現役学生たちの声を聞いてみた ~今の若者は「お金」についてどう考えているのか?
大内裕和(武蔵大学教授)
(構成・文/イミダス編集部)
大学教授の私が「奨学金」や「ブラックバイト」を社会問題として取り上げる中で気づかされたのが、現代の若い人たちが共通して感じる「生きづらさ」です。本連載でもこれまでに家庭の事情による教育格差、親同居、ヤングケアラー、バイト難民、奨学金自殺など様々な問題を論じてきました。そうした若者を取り巻く諸問題に私が注目するきっかけとなったのは、ゼミや授業の中で学生たちから寄せられた多くの「声」でした。そこで今回は特別企画として、私が担当するゼミ生6人に日ごろの意識や考えを聞いてみました。
ちかぜ(大学3年)
観劇が趣味。何万円もするチケット代を払うのが大変で、今ではアルバイトを3つかけもち。最近は「ポケモンGO」にもはまっている。
そうた(大学3年)
一番熱中しているのはダンス。練習用のスタジオ代や小道具を買うために金がかかるうえ、酒やたばこも嗜むのでアルバイトが欠かせない。
ひとし(大学3年)
自転車にはまっていて峠などへ走りに行く。スピードアップや車体の軽量化のため、高額な部品をアルバイト代でコツコツ買い揃えている。
ジャイン(大学3年)
趣味はユーチューブ動画やホラー映画の鑑賞。アートメイクや化粧品を買うのにアルバイト代から結構な金額を使っている。中国・上海出身。
りりこ(大学2年)
音楽ライブや海外旅行、本格的に取り組んでいるカメラ趣味などにアルバイト代が消えている。はまっているのは大食いユーチューバー。
あかり(大学4年)
アルバイト代はファッションや飲食に使うことが多い。普段はコスパを気にするが、友人と遊ぶ時などは出費を惜しまないこともある。

生まれながらに「生活防衛」する若者たち
大内 今回、ここに参加してくれた皆さんは全員、自宅通学でアルバイトもしている。自己紹介を聞いた限りでは、私にはごく平均的な家庭で生活している大学生といった感じがしましたが、皆さんの中に「お金のことで悩んだ経験がある」という人はいますか?
ひとし 僕が趣味ではまっている自転車は、車と同じでお金をかけようとすればきりがなくて、例えばスピードや軽さもお金で買えてしまう。峠道を登る辛さも、高額な軽量パーツに替えたら楽に登れる気がして、中には1台の自転車に100万~200万円かける人もいます。僕はまだ学生なので、どんなに欲しくても泣く泣く諦めることが多い。早く自分で稼げるようになりたい、とは思いました。
あかり 私は最近まで就活をしてたんですけど、いろんな先輩方に話を聞くと、すでに転職された人とかも結構多くて驚きました。今はまだお金に困ることはありませんけど、将来やりたいことが見つからないまま「転職ありき」で就職して、いざ辞めたいと思った時に辞められないとか、結局キャリアを築けず安定した収入がなくなってしまうとか、自分がそうなったら「怖いな」と感じました。しかも年の離れた弟がいるので、私がしっかり自立できなかった時の親の負担を考えると、余計プレッシャーみたいなのを感じます。
ちかぜ 私も高3の妹、小2の弟、3歳の弟がいます。とりわけ妹とは3歳違いなので、進学の度に入学金や授業料などを払うタイミングが重なっちゃうんですよ。なので私、大学院へ進みたいんですが、妹の大学進学とかぶることから家族会議になったりもしました。弟たちの時にも同じように親がまた苦労するんだろうなって思うと、将来、自分が親になることも考えちゃいます。
そうた 僕は3つ年上の兄がいてアニメ制作の仕事をしているんですが、世間で言われるように低収入で辛そうです。しかも奨学金を借りて専門学校を卒業したものですから、その返済もかなりきついらしく「毎回手足をもがれるようだ」みたいなことを言っています。それでも親の援助に頼るなどして働いています。僕も当然、奨学金を借りているので来年度に卒業できたとしても、同じような状況が降りかかってくるわけで……。将来どうなっちゃうのかな、なんて漠然と思うことはあります。
