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連載

続・カエルの季節 「めいすいの里山」のモリアオガエル

第25回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 アトリエを取り巻く木々の葉の緑色が濃さを増し、部屋の中がうっすらと暗くなってきました。大気の中に湿気が含まれているらしく、庭を通り抜ける風にも重々しさを感じます。

アトリエの雑木林を散策する。梅雨空の林内は、ほの暗い。

 前回少し触れましたが、私たちが行っている生物調査で、アトリエ近くを流れる大倉川の上流にまだモリアオガエルが生息していることが分かりました。平野部ではほとんど見られなくなってしまい少々気落ちしていた私にとって、これは大変うれしいことでした。
 私が「光の田園」と名付けた仰木(おおぎ)地区のこの谷津田は、比叡山に向かって棚田が続き、天神川から大倉川へ、山に近付くに従って田んぼの面積が狭くなってゆきます。そんな上流域の入口に当たる場所にあるのが「めいすいの里山」です。
「谷津田」というのは山間の谷に向かって三角状に重なる棚田とそれを取り巻く雑木林のことで、異なる環境が箱庭のように集まっていて生物多様性が見られることから、最近注目を浴びている里山環境です。「めいすいの里山」では、放置されていた谷津田に生きものが集まる環境を取り戻すために里山再生プロジェクトが行われており、2017年に活動が始まりました。19年からは「一般社団法人 めいすいの里山」となり、活動はボランティアスタッフの人たちによって支えられています。
「めいすいの里山」については、また別の機会に詳しく話をさせていただくことにしますが、この谷津田にも農業用のため池があり、何とそこにモリアオガエルが生息していたのです。3年前、私がこの土地に初めて出合った時は、ため池周辺の森はひどく荒れた状態でした。もやしのような針葉樹の中に照葉樹が交じり、その合間を埋めるように竹がびっしりとはびこっていました。スギ林なのか、雑木林なのか、竹林なのか全く分からない、手の付けられないブッシュのような森です。もともと雑木林だった所をスギ・ヒノキ林にしたとのことで、スギ・ヒノキが大きく成長し、一度は材木として搬出されたのですが、その後、再び幼木が植えられてからは、残念なことに放置されました。その結果がこの有様です。
 そんな雑然とした暗い森に、モリアオガエルが細々と生きていたことに心から感動しました。この里山の整備が始まって、竹や針葉樹を伐採する時、私の頭の中からモリアオガエルが消えることはありませんでした。何とかしてより良い環境を提供しなければ……。ため池の後ろは一斉に伐採するのではなく、広葉樹は樹形が悪くてもできるだけ残すようにしながら、新たにボランティアの人たちと広葉樹を植えていきました。

「めいすいの里山」で出合ったモリアオガエルのオス。青緑色の体色が美しい。

 その甲斐あって、今年もモリアオガエルの命が無事受け継がれることになりました。白い泡の塊である卵嚢(らんのう)がいくつも木々にぶら下がっています。「めいすいの里山」を応援するスタッフの方々の努力がどうやら実ったと言えそうです。
 モリアオガエルはため池と森を行き来する、里山を代表する両生類。体色であるほんのりと青みを帯びた緑色は、谷津田のみずみずしさを象徴する色なのかもしれません。

庭のデイリリーが咲き始めた。

カンナ、ブッドレア、カラーなど、夏の花が出揃ったら、梅雨明けは間近。

*写真の複写・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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