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変革への闘い

「社会的連帯経済」への誘い16「労働者協同組合法」が創る未来

工藤律子(ジャーナリスト)

 労働者協同組合の設立は、必ずしもうまくいくことばかりではない。高橋さんは、この2年間、九州・沖縄地域で労働者協同組合の立ち上げをサポートするなかで、いくつかの壁にぶつかってきた。特に、「最低賃金以上の収入が得られる事業」の創出と「事業運営に組合員全員の意見をうまく反映する方法」をどうつくっていくかが、難しいが重要な点だと感じているという。
「収入に関しては、地域のニーズにも左右されるので、組合員ができるだけ地域コミュニティに関心を持てるようにすることを心がけています。意見反映の方法に関しては、私たちワーカーズコープ連合会の活動の先行事例を参考にして、時には組合活動の現場を見てもらい、アドバイスしています。例えば、運営会議では、できるだけ多数決ではなく全会一致を目指すための議論を重ねることや、日常的に全員が顔を合わせる時間帯には短時間のミーティングを行うこと、なかなか意見が言えない人がいる場合には事前にアンケートをとることなど。さらには、個別面談をして、一人ひとりの考えを聞き取るようにしていることも紹介しています」
 労働者協同組合は、株式会社やNPO法人、一般社団法人などとは異なり、「実際に汗を流して働く人(労働者組合員)が中心となる組織形態」である分、そこに参加する人全員が協同労働による事業運営をしっかりとつかめるように、細かいサポートをすることが重要だと、高橋さんは言う。
「特にベースとなる組織がなく一から事業をつくる場合は、簡単にはいきませんから、いきなり法人格を取るのではなく、任意団体として試行錯誤する期間をつくるのも大切だと思います。働く者同士が話し合い、試行錯誤するなかで、協同労働が生まれてきて、その結果、労働者協同組合として本格的に始動していく。そういうプロセスが大事なのではないでしょうか」
 高橋さんが行っているような「伴走型」のサポート活動を、ワーカーズコープ連合会では推進している。労働者協同組合設立を目指す人たちを、全国にあるワーカーズコープ連合会の加盟組織とつなぎ、実践現場との関わりを通じて、労働者協同組合の理念と運営を学んでもらうのだ。
 全国からの問い合わせを受ける前出の高成田さんは、この「伴走型」の意義を強調する。
「ワーカーズコープ連合会グループでは、労働者協同組合の作り方や実践のガイドブックもつくりました。また、厚労省のホームページの書類をダウンロードし、こうやって定款を作成し、こういうふうに総会を開いて、と設立手続きの話をすることもあります。でもそれ以上に、40年にわたって全国で行われてきた協同労働のノウハウを共有し、一緒に考えていく“伴走”が、設立の際、一番の力になります」

 

働くことの延長線上に、暮らし

 東京都三鷹市で2022年10月にオープンした「量り売りとまちの台所 野の」は、ワーカーズコープ連合会の「伴走型」サポートを受けながら、労働者協同組合になることを目指して立ち上げられた合同会社(出資者=社員=経営者という形の会社で、すべての社員に会社の決定権がある)だ。高橋さんが語ったように、いきなり労働者協同組合として動き出すのではなく、まずは協同労働の実践に取り組むことが肝心だと考えたメンバーが、設立趣意書や「野の憲章」と呼ばれる目標を掲げた文書を作成し、合同会社として事業を始めた。運営メンバー(社員)は現在、三鷹市と武蔵野市に住む8人。福祉職、料理家、学生など、職歴も年齢も様々な人たちが、互いに声をかけ合い、つながり、協同で事業を運営している。

コインランドリーに併設された「量り売りとまちの台所 野の」の入り口。撮影:篠田有史

 店は、JR三鷹駅から徒歩6分のところにある、しゃれたコインランドリーに併設されたスペース。ガラス張りの入り口を入ると、「まちの台所」と称する飲食スペース(カフェ)とキッチンがある。そこでは、地域で料理を提供したいという人が、日替わりで出店している。その奥に、自然環境に負荷をかけない調味料や野菜、穀類、麺類、飲料、日用品などを量り売りする店がある。ゴミを出さないために、客は自ら容器を持ってきて(あるいは、店に用意されている容器を購入して)、必要な分量だけ買う。また、地産地消を目指すために、できるかぎり地元産の商品を扱い、「まちの台所」でもそれを使った料理を提供する。

量り売りの仕組みを説明するボード。撮影:篠田有史

 メンバー最年少の国際基督教大学(三鷹市)4年生、岡田光さん(24)は、卒業論文を書く傍ら、週に1日、「野の」で働く。持続可能な食と農業システムに関心があり、大学でも「地産地消プロジェクト」サークルで活動してきた。近郊農家が生産する農産物を学生食堂に取り入れたり、学生寮の寮生向けに販売したりするなかで、地域で同じような関心を持つ「野の」のメンバーと出会う。
「最初は、市内に新設されたシェアスペースで量り売りの店を開くことを計画したんです。でも、メンバーそれぞれのやりたいことや、やり方のアイディアの共有などが不十分なまま走り始めたために、目的が不明瞭になってしまい、計画を練り直すことに。ただ、“誰かが代表になるのではなく、全員が経営に関わり、出資して、協同労働でやりたいね”ということは、初めから皆が共有している考えでした」

「野の」の最年少メンバー、岡田光さん(手前右)に話を聞く筆者。撮影:篠田有史

 メンバーは、ワーカーズコープ連合会のイベントや相談会、『協同ではたらくガイドブック』(協同総合研究所)などを通して学び、労働者協同組合への移行を念頭に、合同会社を設立した。
「会社と言っても、メンバー全員が出資し、一人一票の権利を持って経営に携わっている点は、労働者協同組合と同じです」
と、岡田さん。「市民が立ち上げる、草の根運動的なところがいい」と、微笑む。
 皆が意見を出し合い、共に商品の選択や仕入れ、販売などの経験を積んで、事業を軌道に乗せるべく、奮闘中だ。
「野の」の設立趣意書に示された活動方針には、別の職場や職を持っていても地元(地域)で仕事をしてみたいという人が働き、仕事を通じて世の中を変えていきたいと書かれている。メンバーが互いに尊重し合い、働き方や働く場を築く過程を大切にしたい、とも。また、地域につながりを取り戻し、暮らしを自分たちの手でつくりあげることを掲げ、自然に助け合いができる地域づくりを志している。
「労働者協同組合が進める“協同労働”は、働くことの延長線上に暮らしがある、と感じられるところが、魅力です」
 岡田さんはそう話す。

 働くということが、単に金銭収入をもたらすだけでなく、私たちの暮らしを真に豊かにすることにつながる。労協法の施行をきっかけに、そうした働き方への関心が社会へ広がりつつある。

著者情報

ジャーナリスト

工藤律子

くどう りつこ

1963年大阪府生まれ。東京外国語大学地域研究研究科修士課程在籍中より、メキシコの貧困層の生活改善運動を研究するかたわら、フリーのジャーナリストとして取材活動を始める。著書に『仲間と誇りと夢と』(JULA出版局)、『ストリートチルドレン』(岩波ジュニア新書)、『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社、開高健ノンフィクション賞受賞)、『マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』(岩波書店)、『ルポ 雇用なしで生きる スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』(岩波書店)、『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』(集英社新書)などがある。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。

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