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2022年の参院選から見えた自民党の女性認識~男性優位社会の政治は変われるのか

安藤優子(フリーキャスター、ジャーナリスト、社会学者)

(構成・文/加藤裕子)

「家庭長」の座に押し込められた女性たちの政治進出がいかに難しいかは、日本の地方議会において女性議員がきわめて少ないということからも明らかです。都道府県議会における女性議員の占める割合は11.4%、市区議会では16.6%、町村議会では11.1%にとどまり、全国1741の市区町村議会のうち、女性議員がゼロの議会は311も存在します(内閣府男女共同参画局「全国女性の参画マップ」、2020年)。その主な理由は、地元の集会や冠婚葬祭などにまめに顔を出さなければ集票できない地方議員の政治活動が、「家庭長」として家を守る女性には負担が大きすぎるということにあります。女性町村議会議員の多数派が、子育てが終わって時間的な余裕ができた60代以上の専業主婦という実態は、こうした地方議員活動の物理的負担を考えれば、必然と言えるでしょう。

 さらなる問題は、多くの男性国会議員が「地方議会から国政へ」とステップアップしてきたのに対し、女性議員のキャリアパス(キャリアを積んでいく道筋のこと)は地方政治と国政とで断絶されてしまっているという現状です。60代からスタートした地方議員のキャリアを、選挙活動がさらに過酷になる県議や国会議員へとつなげていける女性はほとんどいません。若い子育て世代や志を持って政治に挑戦したい女性たちを政治家として育てていく環境が、もっと必要だと思います。

 ――女性議員が少ないことの背景には、自民党の中に女性が「家庭長」の枠を超えて「イエ」の外に出ることへの抵抗感が強いということでしょうか。

 おそらく、女性の能力を正当に評価すると自分たちの居場所が脅かされるという潜在的な恐怖感が、男性側にあるのでしょう。女性は男性が庇護し、導かなければならない劣った存在であり、良妻、良母、良子女の枠組みからはみ出すことなく振る舞うべきだという、「イエ中心主義」の価値観を端的に表していたのが、森喜朗氏が東京五輪・パラリンピック組織委員会を辞任するきっかけになった発言でした。
「組織委員会の女性はわきまえているから話も的を射ている」という森氏の言葉に、居合わせた女性たちは笑ったと言いますが、それは男性優位社会において物事をスムースに運ぶための方法だったのだと思います。私自身も男社会のメディアでキャリアを築いていく中で、最初に与えられた仕事は男性司会者の横に座ってうなずく「アシスタント」で、男性に「従属」し「わきまえる」役回りでした。そこから自分の居場所を創り出すために私がとった作戦は、女性性を封印して男社会の一員であるかのように振る舞う一方で、「若い女性」として先輩の男性たちに可愛がってもらい、「自分はあなたたちを脅かさない」というサインを送るというものです。当時の自分の働き方を振り返ると、女性性を封印することも、男性社会に同化することも、あるいは女性性を売りにすることも、女性としての自然なありようを否定するもので、女性へのリスペクトを欠いていたと猛省しています。

自民党の女性議員は「イエ」の長になれるのか

 ――第二次安倍晋三政権では「女性が輝く社会」というスローガンが掲げられ、「女性活躍推進法」などの法整備も進められました。こうした自民党の方針は、女性を「家庭長」から解放することを意味していたのでしょうか。

 安倍政権の女性政策は、企業の女性登用促進、女性が就労者の5割を占める非正規雇用に対する賃金引き上げの奨励、幼児教育・保育の無償化など、評価すべき成果も上げています。一方、女性の育児休業を3年間にしようとした「3年間抱っこし放題」の政策に見られるように、働く女性にとって的外れな視点が混在していたのも事実です。3年間も職場から離れたら仕事に復帰することがいかに大変か、現実の女性たちがおかれた状況が政府にはまったくわかっていなかったということでしょう。
 結局、安倍政権の「女性が輝く」とは「女性が働く」ことを意味していたのです。つまりは経済政策、労働政策であって、女性が人として輝くための政策ではなかったのだと思います。そもそも、政治における男性優位をそのままにしておいて「女性が輝く」とは、いったいどの口が言っているのだろう、と憤りすら覚えます。

