「若者の未来への展望」を考えるシンポジウム ~家庭の経済状況によらず、すべての人に高等教育を
大内裕和(武蔵大学教授)
「他人にやさしくする」のではなく、むしろ「自分が損をしても他人が得することを阻止したい」とするスパイト行動が日本社会で広がっていることが、「受益者負担の論理」を支えていること、そしてそれが実際には一人ひとりの権利を後退させていると渡辺氏は意見していました。そうしてフランスの「黄色いベスト運動(ジレ・ジョーヌ 18年から始まった政府への集団抗議運動)」が結果として地域全体の最低賃金を上昇させた例を挙げ、「コミュニティの利益を最大化することが、コミュニティ全員の利益を最大化する」という視点に立つことの重要性を投げかけました。
渡辺氏の言う「やさしさ」とは、個人の心情レベルにとどまらず、個人の権利を支える「社会的連帯」を意味していると思われます。「他人にやさしくするということを思い出さなくてはいけない」という一見シンプルな発言の中に、「自己責任論」が蔓延(まんえん)している現代日本社会に対する深い洞察が含まれていると私は思いました。
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室橋氏は「受益者負担の論理」を乗り越える手がかりとして、人権への理解や人権教育の重要性を指摘されました。日本では「少子化で困っているから子育てサービスの充実を」という議論が頻繁に登場します。ですがヨーロッパ社会ではそうした議論は全くなく、何よりもまず「幸福に生きる権利」として「教育を受ける権利」があり、個人の自己決定権を拡張するために公教育が存在するということが人々に強く意識されているとのことでした。そして、人権への理解を深め、人権教育を広めていくことが、「受益者負担の論理」を変えていく原動力になり得ると主張されました。
功利主義や能力主義の論理で語られがちな高等教育の議論に対して、「人権」を正面から掲げる批判の重要性をあらためて認識させられる室橋氏の発言でした。
このシンポジウムでは、提言作成に関与した私にも見えていなかった重要な意義を、4人のパネラーとの議論から新たに認識することができました。また、提言を実現するにあたり最も大きな壁である「受益者負担の論理」についても、それを突破する重要なヒントを得ることができました。今後の活動にぜひ生かしていきたいと思います。
「若者の未来への展望」を切り開くための熱い討論が行われた『高等教育費の漸進的無償化と負担軽減を考えるシンポジウム』(ろうふくTV)は、YouTubeのアーカイブ配信で視聴可能なので、興味のある人はぜひご覧ください。