第16回 山口恵以子さん(作家)
山口 行き遅れた女が猫を飼ったら、ホントに結婚できないですよ。もうね、「愛し愛されたい」という関係性は猫で満たされちゃうから(笑)。
加藤 猫と人間の男はまた別だと思いますけどね。
山口 別なのはわかるけど、面倒くさいじゃないですか。赤の他人だったら理屈に則って話をすればきちんと通じるのに、結婚して身内になると「理屈ではそうだけど」みたいのが出てくるでしょ。
加藤 それはわかる気もします。山口さんは、結婚は1回もなさってないんですよね。
山口 はい、お見合いは43回しましたけどね。私の持論なんですが、1回結婚したことがある女性はいくつになっても再婚可能だけど、1回も結婚したことがない女性は、この年になったら本当に難しい。素敵な男性がいたら、理想の関係は友達以上恋人未満です。友達なんだけど、ちょっとときめいているというのがいいんです。そういう意味では猫は「いいとこ取り」ですね。相手が人間だと「うるさいからあっちに行ってて」とか言えないけど猫には言えるし、ちょっと冷たくしても猫はまた来てくれる。人間同士だと相手の気持ちというものがあって、こちらの思い通りにはならない。猫だって思い通りにはならないけど、猫とは運命共同体的なところがあるんですよね。
加藤 どんなに好きな男でも嫌いになる瞬間があるけど、猫にはそれを感じないでしょ。
山口 そうそう。男ってどんなに愛情をもって尽くしても応えてくれるとは限らないけど、猫は必ず応えてくれるからでしょうかね。
加藤 子どもには無償の愛を与えることができると言うけれど、それと似たものを猫に与えているってことなのかしらね。
山口 それは言えますよね。100%の愛情をかけても猫が決して裏切らないのは、飼い主がいなければ生きていけないからで、猫は私のすべてを受け入れざるを得ない。対等な関係ではないんですよね。全面的に私を頼って信じてくれる存在なんです。でも、猫は「子どものような存在」とも違う。だって子どもはある程度頼りになるけれど、だいたいにおいて猫は役に立たないもの(笑)。それでも、猫に振り回されて迷惑を被ることがあったって、こんなにも私を信じてくれる存在は他にはいない!
加藤 そう言い切っちゃうのも悲しくないですか(笑)。
山口 でもそうだもの(笑)。そういう関係でありながら、猫は勝手気ままに生きてるわけですよ。犬はもっと飼い主の気持ちを察してお世辞を使うじゃないですか。でも猫は私がいなくちゃ生きていけないくせして、言うこと聞かなかったり私のことを無視したりするわけですよ。そこがかわいいんですよね。
加藤 結局、振り回されるのがうれしくて猫と暮らしているってことなんですね、私たちって(笑)。
◆一筆御礼 ~対談を終えて
感想。よくしゃべる人でした。次から次と話題が出て、バッサバッサと結論を出し、うわさ通り頭の回転が抜群に速い、豪快でおおらかな人でした。「小説のアイデアはどんどん空から降ってくる」というのもうなずけます。「エッセイなら依頼のメールを受けたら、返信するときには書いて渡す」という言葉に、遅筆な私は卒倒しそうになりました。結婚観と恋人観も手を叩きたくなるほど小気味よく、酒なしでこんなにユニークな発想をする人は、お酒が入ったら一体どんな展開になるんだろう? ぜひ見てみたかったと、一升瓶を持って行かなかったことを悔やみました。今度、ぜひ一献お願いします。ところで、お兄様の手しか咬まないというボニーちゃんに私はガッツリ手を咬まれました。これ、一体、どう判断すればいいんでしょう? あれからずっと考えている私です。
撮影:橋詰かずえ