りりこ 私はこの年齢まで、お金については何も心配しないで育ってきました。家が裕福だったのではなく、貧困家庭の出身だった母が「自分と同じ思いはさせない」って無理をしていたと最近になって知ったんです。なので中学から大学まで希望通り私立にも通わせてもらって、本当に恵まれていました。でも、果たして自分もわが子に同じことができるかっていうと多分無理。だったら子どもは持たないほうが、って考えてしまう。親が私にしてくれたことって本当にすごいことだと思うし、私にそれができないというのも悲しい。母はつい先日、自身の借りた奨学金をやっと返し終えたって言ってました。母の年齢まで返し続けるなんておかしくありませんか? しかもその間に結婚して、出産して、専業主婦をやって……。教育にかかるお金で不安があるって、すごい不自然というか変ですよね。そこが解決できるなら、私だって子どもは何人いてもいいのにって思う。
大内 いや、ほんとに。社会に出るため勉強するのにお金がかかり、時には家族をも巻き込んでしまう。私はそこを何とかしたくて今までやってきたんだなと思いました。あなたがたの不安はまさにその通りで、だから早く制度を変えないといけないと私は言ってきた。それで少し改善はしましたが、まだまだ足りていない。このゼミの中では、今までこうした議論をしたことはありませんでしたが、私自身とても驚かされています。
ジャイン 私は今、アルバイトをしているんですけど、そんなには稼げないからバイト代はすべて自分で好きに使っています。実家で暮らしているから食事や生活の心配もなく、正直なところお金で困ったという経験はありません。それもあって、このまま社会人になって、親の援助を受けずに一人で生きていくなんてことはとても考えられない。自立したいなとは思うけど、社会人になった自分が想像できなくて……。
大内 なるほど。ここにいる皆さんはそれぞれ、両親や兄弟と同居することで安定した学生生活を送っているのですね。私もこの連載で「家族をめぐる問題」を取り上げたことがありました。私が大学生だった頃は「学校を卒業して働く=自分でやっていける」と、まだそういう社会でした。多くの企業が安定した雇用を保障して、大半の人が社会に出て会社に勤めれば親に頼らず生活できました。だけど昨今、社会人になっても実家から出られない人が増加している。それは自立心が薄いとかじゃなくて、一つの生活防衛なんですよね。要するに経済的な理由で出られないから出ない。「自分で好きなように生きる」という選択肢が、最初から用意されてないわけです。だから彼女の意見は、今の若い人たちの状況をとてもよく映し出している。
ひとし 僕も、あまり金銭面で不安を感じたことはないんです。でも皆の話を聞いて思うに、僕って一人っ子なんですね。それは父が「自分の収入では2人目以降は無理だろう」と、意図的に作らなかったかららしいんです。住んでるところも東京近郊で自宅から通学できるため、生活費のことなど考えず今までやってこれたのかなというのはあります。僕の周囲には同い年で短大とか専門学校を出て働いている友人もいますけど、やっぱり実家から通勤してる人が多い。それってたまたまかもしれませんが、賃金が低く生活防衛のため実家から通わざるを得ないのかな? と、今の先生の話から思い当たりました。

社会の仕組みそのものが今の若者向きでない
大内 世間では未婚化や少子化などと言うけど、こうした生活防衛の問題は、さらにその手前の話なんです。経済的に家から出られない以上、結婚なんてとてもできないでしょ? まして出産して子育てなんて、めちゃくちゃハードルが高い。じゃあここからはもう少し視野を広げて、今の社会における若者の立ち位置や境遇みたいなことで、何か言いたいことがあったら自由に発言してください。