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連載

連載書籍化スペシャル ゲスト/ニシダ(ラランド)

鴻池留衣(小説家)

ニシダ(芸人/小説家)

会社員を書いてみたい?

鴻池 ニシダさんの作品の話なんですけど、拝読して気になったのが全部、「僕」とか「私」の一人称で書いてますよね? これはこだわりがあるんですか?

ニシダ いままで読んできた好きな小説が一人称だったんですよね。あと、単純に三人称で書くの難しいなと思ったんですよ。

鴻池 僕は三人称のほうが楽ですけどね。むしろ、一人称のほうが自分=語り手になってしまいそうで書きにくい。

ニシダ 三人称のほうが語り手と距離が取れますもんね。

鴻池 そうなんですよ。だから自分のヤベぇ性癖とかを書いても、三人称だと「俺じゃないよ」とエクスキューズができる。三人称のほうが書きたいことをいくらでも書ける気がするんです。

ニシダ 自分は何度か三人称にチャレンジして挫折してるんですよね。三人称で書くと、主人公や登場人物がプロット通りに動いてしまう感じがする。こちらの作った話に都合よく人が動く。小説が設計図通りに進むのが嫌なんですよ。一人称のほうが自分でも思ってもみない方向に人物が動く感じがするんです。

鴻池 へぇー、その感覚は僕にはないですね。

ニシダ 一人称のほうがより自分に近い語り手を設定できて、ほかの登場人物がきちんと〝他者〟になってくれるというか。そういう感じもあるかな……。

鴻池 でも、ニシダさん自身の体験そのままを書いているわけではないですよね。いわゆる私小説ではない気がします。それで言うと、いままで芸人の話は書いたことないですよね?

ニシダ 芸人の話はいまちょっとチャレンジしているところです。

鴻池 あっ、そうなんだ!

ニシダ 純文学で芸人の話だと、又吉さんの『火花』があるんでね。どう書こうか悩ましいところですね……。

鴻池 そっか。でも、芸人観みたいなものは又吉さんと違うわけでしょう? 

ニシダ ええ、なのでまだ自分なりの芸人の物語の〝書きしろ〟みたいなものはあるとは思うんですよ。いま、書いているところです。

鴻池 楽しみですね。

ニシダ やっぱり、社会人経験がないので、会社員とか書きたくてもわからない。この間、『新潮』に書いた短編(「けれど思い出す」)では、主人公をデザイナーにしたんですけど、知り合いに取材して書いたんですよ。「会社の中で、実際、何してるの?」とか「お菓子とか置いてあるの?」って聞いたらその友人は「お菓子あるよ」って(笑)。

鴻池 確かに会社の中のことは、実際入らないとわからないですよね。

ニシダ そうなんです。なので、いまだと新規採用の応募者に向けて、会社案内の動画がYouTubeに上がってますよね。それを観て書きましたね。

鴻池 何をもって〝社会人〟と言うのか、微妙ですよね。出版とか編集の人、テレビやマスコミ系の人もいわゆる、会社員、社会人とも違うようにも思えるし。朝、決まった時間に出社しないだろうし。

ニシダ 自分の場合は会社員のイメージは父親なんです。

鴻池 お父さん、何をされているんですか?

ニシダ 去年、UBEという化学メーカーの社長になったんです。

鴻池 えっ、すごい!

ニシダ 山口にあるけっこう大きめの会社の社長です。

鴻池 じゃあ、ニシダさんは、お坊ちゃんなんですね(笑)。

ニシダ ただ、父は成り上がって社長になったんで(笑)。子供の頃から、裕福だったわけではないですよ。とはいえ、特別、貧乏な生活をしたとも思ってないですけど。父は40年以上、同じ会社に勤めて社長になったんで、自分の中では父の勤勉な姿が会社員のイメージなんです。父以外の会社員を知らない。

鴻池 僕は前に、舞台演劇をテーマに小説を書いたんですけど、取材まったくしなかったんです。でも、舞台の裏側をリアルに書けていると演劇関係者の人に言われてびっくりしました。小説は対象を描写することによって、何らかのリアリティが自ずと発生するものなのかもって思いました。

ニシダ 確かに。自分も取材していないところは想像で補ったけど、そんなに間違ってなかったみたいでした。

鴻池 たとえば、漫画だと全部、絵を描きこんで情報にしなきゃいけないから、読者に正誤の判断が生まれるけど、文字はそうじゃない。

ニシダ 読者が書いていないところを勝手に補完してくれるところがありますね。

鴻池 そうそう、読者のイメージに頼れるので小説の場合はあまり書き過ぎないほうがいいかも。

ニシダ 会社でも芸能界でも、人が集まると大体、同じことが起こるんですよね。

鴻池 だから、昔の小説も僕ら楽しめるんでしょうね。

ニシダ ええ、古代中国の王朝の話だって楽しめるわけですから。

実は手書きで書いています

鴻池 ものすごいお忙しいと思うんですけど、執筆時間はどうやって確保してます?