 ――前回の自民党総裁選では、高市早苗氏と野田聖子氏が立候補し、4人の候補者中、半分が女性という構図になりました。彼女たちのような女性議員の存在は、自民党の女性認識を変えていくことになると思いますか。

 女性だからといって、ジェンダー平等意識が高いとは限りません。自民党のベテラン女性議員にインタビューすると、必ずと言っていいほど、「政治の世界では男とか女とか関係ない」「実力がすべてだ」と主張します。「女性が輝く社会」の政策にジェンダーの視点を入れられなかったことや、選択的夫婦別姓制度に反対する女性議員が少なくないということを見ても、自民党の女性議員たち自身が「オジサン化」していて、女性をひとりの個人として認められなくなっているか、あるいは自民党という大きな「イエ」の中で、派閥(小さな「イエ」)のボスという「父」の顔色をうかがいながら「女性らしく」「わきまえて」振る舞っているということなのでしょう。おそらく、彼女たちはそうやって、強固な男性社会である政治の世界を生き延びてきたのではないかと思います。自分たちが叩かれながら道を切り拓いてきたという自負がある分、「女性だから優遇してくれなんて、甘えている」と思ってしまうのかもしれません。

 女性が組織のリーダーになるためには、「父」を踏み越えていくぐらいの突破力が必要ですが、今の自民党の女性議員たちに、どれだけそうした気概があるでしょうか。前回の総裁選で、高市さんの見事な弁舌は高く評価されたと思いますが、安倍さんという派閥のボスの支持があったからこそ、多くの票を集められたということは否定できないでしょう。今後、自らが派閥の長や政党のトップとなり、他のボスたちと互角に渡り合って組織を動かす女性議員が出てくるかどうかが、自民党の女性認識が変わっていくひとつの鍵となると、私は考えています。

海外のロールモデルに見る新しい女性政治家像

――政治家になりたいと考える女性たちのロールモデルになれるような女性政治家が、日本にはほとんどいないのではないかと思います。「イエ」に従属しない女性政治家がいるとしたら、たとえばどのような人でしょうか。

 なかなか女性リーダーが生まれてこない日本に対し、海外では既に大勢の女性リーダーが誕生しています。一昔前であればイギリスのマーガレット・サッチャー元首相、2021年に退任したドイツのアンゲラ・メルケル前首相など、賛否両論はありながらも、長期政権を維持した政治手腕という点では、やはり評価すべきではないかと思います。
 また、「スーパーのレジ係から首相になった」と言われるフィンランドのサンナ・マリン氏、世界で初めて首相在任中に産休を取得したニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相など30~40代の女性リーダーたちは、これまでの女性政治家たちと違って、ごく自然体なのが印象的です。女性性を売りにせず、かといってことさらに封じ込めることもなく、説得力のある言葉と共感力で国民をまとめていく彼女たちは、「イエ」に属さなくてもひとりの個人として能力を発揮できる政治家のロールモデルと言えるでしょう。
 2022年6月の杉並区長選に無所属で出馬し、187票差で現職を破った公共政策研究者の岸本聡子氏も、そうした新しい女性リーダーの流れを汲む一人かもしれません。従来型の「勝てる候補」ではなかったはずの彼女の勝利は、もしかしたら日本の政治を変えるひとつの予兆なのではないかと、思っています。

 ――最後に、これから日本の政治でジェンダー平等が進み、社会が変わっていくために、何が必要だとお考えですか。

著者情報

フリーキャスター、ジャーナリスト、社会学者

安藤優子

あんどう ゆうこ

1958年、千葉県生まれ。東京都立日比谷高校からアメリカ・ミシガン州ハートランド高校に留学、同校卒業。上智大学外国語学部比較文化学科(現:国際教養学部)卒。2019年に上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科グローバル社会学博士号取得。テレビ朝日系「BIG NEWS SHOW いま世界は」「TVスクープ」で国内外の取材レポートを担当し、「ニュースステーション」のフィリピン報道でギャラクシー賞個人奨励賞を受賞。その後、フジテレビ系「スーパータイム」「ニュース JAPAN 」「スーパーニュース」のキャスター、「直撃 LIVE グッディ!」の MCを担当した。2022年、博士論文を加筆・修正した『自民党の女性認識—「イエ中心主義」の政治指向』(明石書店)を出版。その他の著書に『ひるまない』(講談社)、『あの娘は英語がしゃべれない!』(集英社)など。

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