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いま経営に必要なのは文学の力だ

上田岳弘(小説家)

岩尾俊兵(経営学者)

岩尾 それとやっぱり、映画やドラマなどのうち、もっとも主観性を取り戻すのに有効なのは、文字で書かれた表現だと思うんですね。三島由紀夫が『文章読本』(中公文庫)で、映画に対する小説の優越性を映画監督に力説したと書いていました。三島がどうやって、力説したかというと、映画で美女を出したいんだけど、美女の定義は人それぞれなんだと。「如何に映画会社が美人だと宣伝しても、それは美人でないと思う頑固な観客を避け得ない」と。それで映画では色んなタイプの女性を出さないといけないんだと。でも、三島は小説だと「『彼女はローマ第一の美人であった』と書いてあるだけで読者は納得」するじゃないかと言ったそうです。小説は読者の主観にまかせて、想像力を刺激すればいいだけなので映画より有利なんだと。

上田 そこが小説の最大の強みでしょうね。それに加えて、言葉は自分の意識とか思考にもっとも近くて、知的活動の中で一番プリミティブな形で表せるのがいいんですよ。

岩尾 いま経営学でも、プリミティブなものの見直しの動きがあります。野中郁次郎先生という世界的に有名な経営学者がいます。野中先生が数年前に、『野性の経営』(川田英樹・川田弓子共著 KADOKAWA)という本を出されたんです。その本の中で何が書かれているかというと、経営には野性の力が必要だということなんです。最近は、オーバープランニング、オーバーアナリシス、オーバーコンプライアンスで、経営がおかしくなっていると。端的に言えば、経営が〝客観〟をあまりに重要視し過ぎた結果、変なことになっていないかと。ただそこから先が、それを捨てて〝野性の勘を取り戻せ〟になるんだけど……。

上田 さすがにいまの時代に、経営でコンプライアンス無視はできないですしね。

岩尾 そうなんです。ただ、この野中先生の言っていることに有名経営者はすごく納得しているんですよ。具体的にどうやって野性を取り戻すかは書かれてないんだけど、僕はそれこそ野性を〝文学のプリミティブな力〟と言い換えてもいいんじゃないかと思います。

上田 そこに被せると、小説は言葉という極めてプリミティブなものを使って、どれだけ新しいことができるかも重要だと思います。「ノベル」には「新しい」という意味もありますし、新しい方法や新しい見方を与えてくれるものが小説には求められているんじゃないかと。僕もそこを意識して経営のほうにも刺激を与えるような作品を書いていきたいと思います。

著者情報

小説家

上田岳弘

うえだたかひろ

1979年兵庫県生まれ。2013年「太陽」で第45回新潮新人賞を受賞しデビュー。15年「私の恋人」で第28回三島由紀夫賞、18年『塔と重力』で第68回芸術選奨文部科学大臣新人賞、19年「ニムロッド」で第160回芥川龍之介賞、22年「旅のない」で第46回川端康成文学賞を受賞。他の著作に『異郷の友人』『キュー』『引力の欠落』『最愛の』『K+ICO』などがある。

経営学者

岩尾俊兵

いわおしゅんぺい

慶應義塾大学商学部准教授。1989年、佐賀県有田町生まれ。東京大学博士(経営学)。第73回義塾賞、第36回組織学会高宮賞(論文部門)、第37回組織学会高宮賞(著書部門)、第22回日本生産管理学会学会賞(理論書部門)、第4回表現者賞等受賞。著書に『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』(光文社新書)、『13歳からの経営の教科書』(KADOKAWA)、『日本“式”経営の逆襲』(日本経済新聞出版)、『イノベーションを生む“改善”』(有斐閣)『世界は経営でできている』(講談社現代新書)などがある。

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