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性知識イミダス:フェムテックでわかった「女性の月経周期」、ほんとのところ

イミダス編

 月経について、知られていないことは多い。その最たるものは、医師向けの教科書などにいまも記載されている月経や妊娠についての基礎情報が、60年ほど前のデータをもとにしていることだろう。たとえば日本産科婦人科学会によると『正常月経周期』の定義は25~38日とされているが、これは群馬大学が1962年に2026名を対象に行った調査結果をもとにしている。また、年齢による月経周期の変化に関するデータは、なんと1960年代のアメリカ人女性、たった数百人のアンケートをもとに算出されている。人種、環境の違いや、約60年間で変化したライフスタイルのことを考慮すれば、こうした「基礎情報」は本当に実態に即したものなのだろうかという疑問が否めない。そんな問題意識のもと、現代日本女性約32万人の月経周期データを解析するという大規模調査が行われ、2020年1月にその結果が発表された。
 これほどの調査を可能にしたのは、今、注目の「フェムテック(FemTech)」である。これは英語で女性を意味する「female」と、技術を意味する「technology」を組み合わせた造語で、近年になり、月経、妊娠・出産、乳がんなど女性特有の病気、性生活に関することなど、女性のからだに関するさまざまな問題をテクノロジーで解決するサービスやグッズを指すものとして使われている。
 今回の調査では、いわば日本のフェムテックの先駆けである生理日管理サービス「ルナルナ」のビッグデータが活用された。最新データによって明らかになった事実とは、どのようなものだったのだろうか。

●ビッグデータが向上させた「データの解像度」

 国立成育医療研究センターと「ルナルナ」などを提供する株式会社エムティーアイによる月経周期に関するビッグデータ解析が始まったのは、2019年5月。使用されたのは、2016年から2017年に「ルナルナ」に登録された月経周期(約32万人、約600万周期)に関する情報である。
「今回の調査が画期的なのは、従来、アンケートに頼っていたデータをビッグデータに置き換えたことです。生理日管理サービスのデータを活用した研究は、世界的にもほとんど例がありません」と今回の共同調査に参加した国立成育医療研究センターの医師、鳴海覚志内分泌研究部基礎分泌研究室室長は話す。

鳴海覚志医師

「これまで年齢変化の基準として広く知られてきた1960年代の米国のデータは650人(3万月経周期)を対象としたもので、特に研究協力者が少ない10代と40代後半のデータについて正確性という点でも疑問がありました。ただ、アンケートによる調査では数百人、せいぜい数千人が規模としては限界ということもあり、その後行われた同様の調査でも、分析結果にはそれほど大きな違いが出てこなかったのです。一方、アプリに集積されたデータは何万人、何十万人とまさに桁違いです。我々は『データの解像度』という言葉を使うのですが、画像の解像度と同じで、データの情報量が多ければ多いほど解像度が上がり、見えてくるものがあります。たとえば、従来の研究で対象とされていたのは15歳から50歳の月経がある成人女性で、その中では年代別の区分けはされていなかったのですが、今回は15歳から1歳刻みでデータを取ることができました。それにより年代別の特徴が明らかになっただけではなく、15~21歳の女性については月経周期が短いグループと長いグループのふたつに分かれるのではないかという、かなり細かいところまで見えてきています」

