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外環道陥没から「大深度法」を読み解く

リニア中央新幹線でも大深度掘削が始まる!

樫田秀樹(ジャーナリスト)

 この大塚さんから、さらに驚くべき情報を知る。都市部ではないので、大深度法の対象外だが、地下40m以深の工事が地表を陥没させた事例が以前にもあったというのだ。その一つとして、大塚さんは、「03年に北陸新幹線の工事で、長野県飯山市のトンネル直上で『直径50m、深さ30m』の陥没事故が起きましたが、トンネルはその190mも下にあったんですよ」と教えてくれた。

 この件を調べるとこういうことだった。
【事例1】飯山トンネル
 03年9月11日、午前3時5分から22時までの間にトンネル内が4回崩落。特に、3回目の崩落で「ドン」という音とともに約9000m3の土砂がトンネル内に流入し作業用重機を約100m流した。4回目の崩落で、約3万m3もの土砂と泥水が約1.2kmにわたり流入。機械類のすべてが550m押し流され、圧砕された。この崩落で190m上にある地表では、直径50m、深さ30mの陥没が起きた。
 トンネル掘削により断層が薄くなり、その奥にあった高い圧力のかかっていた地下水が断層を破壊したことが原因とされている。(参考文献:「トンネル施工中に発生した大規模な岩盤崩落―北陸新幹線飯山トンネルの事例―」、『日本材料学会学術講演会講演論文集』第55巻、pp.145-146)

 同様の事例を二つ紹介する。
【事例2】湖北トンネル
 92年2月14日、長野県の国道142号線のバイパスとして建設中だった湖北トンネルで、切羽(掘削面)の奥からガラガラと音がして、「ドドーン」という音に続き鉄砲水が噴出し、トンネル内を土石流が襲った。作業員たちは必死に逃げた。流入土砂は1万4000m3に上る。80m直上の地表では、直径25m、深さ30mの陥没が起きた。
 地下水を通さない粘土地層が掘削され薄くなったことで、高圧で閉じ込められていた地下水と砂とが混ざり合って泥水のように噴出したと見られている。(参考文献:石井正之「トンネル異常出水」、『地学教育と科学運動』第78巻、pp.97-98)

【事例3】日暮山トンネル
 99年12月9日、群馬県の上信越自動車道で建設中の日暮山トンネルが崩落。トンネル内で土石流が発生し、切羽から160m後方まで押し寄せて、60m間にわたって8000m3の崩落土砂で埋め尽くされた。原因としては、事前調査の予測と違う地層であったこと。トンネル上方にあった圧力のかかった地下水が、それを閉じ込めていた泥岩層の掘削により噴出したことでの崩落だった。その結果、130m直上の地表で直径30m、深さ18mが陥没した。(参考文献:「記録的な大崩落とその対策」、『土木学会年次学術講演会講演概要集』2002年第57回第6部門、pp.321-322)

 この事例2と事例3は大深度法施行前の事故であった。前出の「臨時大深度地下利用調査会」は都市部での調査に集中していたとはいえ、これら事実を知らずに大深度の地盤を「固く変形しにくい」と結論付けたのだろうか。

法的な問題

 調布市の陥没事故を受け、今、戦々恐々としているのは東京都大田区の田園調布や世田谷区東玉川地区だ。というのは、21年4月以降、リニア工事のため、品川駅近くから直径14mのシールドマシンが大深度で発進し、1年半から2年後にこれら地区田園調布の住宅街の真下を掘進するからだ。
 田園調布の住民が計画を知ったのは、JR東海が住民説明会を開催した18年5月以降だが、その東玉川のルート直上の住民の一人である朝倉正幸弁護士は「自宅の真下に!」と驚き、すぐにリニア工事や大深度法の問題点を調べた。その結果、以下の結論を持つに至る。

【憲法29条違反】
 「大深度であれ個人の所有権は及ぶのに、この法律の第25条によると、所有者の承諾なく、しかも無償で、事業者の使用権が設定されてしまう。これは『財産権の侵害』を禁じた憲法29条違反です」
 この見解が共有されると、田園調布の住民が中心となり、19年1月、リニア計画沿線に住む約560人の住民が「大深度地下使用認可の取り消し」を求める「審査請求書」を作成し国交省に提出した。
 また、外環ルート周辺の住民もその約1年前の17年12月、国を相手取り、「大深度法は違憲。その無効性を訴える」として「東京外環道大深度地下使用認可無効確認等請求事件」と題した訴訟を提起し、現在も係争中だ。その主任弁護士である武内更一弁護士は、以下の問題点も指摘する。

