imidas - 情報・知識&オピニオン

連載

第10回 続々・沖縄の旅

前野健太(シンガーソングライター/俳優/エッセイスト)

 6月23日、沖縄慰霊の日。沖縄は暑かった。支度をしてモノレールの駅へ向かい、県庁前まで。県庁から無料のシャトルバスに乗り平和祈念公園へ。途中列をつくり、歩いている人たちがたくさんいた。公園へ向かっていた。公園へ着き、小腹が空いたので食堂で沖縄そばを食べる。暑いので麦わら帽子を買う。少し小さかったかもしれない。

 式典まで時間があったので資料館へ。空は青く、海も青かった。平和の礎(いしじ)という沖縄戦で亡くなった方の名前が刻まれた石碑の間を歩く。外国の方の名前もたくさんある。資料館で展示を見ていると、80代くらいの男性が、小学生くらいの女の子に強く何かを語りかけていた。女の子は何度か頷き、父親の方へ小走りで向かった。次にその男性は自分に向かって、何か強く語った。展示の仕方がよくない、こんなことでは伝わらない、そんなことを言った。こんなもんではない、こんなものではない、そう言った。
 式典の時間が来たので会場へと向かった。大きなテントの中に入れそうだったが、外で聞くことにした。玉城デニー知事が喋り出すとぴゅーと口笛が鳴った。最後に沖縄の言葉で締めくくると、大きな拍手、そして口笛が鳴った。その後岸田総理が喋り出すと、どこからか男性が叫んだ。もっと沖縄のこと考えてやれよ、そう言ったのか、ざざーっと警察がその男性を取り囲んだ。野次馬根性を発揮して自分もその男性の方へ駆け寄った。ただ興味があったのだ。その男性の表情、歌心みたいなものが見たくなった。どういう熱情を発しているのか。駆け寄ると、その男性は冷静だった。取り囲んだ警察をゆっくり諭すと、今度は複数の取材カメラ、アナウンサーの質問に応えた。だれも何も言わなかったら黙殺されちゃうでしょ、見過ごされちゃうでしょ、そんなことを言っていた気がする。
 式が終わり、ゆっくり海の方へと向かった。式典に参加した人たちはバスや車で帰っていったが、式とは関係なく、続々と公園へ人は集まり、平和の礎の前でご飯を食べたり、花を手向けたり、それぞれ大切な時間を過ごしているように感じた。広場では音響のセッティングをしていて、これからコンサートが開かれるようだった。音響のチェック、軽くリハーサルのようなことをしていたので、座って眺めていた。キーボードを演奏しながら歌う人と、三線で歌う人のセッションがあり、そのリハを聴いて、ウッと胸を突かれてしまった。なんていい歌なのだろう。夏の空、夏の海、空に吸い込まれていく歌声。風景と歌と歴史、詳しいことはわからないけど、思いを馳せる、祈る、そのような感情が音楽に乗って風に流れていくようだった。このコンサートは見たい。時間を確認すると、帰りのバスをずらせば見られる。見ていくことにした。

