「社会的連帯経済」への誘い16「労働者協同組合法」が創る未来
工藤律子(ジャーナリスト)
この連載をもとに再構成した書籍『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』が、集英社新書より2025年2月に刊行されました!
2020年12月に成立した「労働者協同組合法(以後、労協法)」が、2022年10月に施行された。労働者協同組合と労協法については、イミダスの記事「新しい働き方が始まる!『労働者協同組合法』成立で何が変わるのか?」で詳しく紹介されている。労協法が施行され、実際にどのような変化が起きているのか。日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会(以後、ワーカーズコープ連合会)事務局長の高成田健さん(48)、一般社団法人協同総合研究所事務局長の相良孝雄さん(43)らに話を聞き、労働者協同組合を立ち上げようとしている人たちを取材した。

労働者協同組合を立ち上げようとしている「野の」のメンバー。撮影:篠田有史
持続可能な地域社会へ
「実は、2007年から多くの自治体が、労協法を早くつくってほしいという意見書を採択していたんです」
高成田さんと相良さんは、そう明かす。日本の労働者協同組合活動を牽引してきた2団体、ワーカーズコープ連合会と「ワーカーズ・コレクティブネットワークジャパン(WNJ)」が中心となって、20年以上にわたって政府に求めてきた労協法の成立は、何年も前から全国の自治体を含む多くの人たちの念願ともなっていた。特に、ワーカーズコープやワーカーズ・コレクティブの事業が活発に行われている千葉県や埼玉県、長野県、栃木県などでは、全市町村で意見書が採択されており、法律成立時点で全国954の自治体(ワーカーズコープ連合会調べ)が労協法を求める意見を表明していたという。
なぜこれほど多くの自治体が労協法の成立を求めてきたのか。それは、ワーカーズコープやワーカーズ・コレクティブの長年の実践を通して、労働者協同組合が、地域を活性化させ、持続可能な社会をつくるのに役立つということが伝わったからだろうと、2人は考えている。例えば、労働者協同組合と同様に非営利事業であっても、NPO法人の場合は、法律上、働くスタッフは出資ができない。そのため、運営資金はもっぱら助成金や公的事業の委託費、寄付金などに頼ることになり、事業内容も限定される。だが、労働者協同組合の場合は、参加する人たちが協同で出資し、皆で事業を立ち上げ、同じ立場で経営に参加して働く。この「協同労働」と呼ばれる働き方によって、より民主的に、地域のニーズに合った幅広い事業を展開できる。

日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会事務局長の高成田健さん。撮影:篠田有史
「地方創生だとか一億総活躍だとか言われていますが、地域が元気になるには、その住民、市民が民主的かつ主体的に働く場を創り出していくことが大切です。それを可能にするのは、労働者協同組合だということが、ようやく理解されたのでしょう」
高成田さんがそう言うと、相良さんもこう付け加える。
「自助、共助、公助と言われるなか、地域コミュニティが担う“共助”の部分で力を発揮できる主体が、今、地方にはいなくなってきています。そこで労働者協同組合に期待が寄せられています。“協同労働”という考え方で働けば、労働を通じて住民同士のつながりができ、地域への理解も深まって、そこからまちづくりの担い手が生まれてくるからです」
とはいえ、日本ではまだまだ労働者協同組合や労協法のことが、十分には知られていない。その現状を変えるために、ワーカーズコープやワーカーズ・コレクティブはもちろん、各都道府県も労協法についての学習会を開催。厚生労働省も、2022年9月から全国を7ブロックに分け、ブロックごとに「労働者協同組合法周知フォーラム」を開催している。
2人は言う。
「これからが勝負です」
協同労働への共感
労協法が成立した2020年12月以降、ワーカーズコープ連合会には、およそ300件に上る労働者協同組合の設立や協同労働に関する問い合わせや相談が来ているという。
「私は25年間、ワーカーズコープ連合会で働いていますが、労協法の成立以前は、労働者協同組合をつくりたいという話にほとんど出会ったことがありませんでした。景色が一変しました!」
と、高成田さん。法律の成立と施行は、それだけ大きな意味を持つ。相良さんもこう話す。
「問い合わせをしてくる人たちの多くは、法人化の前に、“協同労働をやりたい”と言われます。労協法には“協同労働”という言葉は出てこないのですが、法律ができたことにより、メディアなどで労働者協同組合の働き方から生まれた協同労働という言葉と理念が広まり、既存の労働のあり方とは異なるその働き方への共感が広がっていると感じます」

ワーカーズコープ連合会が母体となって1991年に設立された研究機関、一般社団法人協同総合研究所事務局長の相良孝雄さん。撮影:篠田有史
それを受けて、ワーカーズコープ連合会では今、協同労働に共感する団体・個人とともに「協同労働推進ネットワーク」を各地で設立し、地域で協同労働を推進、支援するためのつながりを広げている。
労働者協同組合の設立の相談を寄せる人たちには、いろいろなタイプがあるという。
まず、既存のワーカーズコープやワーカーズ・コレクティブがそうであるように、すでにNPO法人や企業組合(*)などの別の法人格で組織をつくって事業を行っている人々。実際に協同で民主的な運営を実践している、もしくは目指しているのに、それが組織形態に反映されていない状態から、本来あるべき姿になろうと、労働者協同組合としての登記を考えているケースだ。
また、自治会や障がい者・児の保護者グループ、ボランティアグループ、友人・隣人グループなど、地域にある組織やグループが、自分たちの取り組みを事業として展開するために、労働者協同組合の設立を考えるケースもある。
沖縄県の宮古島の北端で活動する狩俣(かりまた)自治会は、2021年から労働者協同組合の設立を念頭に動きはじめた。同自治会では、少子高齢化が進むなかで、これまでに休園していた幼稚園の再開やその給食づくりの支援など、様々な事業を行ってきた。そうした経済活動を任意団体である自治会が担う場合、もろもろの契約は個人名義となり、働く人たちもボランティアか個人請負にならざるを得ない。そこで、労働者協同組合として事業を展開できるようにすることで、島に新たな雇用を生み出すことを考えたのだ。
その設立をサポートしてきたワーカーズコープ連合会センター事業団九州事業本部・沖縄開発室の元事務局長(現在は関西事業本部本部長)、高橋弘幸さん(33)はこう語る。
「中心となるメンバーの間に対等な関係が築かれている狩俣自治会の活動は、元々“協同労働”と言えるものだったので、労働者協同組合への移行はスムーズにいくと思います。法人化後は労働者協同組合の事業として、地元産の魚を買い取ってつくる惣菜を住民が運営する共同売店で販売したり、高齢者への配食や地域や行政から請け負う清掃業務を行ったりする予定です」
そして11月7日、設立総会が開かれ、労働者協同組合「かりまた共働組合」はまもなく誕生する。
