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連載

変革への闘い

「社会的連帯経済」への誘い10 番外編 メキシコ 地域に根ざした社会的連帯経済

工藤律子(ジャーナリスト)

この連載をもとに再構成した書籍『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』が、集英社新書より2025年2月に刊行されました!

 ラテンアメリカには、そこに暮らす人々の人種的・文化的多様性に基づく独自の価値観を取り込んだ「連帯経済」が広がっている。メキシコでは、特に貧しい先住民農民の多い地域における取り組みが、1つの潮流を築いてきた。人口の約36%を先住民が占める南東部チアパス州の事例を通して、メキシコの人たちが築こうとしている持続可能な経済の姿を探る。

 

シェフのクラウディア・サンティス。毎日、チアパス高地の異なる民族衣装を着て、調理する。自身もツォツィル語を話す先住民だ。(自身が経営するレストランKokonoにて)撮影:篠田有史

 

自然と共生する

「未来は、私たちがどれだけ地球環境を正しく理解するかにかかっています」
 先住民の伝統料理を作るシェフ、クラウディア・サンティス(34)は、そう熱を込める。2021年、世界的グルメランキングを発表している「50 BEST」によって次世代の食のイノベーター50人に選ばれた彼女の目標は、単においしい料理を作ることではない。食を通して、自分たち先住民の伝統に息づく「自然との共生」の意識を広め、人種や性別、職業などに関係なく、誰もが誇りを持って健康に生きられる未来を築くことだ。
 チアパス高地の古都サンクリストバル・デ・ラスカサス(以後、サンクリストバル)にある彼女のレストランでは、旬の食材を用いたチアパスの先住民の伝統料理が出される。食材は、毎朝、クラウディア自身が市場へ買い出しに行く。近郊の村の農民が自分の畑でその日収穫した作物を仕入れるためだ。
「彼らは貧しく農薬や化学肥料を使えないので、有機栽培で育てています。その野菜を、彼らが決めた値段で購入します。農民の仕事を正しく評価し、安全で新鮮な食材を手に入れるんです」

 

朝、サンクリストバルの市場で食材を選ぶクラウディア(右)。黄色いのは、カボチャの花だ。撮影:篠田有史

 

 そう説明するクラウディアが使う野菜は、昔から地元で作られ食べられているものばかりだ。
「これはハヤトウリの茎、こちらは根。ハヤトウリは捨てるところがないんです」
 大根の葉や花、インゲン豆やカボチャの花なども食材になる。どれも特定の時期にのみ収穫されるため、レストランのメニューも季節ごとに変わる。クラウディアは言う。
「子どもの頃、毎週訪れていた父母の故郷の村では、食料の大半が、家の周りにあるものでした。畑にはトウモロコシが植えられ、トウモロコシの間には様々な形や大きさ、味、匂いの植物が茂っていました。食べられるものばかりだったんです」
 畑仕事の休憩時間には、それらを摘んで食べていたという。季節によって、飛んでくる羽蟻を集めて炒り、おかずにすることもあった。
「そんな暮らしをしていた祖父母は、とても長生きでした。祖父は92歳になっても畑を耕し、薪を背負って歩いていました。町の60代が慢性的な病いに悩まされているのを見て、食で生活の質が変わるんだ、と思ったものです」

 

レストランの竈で調理するクラウディア。撮影:篠田有史

 

 季節の野菜を食べ、穀物を育てて保存し、家畜を飼い、竈に薪をくべて調理をしてきた先住民は、環境にほとんど負荷をかけることなく、生活してきた。それが大量生産・大量消費の資本主義経済の広がりと共に、変質していく。大規模農園が、農薬や化学肥料を使って安いものを効率よく大量に生産し、スーパーマーケットなどに卸すようになると、政府の補助金を得て真似をする先住民農民も現れる。その結果、自然と共生する暮らしが崩れ、土地は痩せていき、かつて先住民の村ではほとんど見られなかった生活習慣病を患う人も出てきた。人々の健康が損なわれ、環境破壊につながるゴミ問題も生まれた。クラウディアは強調する。
「今“ゴミ”として捨てられている食物の大半は、“利用できるもの”なんです。例えば、主食のトルティージャ(トウモロコシの実を挽いたもので作る薄い円形のパンのようなもの)は、食べ残しが捨てられたりしていますが、時間が経って少し固くなっても、竈の上でトーストすれば、トスターダ(トーストしたもの、の意)にできます。保存が利く携帯食として便利なものです。それがさらに固くなり、そのままでは食べられないとなれば、火にかけたコマル(素焼きの平たく大きな皿)に載せて香ばしく焼き、お湯に入れて“トウモロコシ・コーヒー”にします。それでも余ったら、家畜の餌にすればいいんです」

 

固くなってきたトルティージャは、トーストして「トスターダ」として食べる。日本では、これを小さく砕いたものを、「トルティーヤ・チップス」と呼んでいる。撮影:篠田有史

 

 先住民の生活の知恵を、クラウディアは自らのレストランで実践している。共に働くのは皆、先住民の若い女性だ。
「私のレストランは、ずっと過小評価されてきた先住民女性の仕事がきちんと認められ、彼女たちが夢を抱いて生きられるようになるための協同プロジェクトなんです」

地域に広がる連帯

 サンクリストバルとその近郊には、クラウディアが「同盟者」と呼ぶ仲間が大勢いる。植林、有機農業、困窮者支援、女性支援、伝統文化の継承など、多様な活動を展開する個人・組織が連帯することで、自然と共生する、持続可能で豊かな地域経済を築くことを目指す。
「クラウディアとは、3年ほど前にスロー・フードの取り組みをしたことで、意気投合しました」
 そう語るのは、NGO「コレクティーボ・プラン・ビオマ」を運営するダリネル・バジーナス(37)だ。二人はボランティアと共に市場をめぐり、形が悪い、少し傷んでいるといった理由で廃棄されていた野菜を集めた。
「それを使ってクラウディアが料理を作り、病院や町の広場で振る舞うことで、もう使えないと思っているものでもおいしく食べられることを、人々に伝えました。それから、地域で自然と共生する形の農業を行うために、このコミュニティ・ガーデンを作ったんです」
 私たちが訪れたのは、町の北部にある教会の脇でコレクティーボ・プラン・ビオマが運営するコミュニティ・ガーデンだ。近隣の住民が有機野菜を育てている。自宅の生ゴミもここへ運んできて、コンポスト用容器に入れて堆肥を作り、利用する。

 

 

「コレクティーボ・プラン・ビオマ」を率いるダリネル・バジーナス。パンデミック前は、日本からの若者ボランティアとスロー・フードの活動をしたこともある。撮影:篠田有史

 

著者情報

ジャーナリスト

工藤律子

くどう りつこ

1963年大阪府生まれ。東京外国語大学地域研究研究科修士課程在籍中より、メキシコの貧困層の生活改善運動を研究するかたわら、フリーのジャーナリストとして取材活動を始める。著書に『仲間と誇りと夢と』(JULA出版局)、『ストリートチルドレン』(岩波ジュニア新書)、『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社、開高健ノンフィクション賞受賞)、『マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』(岩波書店)、『ルポ 雇用なしで生きる スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』(岩波書店)、『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』(集英社新書)などがある。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。

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