仁藤夢乃×メヘルダード・オスコウイ「私たち人類はみな同じ痛みを持っている」
メヘルダード・オスコウイ(映画監督、プロデューサー、写真家、研究者)
仁藤夢乃(社会活動家)
オスコウイ 企画したのはとても著名なソーシャルワーカーと権利擁護団体だったのですが、上映前に「監督、もしこの子たちが映画を観てブーイングをしたり、怒鳴ったり、あなたを罵ったり、席を立ったりしても気にしないで」って言われました。ところが上映が始まっても誰一人動く気配がないし、真っ暗な会場からは鼻をすする音だけが聞こえました。で、上映が終わって明かりが点くと、みな目を真っ赤にしていたんです。映画に共感して、感動してくれたことが嬉しくて、その日私は一晩泣き明かしました。たった一人、または一つの家族でも救うことができたのなら、私は目的を果たしたと思っています。なぜなら私はそのために自殺願望を捨てて、映画監督になったのだから。
仁藤 日本の少年院でも上映できたらいいのに。日本の少年院では自分がやったことに対する反省を徹底されるので、背景にどんな事情があろうとも「私が悪い」「私に原因がある」って思い込まされている子もすごく多い。映画でも法廷で「ごめんなさい」と言うシーンがあったけど、日本では警察に捕まった時なども「とにかく謝っとけ」っていう、あんな感じなんですよ。だけどイランの少女たちは、カメラの前では「本当は私たちは悪くないでしょ?」と自分で言葉にしている。日本ではそういう本音を言える場がないと思います。少年院でそんなことを言ったら外に出られなくなります。「自分が悪い」と思い込まされている子どもたちも、この映画を観れば自分のことを整理できるんじゃないかなって思いました。
オスコウイ おっしゃる通り。この映画の中の彼女たちの多くは、自分では抗いようもない運命の中で犯罪者になってしまった。ただ私が思うのは、起きてしまったことを云々するよりも、親や家族を始め社会の大人たちが、こうした現実に目を向けることで良い方向へ変わってほしいということなんです。
仁藤 私自身はこの映画を観て、収監されている女の子同士の関わりに生じるエンパワーメントみたいなものがすごく描かれていて、いいなと思ったんですよ。それは日本の少年院ではあり得ないことです。日本の少年院では私語は禁止だし、自分のの名前も、どういう罪で入ったかとかも一切話しちゃいけないので……。
オスコウイ そのことについて誰も異議を唱えないのですか? 私は相手が国でも、理屈に合わない、おかしな点があればどんどん質問や抗議をすべきだと考えています。そうでないと権力者たちは保身にとらわれて動こうとしない。
仁藤 そうなんです。まずは声を上げることが大切です。あと、私がこの映画を日本で苦しい状況に置かれている子どもたちにも観てもらいたいと思ったのは、分かろうとしている大人や、同じような経験をしながら生きている子が他にもいることを知ってほしいと思ったからです。とくに日本の一時保護所や少年院の中では誰もが孤独で、一人ぼっちだと感じているから、「そうじゃないよ」ってことが伝えられるんじゃないかなって。それと、私と一緒に観た少年院への入所経験のある女の子が言ったのが、「この施設では痛みを分かち合えるのがすごくうらやましい」ということでした。
オスコウイ もし機会があれば、私もそうした日本で救いを求めている子どもたちに実際に会って話がしたいです。例えば映画を上映してその後で意見交換をするのもいいですね。もしも呼んでいただけたらいつでも行きますよ。
仁藤 女の子たちは、みんな口々に「オスコウイ監督ってどんな人なんだろう?」って話していました。監督はインタビューでも声だけの出演だったから、「すごい気になる」って言ってましたよ。もし本当にそんな機会に恵まれることがあったら、ソマイエも連れてきてくださいね(笑)。
オスコウイ もちろん連れてきますよ(笑)。ただ、ソマイエは渡航ビザをもらえるかどうか……。その時は子どもたちの声を録音して送ってください。彼女たちも顔は出せなくても、音声だけなら大丈夫なのでしょう? そうしたらソマイエに聞かせて、彼女から一人ひとりにメッセージを返してもらいます。インターネットを使ったビデオ通話も考えましたが、ソマイエは恥ずかしくて電話もできないぐらいシャイな子なんです。

映画『少女は夜明けに夢をみる』より 写真提供 : Oskouei Film Production
大人が変わらなきゃいけない
オスコウイ 現在、私は女性刑務所を題材にした新作映画を制作中なんですが、その本編に登場する女の子もこのほど大学に入りました。その彼女が私に向かって、「へぇ、男にもいい人がいるんだ」って言ったんですよ。男は全て大嫌いだったんですね。
