第3回 江川紹子さん(ジャーナリスト)
社会問題に鋭く切り込むジャーナリストで硬派のイメージが強い江川紹子さんが猫好きだという事実は多くの人にとって、なぜかカルチャーショックなのでした。でも彼女は、ツイッターに「おはようございますにゃん」と書くような人なのです。猫の話をする時、江川さんは、テレビで見る彼女とは全く別の魅力を発信するのです。
猫たちの介護と看取りの1年
加藤 おひさしぶりです。以前、雑誌の企画で猫の対談をさせていただきましたが、あの時飼っていた2匹、今はもういないそうですね。
江川 タレとチビですね。1年の間に相次いで亡くなりました。どちらも19歳でした。「目指せ20歳」だったんですが、だめでした。
加藤 原因は何だったのですか?
江川 タレもチビも最後は腎臓が悪くなりました。
加藤 年を取ってくると腎臓が悪くなる猫はとても多いですからね。
江川 腎臓は一度悪化すると治らないけど、体調が少しでもよくなればと、自宅での点滴(補液)と投薬をせっせとやりましたが、タレが2012年の2月、チビが9月に逝ってしまいました。チビは鼻の奥にがんが見つかり、大学病院で放射線治療も受けました。がんの方は治療の効果が出て、腫瘍が小さくなって容体が落ち着いたんです。その頃、タレは具合がかなり悪くなっていてかかりつけの動物病院に入院していました。チビの最後の放射線治療が終わり、ホッとして家に帰ったらタレが急変したという知らせが入り、まるでチビのことが一段落するのを待っていたかのように息を引き取りました。私の勝手な意味づけかもしれないけれど、タレはチビのがん治療の成功を見届けて逝ったように私は感じています。
加藤 きっとそうですよ。
江川 最後の1年は猫の介護と看取りで終わったという感じです。タレが亡くなった後、チビの腎臓も悪化して食欲も落ち、人の食べ物でもいいから何か少しでも口にできそうなものを探しました。チビが最後に食べたのはウニなんですよ。
加藤 ウニ! 食べるんだ、猫もウニ。
江川 好きだったんです。もちろん、たくさんはあげませんよ。鼻先に少し付けるとぺろっとなめるんです。チビはお刺し身が好きで、私がこっそり食べようとしても絶対に嗅ぎつけて、「何ひとりで食べようとしてんの?」みたいな感じでした。
加藤 確かに、ウニはなめればいいから、ペースト食と言えますね。
江川 そうなんです。だから最後の方はこれだったらいけるみたいな感じで、毎日北海道産は無理なので、ロシア産も取り入れて(笑)。
加藤 幸せな猫たちですね。
タレとチビ、ふたりは仲良し
加藤 タレちゃん、チビちゃんとはどんなふうに出会ったのですか?
江川 最初にうちに来たのはタレで、雲仙普賢岳の噴火災害の取材に行って土石流の跡で出会いました。チビはそれからしばらくして出会った猫で、ケーキの空き箱に入れられてマンションの駐輪場の自転車かごの中に捨てられていたのです。チビはまだオシッコも自分でできないほど小さくて、濡らしたティッシュをお尻にトントン当てて刺激して私が排泄させていたのですが、途中からタレが私の代わりにチビのお尻をなめてやっていたり、トイレの場所を教えたりしていました。タレはまだ1歳になっていませんでしたが、チビの面倒をよく見ていました。
加藤 2匹の仲は良かったんですね。性別は?
江川 両方ともオスです。
加藤 うちはメスが2匹ですが、仲は決して良くはないけど、悪くもない。冬の寒い日は寄り添って寝ている時もあるけど、時々バシッとやってることもあるという感じですね。
江川 タレとチビは真夏の暑い時でもいつもくっついていました。特にチビが甘えん坊。タレは時々孤独を味わいたくてひとりになれる場所を探すのですが、チビがすかさず見つけて、タレがいる狭いダンボール箱の中に入ってました。
加藤 それ、写真からよくわかりますね。タレがいたところにチビが後から来ているでしょ。絶対そう。
江川 わかりますか!? そうなんです。無理やりチビが入ってくるから、いつもタレが枕になっちゃう(笑)。
加藤 オスは去勢するといつまでも子猫の気分が残るようで、甘えん坊でかわいいですね。
江川 そういえば、去勢前はけっこう頬(ほお)が張っていたんですが、去勢したら削げてきたというか……。
加藤 でしょ。ライオンのオスを去勢するとたてがみがなくなるのと同じことなんですよ。
江川 ええっ! ライオンってそうなんですか?
