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常識を疑え!

渡辺喜美氏の借り入れはなぜ問題なのか?

香山リカ(医師)

「仕事なんかでいつ必要になるかわからないからね、リッチな知り合いに頼んで8億円ほど貸してもらったんだよ。あくまで個人的に借りたんだから、これは内緒だよ」
 知人からこういう話を聞いて、「なるほど、じゃあ、何も問題ないんじゃない?」と納得する人はいないだろう。

 みんなの党の代表を辞任した渡辺喜美氏は、化粧品会社会長からの8億円(返済分含む)の借り入れについて、会見で選挙用でもなければ私的利用のためでもなく、あくまで「個人の政治活動」のためと説明し、違法性はないことを強調した。

 この問題が発覚した当初、渡辺氏は「選挙資金でも政治資金でもなく、熊手などを個人的に買った」とし、二度目に借りた5億円については「借用書もない」と話していたが、そうだとすると贈与と見なされ所得税法違反で脱税容疑に問われることになる。その他、政治資金規正法、公職選挙法、資産公開法など「政治とカネ」に関係する法律はいくつもあるが、そのいずれにも抵触しないためには、と考えたのか、4月7日の会見では「政界大再編がないとも限らない」と、個人として政治に関する情報収集などのために準備した金だったとし、現金が手元にないことについては「虎の子の借入金は妻の口座に移し、保守的に管理してもらっていた」として、すでに返済もすんだと語った。

 政治に関することでの使用だが、党として公に使ったわけではなく、あくまで個人として使うため。この説明ではたして、政治資金規正法が定める収支報告書への記載の義務を免れることができるのか。その他の法律に照らしあわせて、本当に違法性はないのか。疑問はまだ多く残るが、それよりも政治家にとって致命的なのは、今回の「8億円借り入れ」が一般常識とはかけ離れ、市民感情では到底、受け入れがたいということだろう。

 もちろん、政治家はすべて一般の生活者と同じ感覚で暮らさなければならない、と言いたいわけではない。麻生太郎氏や鳩山由紀夫氏のようにケタはずれの財力を持った政治家も少なくないし、財界や海外の賓客とのつき合いもあれば自分の身を守る必要もあり、当然、市民と同じレベルの生活は送れない。

 とはいえ、いくら自分が黒塗りのハイヤーで移動し、ホテルのレストランで会食を続けたとしても、生活者の感覚や問題意識を完全に見失わないようにすることは、心がけとちょっとした努力でいくらでもできるはずだ。たとえば毎日、新聞を読むだけで、数千円にこと欠いて犯罪に手を染める人や生活保護を受けられず病気で孤立死する人などのニュースが数多く目に入ってくる。そのセンサーさえ持ち合わせず、個人から数億円を借り、「熊手を買った」とか「政界再編の情報を収集するため」などと平然と述べる、という鈍感さに、有権者はあきれ果てているのである。

 そして、その有権者の直感は、おおむね間違っていないのではないかと私は思う。「政治とカネ」の問題、女性問題などの不祥事を起こし、世論によって政治家の座を追われる人が出るたびに、「あの人は政治家としては優秀だったのだから、これくらいの問題で辞任に追い込まれるのは気の毒」などと、不祥事を批判した市民の側を責める声も上がる。しかし、いま振り返ってみて、「あの政治家は私生活の問題が明るみに出て辞めざるをえなかったが、日本のためには本当は必要な人材だった」と言えるような人はいるだろうか。一般の人たちの「やっぱりおかしいんじゃない?」という感覚は、案外、間違っていないものなのだ。

 党代表を辞任した渡辺氏は、議員を辞職するつもりはないと明言している。ただ、もし違法性が認められないということになったとしても、有権者が今後、渡辺氏に再び信頼を寄せることはないのではないだろうか。大衆に迎合するポピュリズムに陥ることと、生活者のセンサーを大切にすることは違う。このことを渡辺氏はわかっていなかったのかもしれない。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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