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連載

親米国コソボからIS戦闘員が生まれる理由

第16回

木村元彦(ノンフィクションライター、ビデオジャーナリスト)

 エミーラはシリアから帰国後、家にこもっている女性をひとりひとり訪ね歩いたという。何も話したくはないという取材拒否が多かった。当然であろう。ここでエミーラのジャーナリスト魂が燃え立った。何度も足を運んで信頼をかちえて肉声を引き出した。

「ある戦闘員の妻は言いました。『私たちは騙されていた。夫からトルコに休暇に行こうと言われて、実はシリアに連れていかれたのです。シリアで生活していた他のアルバニア人女性にも会いましたが、彼女たちも騙されていました。私たちの時間を返して欲しい』と」

 現地で妊娠し、シリアで子どもを産んだ女性もいる。女性はこういうときにいつも二重、三重の被害者になるのです、とエミーラは目を伏せた。「彼女たちはシリアに来た米軍に助けられて、再びトルコ経由で帰って来ました」

 コソボ当局の情報によれば、戦闘員とその家族、約300人のコソボ出身者がISに合流し、このうち79人が戦闘もしくは粛清で殺されている。死者の内訳は76人が男性で3人が女性。また、彼らがシリアにいた間に約60人のコソボ国籍の子どもが生まれている。

シリアからコソボに帰国した女性たち(2019年4月、プリシュティナ)

 これらの事実をエミーラは「シリアの闘いで見た大きな欺瞞」というタイトルで2019年5月20日付ゼーリ紙の記事にした。読者の反響はすさまじかった。

「アメリカは私たちにとっての英雄ですからね。ほとんどすべてのコソボのアルバニア人はそこに敵対する勢力は嫌うんですよ。だから貧困のためにISに向かった人々がいたことは、市民にとっては大きなショックでした」

 3歳で父がジェノサイドの犠牲になり、4歳で自身が難民となり、そして今、記者となって祖国を襲う混乱を最前線で取材している。彼女の人生に思いを馳せると胸が詰まる。それでもエミーラの表情やまなざしには、幾分の憎悪や暗さも感じられない。ただファクトを伝えたいという冷静さと、対象に向ける熱が伝わってくるだけだ。

 エミーラは、「自分がどこにいるのかを確認するためにもジャーナリズムに携わっていきたい」と言う。「殺された父の事件は成人しても受け入れられない部分はあります。コソボの独立は嬉しいこと。しかし、コソボのアルバニア人はコソボのセルビア人と共に生きていくことが、命題であるとも思うのです。だから私の記事も、マジョリティであるアルバニアの民族主義におもねるようなことはしない」

 アルバニア・ナショナリズムが目立つコソボでも、かように民族属性に縛られない若い知識層が育っているのもまた事実である。

いびつなコソボ支援構造

 一方で、コソボとISの関係は、独立後も、コソボの経済格差が埋まっていないことの証左でもある。もともと、コソボは旧ユーゴスラビアの自治州だった時代から自立した経済状況にはなかった。北部の豊かな工業国であるスロベニアやクロアチアが、コソボなど旧ユーゴの貧しい地域を支えていたのであるが、その支援元が現在では欧米諸国に代わったに過ぎない。

 OECD(経済協力開発機構)のデータベースによれば、コソボに対する国民一人当たりの援助額は世界でもトップクラスで、サハラ以南のアフリカ諸国よりも多いという。もしもコソボが経済破たんをしたら、NATO軍や欧米諸国が旧ユーゴスラビアに対して行ったことの大義が根底から問われてしまう。それゆえに欧米諸国は意地になって援助を続けているが、矛盾だらけのこの支援構造を揶揄し、EUのお荷物となったギリシャのことを「コソボ化」と呼ぶ者さえいる。

 唯一の産業と言える観光は、皮肉なことに、世界遺産に指定されているペーチ(コソボ北西部の都市)郊外のデチャニ修道院にせよ、ビザンチン文化のグラチャニッツァ修道院にせよ、セルビア正教と関わりが深い建築物なので、「コソボはセルビアの聖地」であるというセルビアの主張を補強しかねない。そのため、コソボ政府もあまり積極的にPRできないのが現状である。

クリントンを歓待するコソボ

 エミーラを取材した6月12日は、NATOによるユーゴ空爆20周年を祝う式典の当日でもあった。ゼーリ紙編集部を出て、はて、今回の式典の主役の一人であるクリントンが、プリシュティナのどこに泊まっているのか、考えてみた。当たりをつけたのは、ダイヤモンドホテルだった。かつてここには、イリリアというドミトリーの安宿があり、イタリア軍が駐留していた。それが今では、西側の資本によって超高級ホテルに建て変えられている。入り口のカフェで張り込んでいると、突然SPの集団に先導されて本人が出てきた。

「ビル・クリントンだ」たちまち、第42代米国大統領は民衆に囲まれて大歓迎を受ける。空爆を主導した男が、満足げに鷹揚に握手や写真撮影に応じるのを見るにつけ、暗澹たる気持ちになった。

 本コソボ取材の半年後、米国はイランのスレイマニ司令官をドローンによるミサイル攻撃で殺害した。またしても国連を通さない、国際法に反する行為であり、主権国家に対するテロである。21年前のユーゴスラビアを想起せずにはおられない。民主党であろうが、共和党であろうが、米国の体質は変わらないのか。

著者情報

ノンフィクションライター、ビデオジャーナリスト

木村元彦

きむら ゆきひこ

1962年、愛知県生まれ。中央大学卒業。東欧やアジアを中心に、スポーツ文化や民族問題などの取材、執筆活動を続ける。著書に『誇り』(98年、東京新聞出版局)、『悪者見参』(2000年、集英社)、『終わらぬ「民族浄化」セルビア・モンテネグロ』(05年、集英社新書)、『蹴る群れ』(07年、講談社)、『社長・溝畑宏の天国と地獄』(10年、集英社)、『争うは本意ならねど』(11年、集英社インターナショナル)、『徳は孤ならず』(16年、集英社)、『橋を架ける者たち』(16年、集英社新書)、『無冠、されど至強』(17年、ころから)、『コソボ 苦闘する親米国家 ユーゴサッカー最後の代表チームと臓器密売の現場を追う』(23年、集英社インターナショナル)など多数。『オシムの言葉』(05年、集英社インターナショナル)で第16回ミズノ・スポーツライター賞を受賞。

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