、マヤビニックのものを中心に直輸入したメキシコのコーヒーだ。残りの半分は、ほかの業者から仕入れている。パンデミックが収まり、再び海外の産地へ自由に行けるようになったら、中米やアフリカでもいい産地を見つけて、直接輸入する量を増やしたいと、杉山さんは意気込む。
「自分で直接輸入すれば、生産者とつながれるし、お客さんに伝えられる情報も増えます。コーヒーの価格の変化は生産地の人たちの生活にどう影響するのか、フェアトレードでその暮らしがどう変わったのか、といった情報をていねいに伝えることで、これからも飲み続けたい、生産地の人たちとつながっていたいというお客さんを増やせれば、と思います」
 コーヒーを購入する人の中には、「これを飲むと、どのくらい現地の人に貢献できるんですか?」と尋ねる人もいると言う。そんな時、杉山さんは「コーヒー1杯で、8円程度」と伝えたこともあった。だが、肝心なのは、1杯でどれだけのお金が現地に届くかではなく、飲み続けることで世界をどう変えていくかだと、感じている。
「私は、フェアトレードをやりたかったというよりも、その先に皆が対等でバリアフリーな世界が生まれればいいなと思っているんです。フェアトレードは目的ではなく、手段にすぎない。貧しい『南』の生産者が、富める『北』の消費者のためにコーヒーをつくるのではない、買い手良し・作り手良し・世間良し、三方良しの社会を創るための、1つの手段になり得るということです」
 公正な貿易の先には、平等な世界が見えるということだろう。
「私はもともとコーヒーが好き。だから、まずはコーヒーを通して、皆が互いの姿にちょっと想いを馳せる、といったつながりを、世界中で生み出していければと思っています」

「豆乃木」の事務所の棚に並ぶ、マヤビニックコーヒー。ドリップバッグやカフェインレスのものもある。撮影:篠田有史

 

豆乃木 
事業開始 : 2011年8月
人数 : 杉山さん1人+アルバイト6人
事業内容 : オーガニックコーヒーの輸入販売
モットー : 「物語」と共に、「手から手へ」と届ける。

著者情報

ジャーナリスト

工藤律子

くどう りつこ

1963年大阪府生まれ。東京外国語大学地域研究研究科修士課程在籍中より、メキシコの貧困層の生活改善運動を研究するかたわら、フリーのジャーナリストとして取材活動を始める。著書に『仲間と誇りと夢と』(JULA出版局)、『ストリートチルドレン』(岩波ジュニア新書)、『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社、開高健ノンフィクション賞受賞)、『マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』(岩波書店)、『ルポ 雇用なしで生きる スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』(岩波書店)、『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』(集英社新書)などがある。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。

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