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連載

おしゃれコンテスト優勝 〜クルマバッタ

第99回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 残暑が厳しい初秋です。ただ、真夏に比べると、気温がいくぶん下がって農作業などはやりやすくなり、ほっとしているところです。「光の田園」の田んぼは黄色。早い所では、稲刈り作業が終わっている所もあります。

イネが実った9月の光の田園。(撮影:今森元希)

 こんな頃、道ばたではバッタが多く見られます。光の田園にも数種類のバッタが生息しています。昆虫の仲間には、とまっている時には体が保護色で目立たず、飛び立つと華やかな姿になるものがたくさんいます。蝶の場合だと、翅(はね)を閉じた時に地味で目立たない隠蔽的な色合いの裏側が見えるけれど、翅の表は鮮やかというパターンが多いようです。また、蛾の仲間には翅を立てずに屋根型に寝かせてとまるものが多く、前翅が枯れ葉に似ていて、静止した時に前翅に隠れる後翅が美しいというケースもあります。
 バッタの仲間も蛾と似ていて、後翅が目立つものがほとんどです。もしも、後翅の“おしゃれコンテスト”があったとしたら、優勝するのはクルマバッタでしょうか。クルマバッタは、トノサマバッタより少し小柄ですが、胸部が盛り上がっているので、野外で出会うとトノサマバッタより迫力があります。よく似た種類にクルマバッタモドキがいますが、クルマバッタのほうがそれより二回りほど体格が良く、なかなかの貫禄です。ただ、トノサマバッタと同じく、体が大きい分、広い草地が必要で、近年ではだんだん見られなくなってきました。

クルマバッタの後翅は、とても美しい。(撮影:今森元希)

 クルマバッタは、とまっている時には見事なカムフラージュを見せます。緑色と茶褐色の複雑な模様は、枯れ草の中に雑然と生えるイネ科植物にそっくりなのです。バッタの好きな環境は所どころに地面がむき出しになった荒野のような場所で、里山では農道や草刈りの管理がなされている広場に限られます。こうした場所には、エノコログサ、オヒシバ、メヒシバなど、いわゆる雑草が生えていて、それらがバッタの餌になります。

クルマバッタに出会える管理された草地。(撮影:今森元希)

 クルマバッタの後翅の模様と色彩は芸術的です。観察会などでこのバッタを捕虫網で捕まえて翅を広げて見せると、誰もが「うわー、きれい!!」と、感嘆の声をもらします。それもそのはず、バッタの後翅をじっくり見る機会なんてめったにありません。クルマバッタの後翅には、名前の由来となる車輪のような太い帯模様がありますが、飛翔する時にいくら目を凝らしていてもこの模様がくっきりと見えることはありません。つまり、野外では普通のバッタにしか見えないのです。
 私は、クルマバッタの観察場所をいくつか知っていて毎年訪れます。農薬など、環境の悪化に弱い昆虫なので心配ですが、草むらに足を踏み入れた時に、クルマバッタが元気に飛び跳ねると心から嬉しくなってきます。

草地にとまるクルマバッタをそっと観察する。(撮影:今森元希)

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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