【地下物件は補償されない】
 大深度法では、地上にはそもそも損害が発生しないとの前提で、補償を想定していない。ただし、大深度にある井戸や温泉の源泉やパイプなどは例外だ。だが、第37条ではこう定めている。(カッコ内は筆者注)
「(それら施設に)具体的な損失が生じたときは、(土地所有者は)告示の日から1年以内に限り、認可事業者に対し、その損失の補償を請求することができる」
 この条文のポイントは「告示の日から1年以内に限り」というところだ。
 武内弁護士は「外環の使用認可の告示は14年3月28日です。でも、大深度工事が始まったのは3年も経った17年以降です。これは実質補償しないと言っているのと同じです」と強調した。
 ちなみに、リニアの大深度工事の使用認可の告示は18年10月17日。だが、2年以上経った今も未着工。つまり、誰も補償されないのだ。

山梨県の実験線でのリニアモーターカー

住宅街への危険

 武内弁護士はさらに、大深度の工事は「工事自体が杜撰(ずさん)になりやすい」と強調する。
 大深度工事の指針ともいうべき国交省の「大深度地下使用技術指針・同解説」では、地下の地盤を特定するために掘削前に「100~200m間隔でのボーリング調査が目安」と記載されている。ところが――。
「外環の16km区間での直上のボーリング調査は17本。約900mに1本でしかありません」(武内弁護士)
 私がこの点を、NEXCO東日本、NEXCO中日本、そして国交省の3者が設立した、陥没事故の原因究明を担う「有識者委員会」の小泉淳委員長に尋ねると、「住宅密集地で200m間隔のボーリングは難しい」との回答を得た。その結果、地下の地盤が不明のまま掘進を続けたことも陥没の一因となったのだ。
 同様に、リニア計画でも東京都大田区と隣接する世田谷区の約3.9Kmの区間で行われたボーリング調査は10本で、平均400m間隔だが、ルート直上で行われた調査はわずかに3本。平均間隔は約1kmでしかない(筆者注:ルートから数百mも離れた意味のないボーリング調査もあるので)。
  つまり、都市部での地下開発のための大深度法だが、住宅密集という都市特有の物理的背景が工事の基礎となるボーリング調査を難しくしているのだ。

 今、調布市の住民が恐れるのは、陥没事故以降に中断している工事の再開だ。NEXCO東日本が工事再開をするか否かの最終判断は20年度末までには出されるが、工事再開となると、事故を起こした1本目のトンネルの工事再開に加え、わずか4m離れただけの2本目のトンネルを建設するため、再びシールドマシンが陥没現場付近に掘進してくる。また振動や騒音、そして陥没が起きるのか。今、住民の中には、「就寝中のちょっとした物音にもビクッと起き上がってしまう」と精神疲労を深める人は少なくない。
 そして、リニア計画でも今年4月以降に大深度掘削が始まるが、こちらの問題は、田園調布を除けば、延べ50kmの大深度ルート直上の住民の多くが自宅真下のリニア通過を知らないことだ。

●リニア中央新幹線が大深度で通過する地域一覧 
・東京都品川区、大田区、世田谷区/町田市
・神奈川県川崎市中原区、高津区、宮前区、麻生区
・愛知県名古屋市守山区、北区、東区/春日井市

  *JR東海サイト参照。

 そこにはおそらく数万軒の家屋があるが、筆者が首都圏でのリニア大深度ルートを調べると、ルート直上には保育園から高校までの教育施設が12もある。陥没事故以後、リニア計画に反対する市民団体は、大深度ルート直上の家々にその危険性を訴えるビラの配布を続けているが、まだまだ現実感を持てない住民が多いようだ。さらなる周知が急がれる。
 起こらないとされていた事故が起きた以上、大深度法の見直しは当然あってもいいのだが、その動きはまだ国にはない。政府や国会議員には強く関心を持ってほしいと思う。

著者情報

ジャーナリスト

樫田秀樹

かしだ ひでき

1959年、北海道生まれ。岩手大学卒業。コンピュータ関連企業勤務を経て、NGOスタッフとしてアフリカでの難民キャンプで活動後、フリーのジャーナリストに。取材で国内やアジア各地に赴く。各誌に環境問題、社会問題、市民運動、人物ルポなどを寄稿。
著書に『リニア新幹線が不可能な7つの理由』(岩波ブックレット、2017年)、『〈増補〉“悪夢の超特急”リニア中央新幹線――建設中止を求めて訴訟へ』(旬報社、2016年)、『自爆営業――その恐るべき実態と対策』(ポプラ新書、2014年)、『世界から貧しさをなくす30の方法』(共同編集、合同出版、2006年)など。

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