現役学生たちの声を聞いてみた ~今の若者は「お金」についてどう考えているのか?
大内裕和(武蔵大学教授)
(構成・文/イミダス編集部)
あかり これは新型コロナの影響もあるんですが、「大学生として学生らしいこと、学生のうちにできることはしておきなさい」と、親からも周りの大人たちからも言われることが結構あったんです。でも世の中は自粛ムードで、アルバイトもできなかった。「やりたいけどできない」状況で、学生時代を楽しむこともできなかった私たちが社会に出て、世の中どう変わっていくのかな? って思うことがあります。なので、旧世代の学生像を押し付けられるのには、かなり嫌悪感がありました。卒業旅行だって私の周りには「余裕がないから行かない」という人も結構いて……。すでに負債(奨学金)を抱えて社会に出るための心構えをしている人もいるのかな、という感じもしました。そんな子たちが「学生らしいことなんてやってる場合じゃない」なんて言っても、大人は誰も理解してくれないでしょうね。
大内 それはすごくよく分かるな。確かに、不安を抱えているところに「学生は学生らしく楽しんでおけ」なんてお気楽に言われたら、反発を覚えるでしょうね。
ちかぜ ニュースなどでよく言われていますが、私たちの世代は年金もほぼ受け取れないかもしれないじゃないですか。で、これからもどんどん高齢者が増えて、より多くのお金が必要になるんですよね。一方で、それを支える子どもが減って一人あたりの負担が増えていくわけですから、やっぱり今の若者は損だと思います。上の世代の人たちは「バブル」があったりとかでいい思いをしてる。そもそも少子化になったのはどうして? 今、ようやくこども家庭庁ができて、政府がいろんな施策を打ってますけど、5兆円もの予算で子ども家庭庁を発足しておいて、出てきた政策がJリーグとコラボして親子観戦を優遇しますみたいな……バカじゃないのと思う。5兆円あれば、もっとできることあるんじゃないかな。
大内 5兆円あれば、大学の授業料を無料にもできるよね。
ひとし 政治の話が出ましたけど、今の社会を作りあげて運用しているのは、自分よりも上の世代なわけですよ。その人たちって日本が幸運なことに経済的成長を遂げた流れに乗って働いて、景気が悪くなってきた頃にはリタイアという、タイミングに恵まれたのかなというのを感じます。そういういい思いをしてきた人たちが作ってきた制度とかで、苦しい思いをしながら生きていかなきゃいけないのかと考えると、ぞっとします。社会の情勢も人々の暮らしも変わったのに、なぜ上の世代の皆さんは気づかないんでしょうか?
ちかぜ 教育費とかもそうですよね。たぶん国家予算を決めている政治家や上級官僚に、今の若い夫婦の感覚で育児をしている人が少ないから、こんなことになってるんじゃないかな。
りりこ おじいちゃんしかいない。
あかり リアルを知らない。
ちかぜ しかも出産と育児を別の問題と捉えたり、そういうところですよね。
りりこ 産んで終わりじゃなく、そこからなのに。
大内 今、二つの意見が出ていますね。上の世代の人たちが、自分たちが調子のよかった時代を前提に世の中の仕組みを考えているという問題と、制度や予算を「おじいさん」が決めているという問題。おばあさんじゃなくて、おじいさん。それってまさしく、パワーエリート層を男性が独占してきた日本社会の特徴ですね。だから「育児したことあるのか」とか、そういう話になります。確かに1960~90年代は、おそらく二度とこないであろう幸運な時期を日本社会は過ごしていて、その時のシステムのままきているわけだから弊害は避けられない。しかも日本の場合、システムを決める政界や経済界に依然として男性主導主義が残っていて影響をおよぼしています。
ちかぜ 消費税引き上げの時も、新聞は世の中の多くの人に必要なものとして軽減税率の対象に入れられたけど、生理用品は対象外品目になった。やっぱりそれって、どう考えても男の人が決めたんだろうなとすごく思いました。
あかり 女性の働き方でもそうですね。会社説明会で「女性が育休とりやすいですよ」とか「女性が時短勤務しやすいですよ」って話があって、初めは「自分が子どもを産んだ時、そういう制度があると働きやすいな」と、違和感なく受け取っちゃってたんです。でも就活を進めていく中で、育休はまだしも時短勤務は基本的に女性用みたいに扱われていて、「育児や家事は女性の役目」という考え方が根付いているのを感じました。こんな社会のうちは、男性と同じ働き方や、男女の賃金格差解消なんて無理なのかな。まあそれって男性だけのせいじゃなく、女性のほうもそうした扱いをすんなり受け取っちゃうみたいなのも、今までの社会構造が影響しているのかなと思います。
大内 やはり、それは「日本における特定の時期にうまくいった成長構造」が男性中心の構図であったがためで、今もってその偏りが続いているのは重大な問題だと思う。

お金があれば生きづらさは解消できる?