   この平和ミニコンサートは主催者が資料館の館長に話を持ちかけて実現したものだと、MCで喋っていた。さっきリハで歌っていたシンガーが主催者で、本番も素晴らしく、その場でCDを購入した。いつかこういう場所でも響く歌を作れたら、と思ったが、無理なような気もした。自分の歌は適当すぎる。
 陽がゆっくり傾いてきて広場の中央にある「平和の火」が目立ってきた。帰りの無料バスはとっくになくなっていて、通常の路線バスまでだいぶ時間があった。この日くらいは遅くまで臨時のバスを出せばいいのに、と思った。県外から来る人はあまり想定に入れていないのかもしれない。もうすっかり夜の帷(とばり)が下りてきて、広場に設置された装置から、強烈な光線が空に向かって伸び始めた。さらに平和の礎の方では、なにやら強い明かりも見える。その方へ行くと、たくさんの照明が焚かれ、大勢のスタッフが動き回っていた。テレビカメラが動くレールも敷かれ、腕章にはよく知ったニュース番組の名前が書かれていた。入念にカメラチェック。さあ本番まで時間がないぞ。ディレクターらしき人の声がかかる。
 そろそろ帰りのバスの時間だ。バス停に行くと、数人並んでいる。やはりバスで移動する人もいる。みな車というわけではないのだ。バスは無事に来て、一番後ろの席に座った。体は疲れ切っていた。前日のライブ、その前に行った読谷、金武(きん)、コザ。歩き回った。金武、コザについては書けなかったが、他の街と変わらず、飲み屋に入り、店の人の話を聞き、常連さんと少し話す。ガラケーで写真を撮らせてもらい、あら、まだガラケーなの、なんてやり取りがある。金武の郵便局の近くにあった小学校、丘の上から海が見えた。下校中の小学生が元気よく走っていた。スナックに沖縄そばのノボリ。入り口は暗い。恐る恐る入ると、スナック。昼間のスナック。沖縄そばを、とママに注文。基地の話を少し聞く。こっちはもらった、こっちはもらってない、そういう話はよくある。補助金の話だ。なんだかなあと思いながらそばを啜る。汁までうまい。ただの土、ただの大地じゃねえか、丘じゃねえか、海じゃねえか。外へ出ると眩しい。暗がりのスナックにいたから外が眩しすぎる。金武の小学生たちの笑顔が印象に残ってる。はしゃぎ続けるべきなんだ。

 那覇に戻り、腹が減っていた。平和祈念公園で2回沖縄そばを食べたが、それ以外は食べていない。宿の近くを歩き回り、飲み屋があったので入った。男性が2人で飲んでいた。1人はスーツで、1人は旅行者という感じだった。沖縄もアメリカじゃなくイギリスに占領されてたら、車社会じゃなく、鉄道が通ってただろうね。そんな会話が聞こえてくる。明日は東京へ帰る日だ。最後に沖縄っぽいものを食べよう。女将さんおすすめの料理をいただく。沖縄に何をしに来たのだったか。とにかく歩いた。ただそれだけ。店に入れば料理を出してくれて、飲み物を出してくれる。話を聞けば、何か話してくれる。沖縄ならそれが沖縄の話になる。他の街なら、他の街の話になる。それだけのこと。店の人たちはみな優しく接してくれた。常連のおじさんと店のママが話している雰囲気を感じられたらそれで十分。深掘りはしない。ちょい掘りはするけど、こねくり回したりはしたくない。ただ、その表情は、いただく。その人と過ごした短い時間、確かな時間、がそこにあるから。じゃなきゃ旅をする意味がない。
 お会計をすると、女将さんがこれお土産にどうぞ、とサーターアンダギーを持たせてくれた。大好物のサーターアンダギーだ。少し小ぶりのアンダギー。宿で食べようか、歩きながら食べようか。街はまだこれからという感じで、若い人たちがはしゃいでいた。金曜日の夜だった。

著者情報

シンガーソングライター/俳優/エッセイスト

前野健太

まえの けんた

1979年2月6日生まれ、埼玉県入間市出身。2007年『ロマンスカー』によりデビュー。ライヴ活動を精力的に行い、「FUJI ROCK FESTIVAL」「SUMMER SONIC」など音楽フェスへの出演を重ねる。俳優活動においては、主演映画『ライブテープ』が第22回東京国際映画祭「日本映画・ある視点部門」作品賞を受賞。NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』他、TVドラマ、CM、映画、舞台に出演。エッセイ集『百年後』を刊行するなど、文筆活動にもファンが多く、他アーティストへの楽曲・歌詞提供も行う。最新アルバムは『営業中』(2024年)。文芸誌『すばる』ではエッセイ「グラサン便り」を2014年から2022年まで約8年にわたり連載。

関連記事

新着記事

imidasの更新情報をお届けします。