民主主義って何だろう? 大胆にも、宇野先生に聞いてみた。【前編】
宇野 でも、人を惑わすのもまた言葉ですから、言葉が常に正しいとは限りません。まさに「デマゴーグ」といった言葉も古代ギリシアで生まれています。みんなを扇動して――特に人の否定的な感情、嫉妬とか、憎悪だとかを煽って、結果としてうまく自分の利益になるようにする政治家も、世界にはたくさんいますよね。
人々の思いを形にした言葉と、政治を自分の思う方向に持っていこうとする言葉を見分けていかないといけないと思いますね。
和田 それが難しいですよね。自分が共感するまでに至らない言葉を受け入れるとか、信頼するとか、妥協するとか、折り合うとか……そういうことが現代はさらに難しくなっている気もしますね。
宇野 ちょっとでも自分と違う声を聞くと、あいつはインチキだとか、悪い奴だとかって思ってしまう。だから、自分とまったく同じことを言っているわけではなく、あるいは理解はできるけれども、全部は一致しないなと思う相手と話しているとき、言葉は一番大切だと思うんです。
今日も、こうやって和田さんと一緒にお話ししている中で、別に100%考えが一致しているわけでもないでしょうし、お互いに生きてきた人生も違いますし。
和田 ワッハハハ。違いすぎます。
宇野 いやいや。でも、和田さんと僕のあいだに、少しずつ共有できる、ここは一緒だよねって言えるものを拡大していくために議論しているという感じでしょう。
和田 ああ、そうありたいですね、はい。
宇野 だけど、別に100%一致する必要はない。やっぱり民主主義の言葉って、そういうものであると思います。少なくともここまでは共有できるというのをお互いの中に確認していく。そういうのが、一番大切なんですね。
だから、この人の意見には100%同意はしないし、もしかしたらこの人は自分とは違うことを思っているかもしれないけれど、少なくとも嘘はついていない――それなりに信頼できる人だと思えるならば、議論をすることができるのではないでしょうか。もう少しこの人と議論したいと思えるところまで共通の陣地をつくるのも、やっぱり言葉に負うものですよね。そういう言葉の力というのが今、失われつつある。
ほんとに大切な声って「中間」にあるものなんですよね。微妙に賛成できて、微妙に賛成できない。でも、もうちょっと一緒に議論したいな――と思わせる。そういう中間的な声に耳を傾けることが民主主義の議論においては大事だと思います。

『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?国会議員に聞いてみた』
『選挙活動、ビラ配りからやってみた。「香川1区」密着日記』(和田靜香著、左右社)
- *この対談は、ジュンク堂書店池袋本店 オンラインイベント・『自分で始めた人たち』刊行記念 民主主義って何ですか?「ゼロからぐいぐい質問するライター」でおなじみの和田靜香さんが、宇野重規先生に徹底質問!【2022年3月22日実施】を再構成しています。
*「民主主義って何だろう? 大胆にも、宇野先生に聞いてみた。(後編)」に続きます。
著者情報
政治学者
宇野重規
うの しげき
1967年東京都生まれ。東京大学社会科学研究所教授。東京大学法学部卒業。同大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。専門は政治思想史、政治哲学。
『政治哲学へ 現代フランスとの対話』(東京大学出版会)で2005年度渋沢・クローデル賞ルイ・ヴィトンジャパン特別賞を、『トクヴィル 平等と不平等の理論家』(講談社選書メチエ)で2007年度サントリー学芸賞(思想・歴史部門)を、『民主主義とは何か』(講談社現代新書)で2021年度石橋湛山賞を、それぞれ受賞。その他に『保守主義とは何か 反フランス革命から現代日本まで』(中公新書)など著書多数。
音楽/相撲ライター
和田靜香
わだ しずか
1965年千葉県生まれ。音楽評論家・作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦やアルバイト迷走人生などに関するエッセイも多い。著書に『スー女のみかた 相撲ってなんて面白い!』(シンコーミュージック)、『音楽に恋をして♪ 評伝・湯川れい子』(朝日新聞出版)、『ワガママな病人vsつかえない医者』(文春文庫)、『おでんの汁にウツを沈めて~44歳恐る恐るコンビニ店員デビュー』(幻冬舎文庫)、『東京ロック・バー物語』(シンコーミュージック)などがある。近著『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』(左右社)が話題。