性知識イミダス:乳がんについて知ろう~治癒の鍵は定期検診と「ブレスト・アウェアネス」
イミダス編
(構成・文/加藤裕子)
数年前、ハリウッド俳優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、遺伝子の病的変異で将来的に乳がんになる確率が非常に高いとの診断を受け、予防的観点から乳房を切除したことが話題となりました。こうしたタイプの乳がん(HBOC:hereditary breast and ovarian cancer syndrome、遺伝性乳がん卵巣がん症候群)は日本人乳がん患者全体の約3〜5%と言われ、発症年齢が30~40代前半に多く、通常の乳がんより若いという特徴があります。HBOCかどうかは、血液検査で調べることができます。ご本人が乳がんか卵巣がんを発症されているなど、いくつかの条件があてはまる場合は検査が保険適用になります。既にがんを発症していても、HBOCだと判明することで、その後の治療で適切な対処をしたり、近親者に遺伝カウンセリングを受けてもらうなどの対策を立てたりすることができます。
「ブレスト・アウェアネス」で普段の乳房の状態を把握
2年に1度の検診をまじめに受けていても、見えにくいがんもありますし、検診と検診の間で見つかる「中間期がん」も、なかなかゼロにはなりません。乳がんは比較的進行が遅いですが、中には大きくなるスピードが速いタイプのものもあるので、検診とは別に月に1度、自分で自分の乳房をチェックするのが理想的です。このチェックは、20~30代のうちから習慣化していただければと思います。
乳房のチェックと言っても、難しく考える必要はありません。「ブレスト・アウェアネス」、つまり普段から自分の乳房に関心を持つことが大切です。触るたびに何か異常がないかと一生懸命探すのではなく、毎月触って普段の状態を知っておけば、「あれ、今までなかったものがある」と、変化に気づきやすくなるでしょう。閉経前の女性は、生理が始まって10日頃の乳房の張りが少ない時期に、閉経後であれば自分で日を決めてチェックし、何かおかしいと思うことがあれば放置せず、乳腺科を受診してください。
乳がんの症状で一番多いのは、しこりです。まれに、しこりをつくらないタイプの乳がんもあり、この場合に見られる症状は、腋(わき)の下のリンパ節の腫れや乳頭からの出血、びらんなどです。乳房の痛みから「乳がんではないか」と病院に来られる方もいますが、がんのしこりは基本的に痛みがないのが特徴で、痛みがある場合はおそらく乳腺症など他の病気だと考えられます。

島津製作所ウェブサイト「SHIMADZU PINKRIBBON PROJECT」、「自分で見つけよう」(明石医師監修)をもとにイミダス編集部作成
手術には様々な方法がある
乳がんになっても、できれば乳房を切除したくないという方もいらっしゃると思います。胸に対する思い入れは人によってかなり違いますが、好き好んで乳房を切りたいという女性は少ないでしょう。しかし、今のところ、乳がんの基本となる治療は手術です。薬物療法や放射線治療を行うとしても、必ず手術と組み合わせる形になっています。現在、手術をしない治療の臨床試験が行われていますが、試験に参加するには、がんのタイプをはじめ、多くの条件があり、また結果が出るまで数年はかかると思われます。
乳がんの手術はからだの深部ではなく、いわば「表面」の手術ですから、患者さんの体への負担は少ないほうだと思います。腋の下のリンパ節(腋窩〈えきか〉リンパ節)に転移していなければ、術後のリハビリもそれほど大変ではありません。ちなみに、現在では乳がん患者の約8割がリンパ節に転移する前にがんを見つけられています。
転移の有無を調べるには、以前はリンパ節を切除する「腋窩リンパ節郭清〈かくせい〉」が行われていましたが、今はリンパ節を一部分とって検査する「センチネルリンパ節生検」を行い、転移がなければ腋窩リンパ節郭清は行わないのが一般的です。なお、センチネルリンパ節生検は腋窩リンパ節郭清よりも、腕のむくみなど、検査後のからだへの負担がかなり軽くなります。
どのような手術をするかは、しこりの大きさや、病巣の数や位置などによって違ってきます。乳房をすべて摘出する(全摘)のか、乳房を温存するのか、乳輪を残すのかなど、さまざまな方法があるので、主治医と相談しながら、患者さんにとってベストの治療法を探っていきましょう。
がんの広がり具合によっては、患者さんが乳房を残したいと希望しても、全摘せざるを得ないこともあります。その場合は、なくなった胸のふくらみをパッドで補ったり、乳房を再建したりすることで対処が可能です。乳房再建には、自分の腹部や背中の組織を移植する方法とシリコンの人工乳房を埋め込む方法があり、いずれも保険適用です。再建手術を行うときの担当は乳腺科から形成外科に移りますが、ふたつの科で連携して治療を進めていきます。100%元通りの乳房にはならないものの、技術も進歩しており、いろいろな方法がありますので、乳がん手術のときと同じく、主治医と相談の上、患者さんが納得できる選択をされるとよいと思います。
まずは公的機関が発信する情報を集めよう
一口に乳がんと言ってもさまざまで、治療の選択肢も多く、治療のオーダーメイド化も進んでいます。
乳がんについてわからないことや不安なことがあって調べたいというときは、まずは各地域のがんセンターや対がん協会、病院の公式サイトなど、公の組織が発信している情報を見るようにしましょう。日本乳癌学会の『患者さんのための乳がん診療ガイドライン』(書籍で販売されている。日本乳癌学会のサイトからも閲覧可能)もお勧めです。数年おきに情報がアップデートされ、患者さんたちも編集に携わっているので、一般の方が読んでもわかりやすく書かれていると思います。
ネットで情報を集める中では、知らず識らずのうちに偏った情報ばかりに接してしまう危険性もあります。たとえば、「乳房を切りたくない」という想いが強い方がネットで検索しているうちに、「切らずに治せる」と謳うサイトに誘導され、いつ誰が書いたかわからない不正確な情報に振り回されたり、不安につけこまれて効果も不明な高額商品を売りつけられたりして、適切な治療を受けるタイミングを逃してしまうということも起こり得ます。がんについての情報は、それが信頼できる発信者によるものかどうかを確認するようにしましょう。
「よくわからないから、先生がいいと思う方法でやってください」という患者さんもけっこういらっしゃいますが、そういう「おまかせ」は医師との信頼関係がきちんと成り立っていることが前提になると思います。もし、乳房を残したい、これから子どもがほしい、早く仕事に復帰したいなど、なんらかの希望がある場合は、それに沿った治療法のご提案をすることができますので、遠慮せずに医師に伝えましょう。
診察では時間が足りなくて医師に質問できなかったというときは、病院によっては、がん看護専門看護師などの専門資格を持つ看護師が相談を受け付けています。また、かかっている病院で活動している患者会に話を聞いてもらうのもひとつの方法です。研修を受けた乳がん体験者がピアサポーター(患者と同じ立場に立って支援を行う人)として支援している病院もありますし、東京近郊であれば、「マギーズ東京」という、患者やその家族、友人など乳がんに関わる人なら誰でも無料で相談できる施設を活用されてもよいでしょう。