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「国として、どうなの?」と思わされた統計不正問題。 いったい何が行われたのか? なおも残る課題とは?

あなたは統計不正問題を理解していますか?

伊藤圭一(全労連常任幹事、雇用・労働法制局長)

 2019年の国会質疑には、15年当時の首相秘書官や統計情報部長らも呼ばれています。当初は、野党の質問に対し「記憶にない」を連発しました。しかし、先に紹介した生々しいメールが明らかとなるや、首相秘書官は「首相の指示はない、自分の思いを述べただけ」、統計情報部長は「自らの意思で決めた」と答弁。首相の関与を否定しました。安倍首相も、状況証拠をもとに迫る野党の追及に対し、「統計をいじってアベノミクスを良くしようとしている、そんなことできるはずがないじゃないですか」と答弁。統計への政治の介入を否定して、焦点を当初の不正調査に限定し、厚労省職員のミスや職務怠慢、幹部の監督不行き届きの問題に矮小化させ、「再発防止への努力」で逃げ切ろうとしています。
 しかし、国会で明らかにされた状況証拠から見て、政治による統計への圧力があった疑いは濃厚といわざるをえません。サンプルの部分入れ替え方式の採用は妥当との見方もありますが、「常用労働者」の定義の見直しや、その実施の仕方、「ベンチマーク更新」の際のギャップの遡及改定の中止などは、統計の専門家たちからも疑問を突き付けられています。
政策決定プロセスの面でいえば、「毎月勤労統計の改善に関する検討会」において有識者がいったんまとめた結論が、官邸か、首相秘書官か、統計部長の一存か、いずれにしてもそれらの鶴の一声で、正式なプロセスを経ずして変更させられてしまうなどということは、あってはならないことです。

 振り返ってみれば、森友学園の土地取引をめぐる財務省による不当値引きと公文書の改ざん、加計学園獣医学部の国家戦略特区指定をめぐる疑惑、防衛省の南スーダンPKO自衛隊の日報隠し、厚生労働省における裁量労働制に関するデータ捏造とデータ隠し、法務省による外国人技能実習生の失踪動機調査結果の捏造、そして毎月勤労統計不正問題とあわせて再度関心が高まっているGDPのかさ上げ疑惑(国際基準への対応を口実に無関係な項目でGDPを増やして見せた)など、官邸周辺の不祥事を隠し、官邸の意に沿うように、官僚が文書や統計を改ざんする例は、枚挙に遑(いとま)がありません。背景には、官邸による人事権の完全掌握と、本省係長クラスまで目を光らせて官邸に忠誠を誓わせ、時として不正をもさせてしまう人事権の恣意的な運用の問題があります。「官主導から政治主導へ」を掲げた行政機構改革が、誤った方向に進んだ結果であり、修正が必要です。

 また、不正調査の背景には、2001年の小泉政権から加速した聖域なき構造改革による予算削減と公務員リストラ問題があることは想像に難くありません。厚生労働省や総務省統計委員会の対策には、こうした視点が欠けています。毎月勤労統計調査の調査票の配布・回収は機関委任事務であり、国が自治体に費用を出しますが、特に大規模な事業所数が多い東京には多額の費用が必要です。そこに事情を無視した予算削減が課せられたことから、担当部署が抽出による調査対象削減という逃げ道を考えたのではないか、それが不正調査の動機だったのではないか、と推察されます。
 統計に携わる職員は、総務省や厚労省など各省に約1950人、統計センターを含めて2600人いるそうですが、2004年に比べ、現在では4割に削減されています。同様のことは、調査を支える自治体においても進んでいます。毎月勤労統計調査を含む56ある基幹統計のうち、24で不正・不適切な処理が発覚した背景には、予算も人も減らされ、質の高い統計の維持ができなくなっているという現実があるのだと思います。

 今回の事件を契機に、調査の民間委託を進めようとの意見も出ていますが、特定業界の利益誘導的な調査となったり、個人情報の流出・不正利用のおそれがあるのではないでしょうか。昨今の政府が所管する審議会のありようを見れば、利益相反行為の可能性はないとは言い切れません。時の政治権力の意向に左右されず、調査対象の実態を客観的に測定するブレない公的統計の確立をはかる方向が正解であり、そのためにも、今回発覚した政治介入疑惑についての真相究明も重要です。
 不正の再発防止と統計の質の向上にかかわっては、公務員リストラの悪影響を踏まえ、統計部門における適正な予算と職員定数の確保、専門家の採用・育成、統計作成プロセスの第三者検証システムの確立、記録の保管方法の見直し、データの利用のしやすさの向上などを進めていくべきです。今回の不正の直接の発見者は、統計委員会でしたが、異常を最初に検知したのは、統計利用者でした。データのアクセスを容易にし、利用しやすくすることは、データの不具合を発見することに効果があると考えます。
 国民が高い関心を持ち、政府・与党と野党の間でしっかり議論してもらいたい課題に経済政策があります。ところが、経済情勢認識の基礎となる賃金の動向が検証できない。経済政策の妥当性についての論争で一致させておくべき基礎情報が、統計不正によって確定できない。過去15年の政策判断を誤って導いたおそれもある。これでは、まともな国家とはいえないのではないか。政府・与党、そして行政は、批判に真摯に向き合うべきではないでしょうか。

著者情報

全労連常任幹事、雇用・労働法制局長

伊藤圭一

いとう けいいち

1997年より全労連事務局へ。2002年より全労連常任幹事。最低賃金、労働法制などの政策課題を担当。1999年日産リストラ対策現地闘争本部員、2007年反貧困ネットワーク設立メンバー、2009年年越し派遣村実行委員。共著に『最低賃金で1か月暮らしてみました。』(亜紀書房、2009年)、『デフレ不況脱却の賃金政策』(労働運動総合研究所編、新日本出版社、2012年)など。

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