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連載

第14回 川上麻衣子さん(女優)

人生は猫がいるかいないかの2通り。猫のいない人生は考えられません。

川上麻衣子(女優)

加藤由子(動物ライター)

加藤 川上さんが書かれた『彼の彼女と私の538日』というエッセーを読みました。当時おつき合いしていた彼から預かった15歳の「グリ」という老猫と過ごした日々が写真とともにつづられていましたが、最初は警戒していたグリの顔付きがどんどん穏やかに変化していく様子が伝わってきました。
川上 私もグリがあんなになれてくれるとは思いませんでした。最初は本当にふてぶてしくて怒ってばかりいたのに、私の胸の上にちょこんと座ったときは感動しました。その後、どんどんかわいくなっていきました。
加藤 彼とのお付き合いがうまくいかなくなってもグリだけが残り、グリの最期を川上さんが看取るという不思議な縁でしたね。
川上 私はグリに対してはどこかでずっと申し訳ないという気持ちがありました。もともとは彼の猫だったのに私のところに残してしまったこともそうですし、グリがいたことで彼との距離を保っていたようなところもあったし、病気になってしまったのも、もしかしたらストレスからじゃないかとか、いろいろ考えていたので。
加藤 そんなことないんじゃないかな。川上さんと一緒にいられて、グリは幸せだったと思います。
川上 そう思ってくれていたらいいんですけどね。
加藤 川上さんは猫たちの最期に立ち会って、ちゃんと看取っているのがすごいですよね。外出していて間に合わなかったということも考えられるし、仕事の合間とか、どうなるかわからないですよね。うちにもヨボヨボの18歳がいますから、今、死んでてもおかしくないといつも思っています。
川上 もう絶対に見逃すもんかというくらい集中して私が見ているからじゃないでしょうかね。それに、逝くタイミングは猫が決めるんです。猫はうまい具合にこっちを見ていて、タイミングを合わせてくれているんじゃないかと思っています。それから、猫はそう簡単には死なない。うまく生きるということもわかりました。15歳を超えて17、18歳になった猫は、根本的な生命力が強いので、そう簡単には死なないって獣医さんに言われたんです。19歳で亡くなったリッカには甲状腺機能亢進症の持病があって、具合が悪くて危ない状態になったときと舞台の大阪公演が重なってしまい、覚悟して大阪に連れていったんです。でも持ち直して、その後1年も生き延びたので「あれ?」って。ごめんね、死ぬなんて言ってしまってって感じで(笑)。
加藤 せっかく心の準備もしてたのにね(笑)。
川上 本当にそうですよ。残りの1年間は、リッカからのプレゼントだったという気がしています。
加藤 川上さんのエッセーの中に、猫から死生観を学んだとありましたが、同感です。私は団塊世代の最後のほうで、そろそろ自分の死の迎え方についても考え始める年代ですから、身近にいる猫は死生観を教えてくれる存在でもあります。
川上 猫って最終的には餓死だと思うんです。自ら食べることを拒絶しますよね。
加藤 人間の医師も言っていましたが、だんだん食べられなくなって餓死するのは死に方としてはいちばん楽なんだそうです。食べられないということは体が受け付けないということ。
川上 生きる力がもうないということなんですよね。
加藤 うちの前の猫は腎臓が悪くなって18歳で死んだんですが、だんだん食べなくなったとき、友人の獣医師から自宅での補液を勧められたけど私はやらなかったのです。息を引き取ったと報告の電話をしたら、「何で補液をしなかったの?」と言われて、「苦しんでなかったから」と答えたら、「あんたにわかるはずはない」と言われたんです。だから、今18歳の「まる」には補液を試していて、確かに体力が落ちていくのがガクンとではなく緩やかになった感じはします。どこまでやるかは飼い主の判断次第ですが、猫が苦しまずに逝けるのがいちばんだと思います。
川上 私も過度な延命は反対です。自分が死ぬことを考えると、やっぱり放っておいてほしいと思うし。
加藤 でも猫を残しては死ねませんよね。
川上 もちろんです。周りに猫好きの友達が多いので、もしも私に何かあったら引き取ってね、と約束してあります。