 短時間でこれだけのデータを集めることは、累計ダウンロード数約1500万(2020年3月時点)の「ルナルナ」だからこそできたことだろう。日根麻綾ルナルナ事業部長によると、「ルナルナ」は過去にも何度かユーザーに対し、調査研究を目的としたアンケートや情報提供の呼びかけを行ってきたが、多くのユーザーは非常に協力的だという。
「アンケートのテーマによっては1週間で2万~3万サンプルが集まることもあります。もちろん、月経はセンシティブな情報なので『勝手に見られるのは嫌だ』というご意見もいただきますし、こちらとしても研究を行うにあたっては必ず倫理審査委員会を通し、なんのための研究かということをユーザーの方々にもお伝えしています。ご希望があれば情報を提供できないようにする仕組みも整えていますが、実際に『使ってほしくない』という方はごくわずかです。むしろ、『自分のデータが社会の役に立つ研究に使ってもらえるのだとしたら、どんどん使ってほしい』という声がとても多いですね。これはおそらく、ユーザーの方たちご自身が月経にまつわることで心身ともにネガティブな経験をされてきて、そうした問題を解決したいという思いをお持ちだからではないかと思います」
「女性のよりよいヘルスケアの実現には、月経や妊娠しやすさに関する質の高い基礎的情報の拡充が必要」と日根さんは言う。月経や妊娠について60年も前のデータがずっと使われ続けてきた背景には、月経は妊娠だけではなく成人女性の日々のQOL(Quality of Life=クオリティ・オブ・ライフ。生活の質)にも影響が大きいにもかかわらず、「命に関わるようなことではないとの理由で、これまではお金をかけて大規模に調査されることがなかったということがあるのではないか」という。
「ただ、最近では『フェムテック』という言葉も生まれ、女性のヘルスケアが注目されていますし、月経に対するタブー意識も特に若い世代では希薄になってきています。流れは大きく変わりつつあると実感します」

日根麻綾さん

●月経周期に関係があった要因、なかった要因

 調査では、「月経周期と季節の関係」「月経周期と居住地の関係」「月経周期と年齢の関係」という3つのテーマに沿って、約32万人、600万月経周期の情報が分析されている。このうち、「最初のふたつに関しては、『ほとんど影響がない』という結果となった」と鳴海医師は言う。
「この3つはどれも、数百、数千のデータで検証することは非常に難しいテーマです。他国にない日本の特徴として人種や文化、生活習慣にそれほど大きな違いがない一方、春夏秋冬の季節や地域ごとの気温や日照時間が異なるということがあります。人間も生き物ですから、季節や居住地の環境に影響を受けていた野生動物時代の名残が部分的にあるようで、実際、以前に行った研究では『0~1歳の子どもの身長は夏に一番伸びる』という結果が出ているんです。もっとも結局、月経周期については季節も居住地もほとんど影響がないということがわかりましたが、これだけ大量のデータで検証できたので、これはもう間違いがないといえるでしょう」
一方、年齢と月経周期の関係については、15歳から5歳ごとに区切って月経周期データを解析したところ、年代によって月経周期が変化することが具体的なかたちで見えてきたという。
「日本産科婦人科学会は『正常月経周期』を25~38日としていますが、『10代後半は月経周期が「短い」人も「長い」人も多い』『月経周期の平均値は25歳頃に最も長くなり、その後45歳にかけて、最長期に比べて平均値が約3日間短くなる』ということが明らかになりました。今回の調査では、なぜ年齢によって月経周期が変化するのかというメカニズムまでは解明できていないのですが、たとえば『45歳にかけて月経周期平均値が約3日間短くなる』ということについては、今回の研究の少し前に行われた海外の共同研究でも同様の結果が出ており、人種に関係なく、月経周期は閉経期までの約20年間で3日間短くなると考えられます」
 これらは、臨床現場では経験知としてすでに知られていたとも言えるが、信頼あるデータに基づき一般化して説明できることで、医師の経験の多寡にかかわらず、よりきめ細かい診察も可能になる。
「『正常』とされる25〜38日の月経周期は15~19歳で77%なのに対し、20~24歳で82.3%、25~29歳で86.1%、30~34歳で87.6%と、30代に向かうにつれ、月経周期が安定する人が増える方向に推移しています。ですから、たとえば10代後半と30代とでは『月経周期24日』の意味合いがかなり違ってくるということになるでしょう。通常、『月経周期24日』は頻発月経とみなされますが、10代後半の女性に対しては『年齢が上がれば長くなっていく可能性が高いので、少し様子を見ましょう』というアドバイスを、医学的な裏付けをもってできるようになります」

●月経・妊娠の基礎情報がアップデートされる

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イミダス編

いみだすへん

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