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連載

「コロナ災害」で苦しむ学生たち〜「選別主義」と「親負担主義」の限界

第9回

大内裕和(武蔵大学教授)

 新型コロナウイルス感染症の猛威が続く中、2020年の春学期は多くの大学でオンラインによる授業が行われました。私が勤務する大学もオンライン授業を実施しました。

 遠隔でも講義やゼミを行うことはできますが、学生と直接話す機会はどうしても減りがちになります。私は日常的に学生からの話をよく聴くように心がけていますが、新型コロナの感染拡大が本格化してからは学生と接するのが難しく、生活実態をつかむことは容易ではありません。

 そんな中で、全国大学生活協同組合連合会(全国大学生協連)が20年4月20~30日に実施した「緊急!大学生・院生向けアンケート」は、コロナ災害で苦しむ学生たちの実態を詳しく伝えてくれて参考になります。注目すべきは、この調査に3万5000人以上 の大学生が回答していることです。このことは、全国大学生協連のネットワーク力に加えて、学生自身が当事者として自分たちの窮状を訴えたいという強い気持ちのあらわれではないかと思います。

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 まず、注目されるのがアルバイトの減少です。アルバイト収入の見通しについては「大きく減少する」と「減少する」を合わせると学生全体の約40%に達しました。調査時期が4月であることや、回答者に大学1年生の割合が高いこともあって、アルバイトをしていない学生もかなりいます。アルバイトをしている学生のみに絞って計算すると、収入が「大きく減少する」と「減少する」を合わせた比率は約80%に達しました。

 私も独自に行った調査やインタビューに基づいて、本連載で「新型コロナが若者の生活を直撃! 急増する『バイト難民』」(20年4月21日)を書きましたが、この全国大学生協連のアンケート結果は、私自身の調査と分析をデータで裏付けてくれています。とりわけ自由記述欄を読むと、学生の日常生活の実像と彼らの気持ちが克明に読み取れます。

私立大 1 年生男性・自宅生

〈正直、大学に入学したことを後悔しています。両親もぼく自身も収入が減ったのに対し、支出は変わりません。ぼくの学費が家計を圧迫していることを思うと申し訳なくてたまりません。家にはパソコンも無いのでなんとかスマホで対応しています。バイトも勉強も中途半端でなんのために大学に入学したのかわかりません。四六時中不安です。〉

「正直、大学に入学したことを後悔しています」という言葉に、大学教員の一人として胸が詰まります。学生をもつ親たちの経済状況は年々悪化していますから、自分の学費が家計を圧迫していることに、気を病んでいる学生は少なくないでしょう。

「家にはパソコンも無い」という言葉も、現在の学生の生活実態をよく伝えてくれています。オンライン授業で効果を上げようとしても、それに対応することが難しい学生は年々増えています。パソコンを含めて学生の情報環境への支援が重要であることが分かります。

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 親からの経済的支援の少ない学生は年々増えています。全国大学生協連の「学生生活実態調査」を見ると、月の仕送り額が10万円以上という学生の比率は1995年の62.4%から2019年には27.9%まで低下し、対して5万円未満は1995年の7.3%から2019年には23.4%まで上昇しています。

 また奨学金利用者は、近年、減少傾向にあります。19年の奨学金利用者の比率は30.5%と、11年の37.9%をピークに減少しています。学生の経済状況が改善したからではありません。貸与型奨学金を返済することに「不安を感じている」(「常に感じている」+「時々感じている」)が、貸与型奨学金利用者の71.6%を占めています。奨学金返済の困難さが社会問題となり、返済への不安が高まったことによって、貸与型奨学金を敬遠する学生が増加しているのです。

 親からの経済的支援が少ない学生が増え、奨学金の大半を占める貸与型奨学金を敬遠する傾向が強まっているのですから、学生にとってアルバイトが命綱となるのは必然です。

 19年の「学生生活実態調査」では、自宅生の生活費は費目別に「アルバイト」が月4万1230円で8年連続増加し、金額、収入に占める構成比(61.1%)ともに1970年以降の最高値を更新しています。下宿生の生活費についても、費目別には「アルバイト」が4年連続増加して3万3600円となり、収入全体に占める構成比(25.9%)とともに70年以降の最高値を前年から更新しています。

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 学生生活を維持する上で、アルバイトが欠かせない位置を占めるようになってきているところに、新型コロナでアルバイトの減少が起こってしまったのです。これが多くの大学生に甚大な被害を与えていることは明らかでしょう。