加藤 ライオンのたてがみはオスの第二次性徴。オス猫の頬が張り出すのも第二次性徴なので、去勢したらそれがなくなります。だから、動物園のライオンは去勢ではなくて、みんなパイプカットなんですよ。
江川 それは知りませんでした。
加藤 だって、たてがみのないオスライオンなんて、展示の役に立たないでしょ(笑)。かといって、そのままでは増えすぎてしまうし。猫も最近では頬の張ったオスをめっきり見かけなくなったので、いかに去勢が普及したかということだと思います。ところでタレって名前の由来はなんですか?
江川 甘ったれのタレです。
加藤 なるほど。チビは小さかったから?
江川 そうです。本当にネズミみたいに小さかったんです。最初は2匹飼うのは無理だと思い、ある程度大きくなったら里親を見つけるつもりでした。だから、あまり凝った名前をつけてしまうのもどうかと思って、仮の名前でチビって呼んでいたんです。でも、3時間おきにミルクを与えて世話をしたら、手放せなくなりました。

猫にお仕えする喜び
加藤 猫って2匹以上で飼うと、先住猫が新入り猫にいろいろ教えてくれます。うちの猫たちは代々、棚の上に乗らないんですが、何で乗らないんだろうって考えたら、最初の猫が乗らなかったからなんですね。
江川 うちは本箱の上もテーブルの上も冷蔵庫の上も乗れるところは乗り尽くした感じです。朝、私が寝坊してなかなかごはんを出さないと、チビが本箱の上からお腹めがけて飛んでくることがありました。はっと目が覚めて気配を感じたので、とっさに腹筋に力を入れて防御したんですが、あれ、痛いですよね(笑)。お給仕係はさっさと起きて、お給仕しないとだめってことですね。
加藤 猫が起こしに来た時に起きるから来るんですよ。猫は飼い主を上手に利用しますからね。「猫にしつけられた」って私は言ってるんですが。
江川 私はタレとチビに結構お仕えしてました。
加藤 うちの猫は台所でごはんを食べていたんですが、冬に床が冷たいだろうと思って、ホットカーペットの上に誘導してごはんをあげたんです。そしたら、ある時から私が台所で猫の食事の支度をしていると、ホットカーペットの上で待つようになって、あれ、私なんで猫にごはんを出前しているんだろうって(笑)。キャットフードのCMで「振り回されるって幸せだ~」っていうフレーズがあるんですが、その通りだと思います。
江川 お仕えする喜び、みたいな(笑)。だから今、お仕えする存在がいないのが非常に寂しいです。
加藤 猫の話をして、江川さんの印象が変わりました。世間は真剣な顔つきでオウム真理教問題などを話している江川さんしか知らないから、なんだか怖い人なんじゃないかというイメージでした。でも、なーんだ、フニャフニャの猫好きじゃんって(笑)。
江川 テレビの影響ってどうなんですかね(苦笑)。私はオウムに限らず、社会問題について取材やコメントをすることが多いですから、笑いながらできる話ではないですよね。だから、おもしろい話を聞いて笑ったりすると、「笑うんですね」って言われちゃうんです。そりゃあ普通に笑いますよ。
加藤 ツイッターで「おはようございますにゃん」って書いていることも、何か言われたりしませんか。
江川 言われます言われます(笑)。
加藤 猫好きってそうなっちゃうよね、当たり前です(笑)。
江川 はい、猫はそういう存在ですから。そう言えば、チビは人懐こくて自分が常に注目を集めていたいタイプで、私が取材を受けている時、みんなの視線が私に向いているのが気に入らないんです。オウムについて真剣に話をしているのに、テレビカメラの前にチビがぽんと飛び出してくることがあり、これじゃあ取材にならないからと、キャリーバッグの中に入れると、ニャアニャア鳴いてうるさくて、なかなか収録できないこともありました(笑)。
加藤 猫が出てきたら、頬が緩んじゃいますね。私たちがテレビで江川さんがまじめな顔で話しているのを見ている裏側では、そんなことが起こっていたのですね。