大内 今までの意見をまとめると、かつての「古きよき時代」に作られた社会制度はその時代の人々にとってはよいものだったかもしれないが、今の日本では時代に追いついておらず格差社会、教育難民、若い女性の生きづらさなどの温床になっていると皆さんは感じている。それが奨学金だったり、ブラックバイトだったり、時にはヤングケアラーだったり形を変えて若い世代を損させていると。世間が言うように若者の怠慢や無関心に原因があるのではなく、そもそも若者には選択肢すら与えられていない。しかも多くの若者は、そのことを理解しているけど、どうしたらよいか分からずあえいでいる状況です。では最後に、皆さんに少し「生きづらさとお金」について考えてもらいたいと思います。
そうた 僕にとっての生きづらさとは「不安」を意味していて、それを解消できるのはやっぱりお金だと思います。先ほど紹介したアニメの仕事をしている兄を見ていても、確かにお金では買えない達成感とか満足感はあるけれど、それだけでは「生きづらさ」は取り除けない。「若いんだからガマンも勉強のうち」なんて、自分が若かった時代にはお金の苦労がなかった上の世代の人たちに言われてもピンときませんね。
ちかぜ 私はクレジットカードを使いすぎてピンチになったことがあります。使いみちは自分の買い物なんですけど、大学生でも簡単にカードが作れて、いつの間にか借金が膨れ上がってしまいました。で、もうこのままじゃ自己破産すると思って……。そんな経験からもお金がなかったら大変。たとえば親にも相談できず、サラ金や闇金にまで手を出しかねない状況に追い込まれることなどを考えると、生きづらさを解決する手段としてのお金の重要性は否定できないと思う。
ひとし 生きづらさが「不安」だとすれば、それを解決するのが「安心」。でも僕は、お金は大切だけれども、安心はお金では得られないとも思います。困った時、悩んでいる時に耳を傾けてくれて、相談に応じてくれる周囲との関係こそが「安心」を生み出している。そうした関係性はお金以上に価値があって、きっと「生きづらさ」を解決してくれると信じます。
大内 ふむ、この3人の意見の違いは興味深い。たとえば学生時代に借りた奨学金を9割以上の人が返済している、というデータがあります。そうした順調に返済できている人の多くは、ひとしさんと同じ意見をもっているのではないでしょうか? しかしその一方で、1割弱が奨学金の返済ができず窮地に追い込まれている。返済がピンチという点では、ちかぜさんと同じように深刻だ。ただ表向きは順調に見えて、実はガマンを強いられているそうたさんのお兄さんみたいな人も少なくない。結局はどれも「生きづらさ」には変わりなく、そうした学生・若者の存在を知って、私は奨学金やブラックバイトの問題を提起してきました。現在、問題なく過ごせている学生・若者もいつ厳しい状況に陥るか分からない。その点では皆さんの意見は矛盾するものではなく、学生・若者の置かれている状況の多面性を捉えているように思います。
あかり 家族の経済状況との関係で自分の仕事を決めざるを得ない人たちと比べると、自分は恵まれています。自分のことだけを考えて将来を決められるというのは、恵まれている立場だということがこのゼミで学んで分かった。先生は過去と現在を比較して、私たちの状況を「貧困」だと捉えている。それに対して、私たち自身はこれが「当たり前」と考えてしまっている面があると思う。