「社会的連帯経済」への誘い19「労働金庫」 ネットワークで共生社会を築く
工藤律子(ジャーナリスト)
〈ろうきん〉は、金融事業だけでなく、「福祉運動」を通じて、すべての人が共生できる社会の実現を目指していると、山口さんは話す。
「金融事業と福祉運動、どちらか一方ではなく、両輪で運営するところが、〈ろうきん〉らしさなんです」
〈ろうきん〉にとって、福祉運動体としてその時々の社会的課題に対応するのは、重要な役割だ。「労働者福祉協議会(労福協)」が「労働者自主福祉運動」と名づけた相互扶助の運動を展開する中、〈ろうきん〉も事業を通して、労福協とともに様々な課題の解決に尽力してきた。
「特にサラリーマン金融の被害者救済は、大きな取り組みでした」(山口さん)
1970年代後半、消費者金融(いわゆるサラ金)は、法外な金利で債務者を追い込み、多くの自殺者を出した。それに対して〈ろうきん〉は、低金利のローンを用意し、多重債務と厳しい取り立てに苦しむ労働者に借り換えを勧める運動を実施する。そうして返済負担の軽減を図ると同時に、労福協や消費者団体、弁護士と協力して、高金利を規制する法律の制定を訴えた。この問題は1980年代にも再燃し、その時は被害を防止するための対策キャンペーンを全国で展開した。2000年代になって、消費者金融やヤミ金融の被害による多重債務問題が発生すると、高金利で無制限な貸し付けに規制をかける法改正運動を強化。そして2006年、ついに貸金業法の抜本的改正を実現した。
「運動を通じて働く人の切実な声を国に届け、法改正を実現できたことは、働く人のための福祉金融機関ならではのこと。成果を目の当たりにして、感動しました」
山口さんはそう語り、さらにこう続ける。
「日本社会は今、縮んできていると感じています。人口減少で働く人が少なくなる一方で、非正規など不安定な雇用が増えているうえ、コロナで仕事が減り、多くの人が生活困窮に陥っています。そうした中、〈ろうきん〉は返済方法に関する相談や、非正規雇用の人への融資制度なども取り扱い、働く人たちが生活で抱えている課題に、金融を通して取り組み続けているんです」
山口さん自身も、世田谷支店の店長をしていた時代、ある取り組みに力を注いだ。自身が「グッドマネー運動」と呼ぶ金融教育の講座だ。マネートラブル、資産運用、年金など、要望に合わせてテーマを選び、山口さんら〈ろうきん〉職員が会員団体の職場へ出向いて、講座を開いた。そこでどうしても伝えたいことがあったからだ。
「預金や資産運用などを考える前に、まず金融機関を選ぶ基準に“社会性”という切り口を持ってはどうか、ということです」

山口さん(右端)が、NPO法人「アビリティクラブたすけあい(ACT)」とともに実施していたグッドマネー運動の講座。参加した会員には好評だった。(山口さん提供)
自分たちのお金が、金融機関を通して社会でどう使われているのか。それを考えたうえで利用する金融機関を選ぶ、という提案だ。兵器の製造や石炭火力発電所の建設に携わる会社、児童労働を黙認している企業など、社会に悪影響を及ぼしていると考える事業者のもとへお金が流れていれば、自分もその行為に加担したことになる。
「いいお金の使い方をする金融機関を選べば、社会が変わる。私はそう思うんです」
と、山口さん。だから、“グッドマネー”運動なのだ。
講座は、会員である団体側が場所の提供と参加呼びかけを担当し、協同で実施。山口さんとともに講座を企画、主催したNPO法人「アビリティクラブたすけあい(ACT)」の前専務理事、大谷和子さんは、その経験をこう振り返る。
「講座を通して、自分たちがきちんと考えれば、相互扶助や協同の理念を共有する人たちの間でお金を回すことができると知り、安心感を得ました。同じ協同組織として一緒に福祉運動をしている金融機関の人が、親身になって相談に乗ってくれたり知識を提供してくれたりするのは、ありがたいですね」
ここ数年、コロナ禍で一般向けの講座は休止状態だったが、ACT事務局の早川みどりさんも「私たちの共済を扱う会議では、勉強会を続けてきました。講座もそろそろ再開したいですね」と話す。また、現専務理事の相川名美さんからは、こんな抱負も述べられる。
「環境破壊につながる事業などに加担することなく、これからも共感できるお金の使い方を身につけていきたいものです」

「グッドマネー運動」をともに推進した仲間たち。右から、NPO法人「アビリティクラブたすけあい(ACT)」の現専務理事・相川名美さん、前専務理事・大谷和子さん、山口さん、ACT事務局の早川みどりさん。撮影:篠田有史
「共助」そして「多助」へ
共感に基づき、働く人が互いに助け合う「共助」を拡げてきた〈ろうきん〉。山口さんは今、〈ろうきん〉が労働組合や生活協同組合といった会員団体とともに、組織の垣根を超えて、地域の多様な団体や人とつながり、助け合える仕組みをつくるという理想を抱いている。
「個人では解決できない社会課題を、働く仲間が連携して助け合うのが“共助”。その連携を、あらゆる垣根を超えて、職場から地域、社会へとさらに広げていく必要があるんじゃないかと思います」
〈ろうきん〉が誕生した頃に比べると、少子・高齢化の進行、非正規雇用や所得格差の拡大、孤立など、日本社会を取り巻く環境は大きく変化したと感じるからだ。
「課題は多様化しました。職場に労働組合がなく、入りたくても入れない人もいます。支援の行き届かない人たち、誰にも相談できない人たちが大勢いるんです。“誰一人取り残さない社会”を実現するためには、多くの個人、組織がつながり、連帯する仕組みが必要です」
そこには企業のような営利セクター、行政のような公的セクターも加わっていなければならないと考える。
「これからは、共助から“多助”の時代だと思うんです。企業やNPO、労働者協同組合、そして自治体と、地域の多種多様な人がつながっての助け合い、“多助”が求められています。その中で、〈ろうきん〉は、非営利・協同セクターの中核としての力を発揮できると思うんです」
労働金庫
事業開始 :1953年10月
金庫数・店舗数・団体会員数: 13金庫・606店舗・約4万8000会員(2023年3月末現在)
事業内容 : 金融サービス(預金、融資、各種サービス)
モットー : 人々が喜びをもって共生できる社会の実現