仁藤 すごく分かる。私がとても好きなシーンなんですが、イスラム教の法学者が更生施設を訪れた時、彼女たちが「なんで女と男は平等じゃないの?」という質問をその男の人にぶつけますよね。そうしたカットを同じ男性である監督があえて入れていることにも、「分かってる人なんだ」と思いました。
オスコウイ 「なんで女と男は平等じゃないの?」という質問は、私もその子からされました。一応は自分の考えを話したのですが、彼女は私の目を一切見ようとしなかった。「男はみんな大嫌いだ」「男はただ私をレイプしたいだけだ」とずっと言っていました。当時、彼女は14歳でしたが、男は目を見るのも嫌なほどだったんです。話を聞くと、家出した時に街で親戚の男に偶然会ったので、親と仲直りさせてくれると喜んでいたら家に連れ込まれ、仲間を呼んでレイプされたんだそうです。日本も恐らく、イランのように男社会だと思います。男は権力を握ると、女の子たちを「自分のもの」として見がちです。ですから私たちの社会では共通して、女の子たちはとくに傷付きやすいのでしょう。
仁藤 本当に同じような状況だなと思いますね。だから、監督がこの映画で「大人たちに伝えたい」とおっしゃることもよく分かります。私たちもいつも「これは大人や男性の問題だ」「女の子の問題として片付けて、彼女たちが責められるのはおかしい」って言っています。親だけじゃなくて、その子たちと共にある社会を作っている全ての大人が変わらないといけない。家族が近くにいるとうまくいかないケースだっていっぱいあるから、そういう時は無理やり家に戻すんじゃなくて、家庭に代わる場所が社会の中にたくさん増えることが必要だと思って活動しています。
オスコウイ そうして社会の中で傷付いている子を、見ないふりするようなことも許してはいけません。ドキュメンタリー監督として私がなすべきは、蓋を開けて真実を多くの人の前にさらけ出し、あなた方のように救いの手を差し伸べる人たちにつなぐことです。ポーランドでこの映画が公開された時にはものすごい行列ができました。国じゅうのソーシャルワーカー、裁判官、少年院の担当者たちが集まってきているということでした。私たちはみな同じ痛みを持っている、日常ではそれを他人には見せないだけなんだと、改めて痛感しました。そうしたソーシャルワーカーが声を上げ、社会を変えなければならない。
仁藤 日本では、ソーシャルワーカーや福祉に関わる人が声を上げることはほとんどありません。心の中では「本当は彼女たちのせいじゃない」と分かっていても、沈黙している大人がたくさんいます。監督がこの映画を通してされていることって、この子たちと一緒に社会を変えるということなんじゃないかな。それは私も活動の中ですごく大事にしていることなんです。
最後に、日本での私たちの活動を紹介しますね。最近はピンク色に塗ったバスを夜の繁華街に出して、10代の子が無料で入れるカフェを開いています。というのも渋谷や新宿では、少女を風俗産業に斡旋(あっせん)するスカウトが毎晩100人ぐらい雇われて、女の子を勧誘しているんです。家に帰りたくなかったり虐待されてたりする子に、「泊まる所あるよ」とか「仕事あるよ」と誘う人がたくさんいます。それに対抗して、私たちとつながった子と一緒に活動を続けているんです。
オスコウイ 私が知っている中では、そんな感じでポルノ映画にスカウトする人たちがたくさん増えているのはインドですね。以前インドを訪れた時、そんな話を聞きました。でも、これはすごい。いい活動をやっていますね。ちなみに一緒に活動している女の子たちはカフェでどんな手伝いをするのですか?
仁藤 夜の街を歩いている女の子に、オリジナルのカードや生活用品といったグッズを配って、「10代の人は無料のカフェがあるよ」って声を掛けているんです。これがその見本品です。
オスコウイ これ1個ください。これは何ですか?
仁藤 いいですよ、新しいのを差し上げます。これはカードミラーです。行政などが配っているのはたいてい「虐待SOS」「相談しよう」などと書いてあるんですが、そんなのを持ち帰って、もしも虐待をしている親に見つかったら怒られたり暴力を振るわれたりするかもしれない。なので私たちが配るものは、普通のカフェのグッズみたいに見えるようにしています。
オスコウイ とても感動しました。先ほども言いましたが、私たちがやっていることで一人だけでも助けられれば、一人だけでも救われれば、すごくいいことですよね。このグッズはイランのソーシャルワーカーへのお土産にしたいと思います(笑)。
仁藤 はい! 実はこのアイデアは、韓国で行われていた活動から学んで真似したんですよ。
オスコウイ 今回、日本へ行ったら何かいいことが起こるような気がしたんですけど、今日、このグッズを見て「これだった!」と思いました。仁藤さん、みなさん、ありがとう。映画制作にまつわる話だけではなくて、私が一番大切に考えていることの話もできたのですごく嬉しいです。