 2019年の「学生生活実態調査」の平均額で計算すれば、自宅生の半年間のアルバイト代は24万7380円、年間で49万4760円となります。下宿生の半年間のアルバイト代が20万1600円、年間で40万3200円となります。政府のコロナ対策の一環である「学生支援給付金」制度は、住民税非課税世帯の学生に20万円、それ以外の世帯で支給対象となる学生には10万円の現金給付となっています。これではアルバイト収入の減少を補填することは難しいでしょう。

「緊急!大学生・院生向けアンケート」には以下のような自由記述もありました。

国立大 2 年生女性・一人暮らし

〈アルバイトをして授業料を支払っていましたが、今回のコロナウイルスの影響で解雇され、今は収入が全くありません。また、今は自宅で過ごしており、下宿先では全く生活していませんが、家賃や共益費等は支払わなければならず、学費も全額、支払う必要があります。収入がない中でこれらのお金を工面できるかどうか、とても不安です。〉

 高校生までと違って、大学生になると自宅外から通学する下宿生も数多くいます。下宿をするためには、家賃を始め多額の費用がかかります。しかし20年の春学期は多くの大学でオンライン授業が行われ、通学する必要がなかったので自宅に帰って過ごした人も多かったでしょう。その間も下宿の費用を支払わなければいけないことに、理不尽さを感じる学生も少なくないと思われます。

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 コロナ災害によるアルバイトの減少は、学費に加えて多額の住宅費や生活費のかかる下宿生には一層深刻でしょう。たとえば19年の「学生生活実態調査」によれば、下宿生の住宅費の平均は月5万3930円です。半年間で32万3580円、1年間で64万7160円に達します。政府の学生支援緊急給付金は20万円あるいは10万円ですから、たとえその対象となったとしても、それでは全く足りないことは明らかです。

私立大その他・一人暮らし

〈気付いて欲しい事があります!上京し、一人暮らしの費用を決める際に自分のアルバイト収入プラス仕送りで生活費を計算していました。アルバイトが休業や無くなる先輩同様に、コロナの影響で、上京しスタート時点からアルバイトすら出来ない、アルバイトが無い状況の為、予定していた仕送りだけでは生活できない事態になっています。選択肢は、アルバイト分を全て仕送りを増額してもらう事しかありません。兄弟もいる為、仕送りが維持されるのか現状、自分ではアルバイトも出来ず何も手立てがありません。新入生も、アルバイトすら出来ずアルバイトが休業、無くなった方と全く同じ状況下にある事実を知って欲しいです。〉

 これも「緊急!大学生・院生向けアンケート」の自由記述からの引用です。「気付いて欲しい事があります!」という言葉に、自分のような学生がいることを知ってほしいという気持ちがあふれています。

 この学生は上京してからアルバイトを始める予定でしたから、まだアルバイトをしておらず雇用先から休業補償を得ることも不可能です。また前年度のアルバイト収入がありませんから、政府の学生支援緊急給付金の支給対象要件である「新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、その収入が大幅に減少していること」という条件にも、当てはまりにくいでしょう。

 このように全国大学生協連の調査結果や学生たちの自由記述から、コロナ災害にともなって苦しむ学生の姿が具体的に見えてきました。また、政府による支援制度では、苦しんでいる多くの学生が救済されない現状も分かりました。

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 政府による学生支援緊急給付金制度、そして20年4月からスタートした「大学等における修学の支援に関する法律」は、いずれも学生支援をする際に「住民税非課税世帯(所得が基準以下等で住民税が課税されていない)」かどうかを重視し、支援対象を選別する制度設計となっています。

 これは、高等教育費について「学費を負担できる親には可能な限り支払ってもらい、親がどうしても負担できない子どもにだけ支援を行う」ということを意味しています。つまり「選別主義」と「親負担主義」を原則とした制度設計となっているのです。

 しかし、「緊急!大学生・院生向けアンケート」や「学生生活実態調査」から見えてくるのは、教育費についての「選別主義」と「親負担主義」の限界です。親からの経済的支援が減少し、学生自身のアルバイトが学生生活を続ける上で死活問題となっているということは、もはや親の所得を基準として支援対象を選別する政策は、有効性を大きく失っていることを意味します。

 奨学金にせよ、学費減免にせよ、現在の学生支援は親の収入を基準とした「選別主義」の原則を続けています。しかし、教育費の「親負担主義」の限界が明確となってきた以上、これからは「普遍主義」に基づく学生への支援が強く求められます。

著者情報

武蔵大学教授

大内裕和

おおうち ひろかず

1967年、神奈川県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得。松山大学教授、中京大学教授を経て2022年度より現職。「入試改革を考える会」代表。「奨学金問題対策全国会議」共同代表。著書に「ブラックバイトに騙されるな」(集英社)、「教育・権力・社会」(青土社)、「ブラック化する教育 2014-2018」(青土社)などがある。

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