ニシダ ありがたいことに、最近はほぼ毎日仕事をしているんですけど、7時間は睡眠時間を確保したいので、その時間が取れれば寝る前とかに1時間でも2時間でも書いたり、仕事と仕事の合間の時間に書くことも多いですね。

鴻池 まめまめしいですね。

ニシダ 丸一日、執筆時間に費やせる日はあんまりないかな。でも、1日あっても逆に書けなかったりする。

鴻池 ちょっとした合間のほうが捗(はかど)るときはありますね。僕も電車の中でスマホに書くことありますよ。

ニシダ 実は自分は手書きで書いているんですよ。

鴻池 おお! 田中慎弥スタイルだ(笑)。

ニシダ というのも、パソコンが苦手で……。

鴻池 はっ? パソコンが苦手ってどういうこと(笑)。

ニシダ 速くタイピングすることができない。最初は、パソコンで執筆していたんですけど、「パフェ」と打ちたくて、「パ」を打って「フェ」のFを探しているうちに、そもそも、何を打ちたかったのか忘れてしまった(笑)。

鴻池 ははは(笑)。ニシダさん、デジタルネイティブの世代でしょう。

ニシダ ええ、でもダメなんです……。手のほうが速いので手書きです。パソコンだと人差し指で1文字ずつ、ゆっくり、ゆっくりなんです。

鴻池 意外ですね。

ニシダ 手書きはめちゃくちゃコスパ悪いですけどね。すぐ、無くすし。

鴻池 無くす?

ニシダ 書いた紙をどこかに無くしちゃう。

鴻池 編集者に完成した原稿を送るのも紙ですか?

ニシダ ええ、原稿用紙に手書きです。KADOKAWAの担当編集者さんから、「手書きで書かれている方は、ニシダさんと、赤川次郎さんしかいません」と言われました(笑)。

鴻池 そうか(笑)。いや、でも芸人のお仕事もされて、書く時間を確保するのはすごいですよ。しかも、この業界そんなに原稿料もらえないじゃないですか。

ニシダ いや、自分は給料制なんですよ。

鴻池 あっ、歩合じゃないんだ。

ニシダ だから単価関係ないんです。うちは個人事務所で、社員全員、給料制なんです。それこそ、小説を書いても、原稿料を直接もらっているわけではないんです。芸人で小説やエッセイを書きたい人っていっぱいいるんですよ。でも、書けない最大の理由は、執筆期間を取れない。執筆期間はテレビの出演本数とかを減らさなきゃいけなくなるんです。

鴻池 それで、書くのを諦めている芸人さんもいるんですね。

ニシダ 大きい事務所に所属している芸人だとやっぱり難しくなりますよ。ギャラが減ると生活できなくなるんで。それに比べて、うちの事務所は、今月いくら稼げるかみたいなものがないので、「粛々と自分のできることをやろう」というマインドで執筆の仕事もできるんです。

鴻池 じゃあ、この発表された2冊の本は、ニシダさんの雇用形態が生んだものとも言えますね(笑)。

ニシダ ええ(笑)、個人事務所であることの強みです。

著者情報

小説家

鴻池留衣

こうのいけるい

1987年埼玉県川口市生まれ。慶應義塾大学文学部仏文科中退。2016年「二人組み」で新潮新人賞を受賞してデビュー。著作に『ナイス☆エイジ』(新潮社 2018年)、『ジャップ・ン・ロール・ヒーロー』(新潮社 2019年)がある。

芸人/小説家

ニシダ

にしだ

1994年山口県生まれ。2014年、サーヤとともにお笑いコンビ「ラランド」を結成。
著書に『不器用で』、『ただ君に幸あらんことを』(KADOKAWA)がある。

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