猫は師匠のようなもの

加藤 猫のいない生活って想像できますか?
川上 人生には2通りの生き方があって、一つは猫のいる人生でもう一つは猫のいない人生だって言葉を聞いて名言だと思ったんですが、私は猫がいない人生なんて考えられないですね。
加藤 ほんとに名言ですね。最後にいつも皆さんに聞いてるんですけど、川上さんにとって猫とは何ですか?
川上 え~、難しいですね。私にとって猫……、何ですかね。何だろう? ともに生きているものなので、当たり前すぎて考えたこともなかった。うーん、猫から教わることも多いという点では、師匠みたいなところもあるかな。
加藤 いろいろ教えてくれるのは確かですよね。うちの猫が窓からぼーっと外を眺めている後ろ姿を見ていて、私も生きるって何だろうなんて深いことを考えてしまいました。私たち人間って、生きるためにクリアをしなくちゃいけないものがいっぱいあるような「錯覚」に陥っているでしょ。でも猫はもっとシンプルで、動いて食べて寝る。もし、明日食べるものがなくなってても、あたふたしないでしょうね。ただ「いる」ことが「生きる」ことだという感じですよね。
川上 私たちが生きていて迷うこととか、死んだらどうなるのと思う不安などを超えたところにいてくれる、そういう生き物がそばにいるという安心感みたいなものもあるかもしれません。それに、猫は野性の部分を残しながら、人間とともに生きてくれているのも魅力的です。猫って自分の体の5倍以上の高さまでジャンプできるって言われますけど、人間だったら絶対にそんなに跳べないじゃないですか。違うっていうことはとても神秘的に感じます。
加藤 違う世界がちょっと垣間見えるところも猫と暮らす醍醐味ですよね。すてきなお話をありがとうございました。

■一筆御礼 ~対談を終えて
「猫は逝くタイミングを合わせてくれる」という言葉に同感です。猫との絆がそう信じさせてくれるのでしょう。冷静な死生観は猫への深い愛情故に生まれるのだということも改めて実感しました。私たちは死というものから目を背けて暮らしがちですが、死は生の延長線上に自然に存在すること、幸せな生があれば死は否定すべきものではないことを、私も常々感じています。人にも猫にもいずれ死が訪れることは紛れもない事実、だから今の幸せを大切にし、楽しむのだという川上さんの気持ちがよくわかりました。
 ところで、帰りしなに日本酒がズラリと並んだキャビネットがふと目に入り、思わず「川上さんってのんべなんですか?」と聞いたら、ちょっと恥ずかしそうに「ええ」。あら、私も大いなるのんべです。いつか、ほろ酔いで死生観を熱く語る川上さんに、ぜひまたお会いしたいものです。

写真:慎芝賢

著者情報

女優

川上麻衣子

かわかみ まいこ

1966年スウェーデン・ストックホルム生まれ。14歳で女優デビューし、『3年B組金八先生』(TBS)の生徒役で注目される。以降、数々のテレビ、映画、舞台などに出演。2005年より、ガラスデザイナーとしても作品を制作し、各地で個展も開催。16年10月、スウェーデン直輸入の小物や家具などを販売するショップ「SWEDEN GRACE」を東京・谷中にオープンさせた。また、猫好きのために情報を発信するWEBマガジン「にゃなか」に、「にゃなか市長」として参加、フォトエッセーを連載中。
にゃなか http://nyanaka.com    
SWEDEN GRACE https://swedengracestore.com
(2017.01)

動物ライター

加藤由子

かとう よしこ

動物ライター、エッセイスト。「ヒトと動物の関係学会」監事。1949年生まれ。日本女子大学卒。大学では生物学(動物行動学)を専攻。移動動物園などを経てフリーライターになる。動物、特にネコの生態や行動学に精通し、ネコに関する書籍などを多数執筆している。ネコ関連の著書に、『雨の日のネコはとことん眠い』『ぬき足、さし足、にゃんこ足』(共にPHP研究所)、『ネコを長生きさせる50の秘訣』(サイエンス・アイ新書)、『猫の気持ちを聞いてごらん』(幻冬舎文庫)、『猫式生活のすゝめ』(誠文堂新光社)、『猫とさいごの日まで幸せにくらす本』(大泉書店)、『猫の気持ちは見た目で9割わかる!』(大和書房)ほか多数。

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