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連載

ロヒンギャ難民キャンプにコロナ蔓延の兆し

第18回

木村元彦(ノンフィクションライター、ビデオジャーナリスト)

――危険ですね。現在はどのような啓発活動を行っていますか。
木田 直接的な接触を減らすようにしていこうとしています。例えばモスクでのお祈りに併せて啓発メッセージを伝えています。予防法は何なのか、ソーシャルディスタンスとは何なのか、など、どういうことについて住民が知りたがっているのかを、現地のボランティアにリストアップして送ってもらって、それに従って、啓発メッセージを発信しています。

ネットの使用制限が難民の命を脅かす

 現在、ミャンマーとバングラデシュの両政府は、抗議行動やデモなどを起こされないよう、治安維持を名目に通信業者に指示を出し、ロヒンギャが居住する地域のインターネット使用に制限をかけている。きっかけとなったのは19年8月25日、難民によって行われた大きな政治集会であった。それは「ミャンマー政府が剥奪したロヒンギャの市民権を再び認めない限り、帰還はしない(できない)」ということを声明として出したものである。外国籍であることにされてしまえば、帰国できたとしても、いつまた国外に排除されてしまうか分からないのだから、極めて真っ当な主張であった。しかし、集会を問題視した両政府により、通信制限はその後1年近く続けられている。

 危機的な状況にある難民も国内避難民も、携帯やスマートフォンだけを命綱として逃げてきているというのに、SIMカードの使用が規制されているために、ネットを通じてコロナに関する有益な情報に触れることができない。この措置について、人命に関わる喫緊の問題であるとして、MDMをはじめとする26の人道支援団体は、解除を求める要請を両政府に出している。それでもまだ解除の兆しは見られない。日本でそうであるように、感染者の数や、クラスタの発生した場所、予防や治療に関する情報共有においてネットの情報は極めて重要である。しかし、それが両政府の強権によって使えないのである。ただでさえ水や衛生用品に限りがあり、人工呼吸器に至っては無いに等しい状況の中、これでは、予防に関する知識まで取り上げられているに等しい。

現地では、いま…

 バングラデシュでMDMと協働しているNGO職員のアバヤッド・リアズにも、リモート取材で現場の状況を訊いた。

アバヤッド・リアズさん

――現在、コロナの検査はどういうかたちで行っているのでしょうか。
リアズ 医療ボランティアたちが、感染に注意しながら、シェルターを一軒一軒回り、唾液と鼻水のサンプルをコックスバザールに持ち帰って検査しています。陽性が出た場合は、キャンプの中に10カ所ある施設で隔離することになっています。濃厚接触で無症状の人は、別の施設で14日間の隔離。隔離についてはやはり問題を孕んでいます。

――医療従事者がキャンプ内に入ることも制限されているそうですが、約85万人のメガキャンプを診る医師はどこから来ていますか?
リアズ ほとんどがバングラデシュからです。いろいろなNGOが派遣をしているので、正確な数は把握できていませんが、少ないことは確かです。他に国連から8名ほど来ています。

――キャンプの人たちのコロナに対する意識はどうですか?
リアズ 残念ながら認識率が高いとは言えません。しっかりと認識しているのは、2割ほどの人でしょうか。残りの8割のうちほぼ半分の人たちは、コロナなどという病気は作り話だとして、信じようとしません。また、正しいイスラムならコロナにはかからないという風評も出ています。その病気は悪いことへのバチだと言うのです。悲しいことにインターネットも使えないので、現在のキャンプでは感染症に対する正しい知識を得る機会がなかなかないのです。

――診療にかかる人の数も減少していると聞いていますが、その傾向は変わりませんか。
リアズ そうです。もともとミャンマーでは、医師の処方箋が無くても薬がもらえるという制度なので、ロヒンギャも同様に少しのことでは病院に行かないという習慣なのです。クリニックに来る人たちは減り続けています。

――感染者に対する差別や中傷による事件は起きていませんか。
リアズ 感染者に対する偏見は残念ながらあります。怖いのは犯罪の勃発です。秩序が保たれていたキャンプが、病気の蔓延によってすさんでいきます。バングラデシュの行政もコロナ禍では自国のことで手一杯で、例えば警察などをキャンプに入れて秩序を保とうとするところまではいかないのです。

 ラカイン州、コックスバザールにおける通信制限の一刻も早い、解除を求める。
 次回は、キャンプ内で現在起きている問題についてリポートする。

著者情報

ノンフィクションライター、ビデオジャーナリスト

木村元彦

きむら ゆきひこ

1962年、愛知県生まれ。中央大学卒業。東欧やアジアを中心に、スポーツ文化や民族問題などの取材、執筆活動を続ける。著書に『誇り』(98年、東京新聞出版局)、『悪者見参』(2000年、集英社)、『終わらぬ「民族浄化」セルビア・モンテネグロ』(05年、集英社新書)、『蹴る群れ』(07年、講談社)、『社長・溝畑宏の天国と地獄』(10年、集英社)、『争うは本意ならねど』(11年、集英社インターナショナル)、『徳は孤ならず』(16年、集英社)、『橋を架ける者たち』(16年、集英社新書)、『無冠、されど至強』(17年、ころから)、『コソボ 苦闘する親米国家 ユーゴサッカー最後の代表チームと臓器密売の現場を追う』(23年、集英社インターナショナル)など多数。『オシムの言葉』(05年、集英社インターナショナル)で第16回ミズノ・スポーツライター賞を受賞。

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