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事件は宴会で起きていた~飲み会や集まりの「ルール」が私たちを守る

雨宮処凛(作家、活動家)

 もちろん、このようなガイドラインがある場にハラスメントがゼロかといえば、残念ながら答えはノーだ。そしておそらく、このようなガイドラインは、先人たちの大いなる失敗と反省から生まれたのではないかとも思う。しかし、そういうことにみんなで気をつけようという共同体の方が、無法地帯より居心地がいいのは当然だ。

 そんな中で15年生きていると、様々な学びがあった。

 例えば過激な下ネタを言ったり、酔っ払って目の前にいる男女に「あなたたち、お似合いだから付き合っちゃえば?」なんて口にした人がきっちり怒られる光景を見てきた。もちろん、その場で怒られることもあれば、後日、「ああいうことを言われて不快だった」という告白がなされることもある。そういう言葉がスルーされず、話し合いが持たれるのだ。私自身、酔った男性に嫌なことを言われ、それを相談したところ、後日、人づてに謝罪の言葉をもらったこともある。

 そういう一つひとつの積み重ねが、「この場でちゃんと尊重されているんだ」という安心感につながる。セイファーガイドラインがあるだけで、「場」への信頼が高まるのだ。

 また、今改めて思う効果は「いじめが起きづらい空気」ができるということだ。どんな集まりでも、立場の高低は必ず生まれる。声が大きかったりリーダー的な存在はどこにでもいる。しかし、ガイドラインを全員が理解している場では、誰も強者におもねらない。「立場が弱い方」が「強い方」に対して「今の発言はおかしい、自分は不快だ」と表明すれば、それがガイドラインに基づく限り、強者であってもしっかり断罪される。

「今のは〇〇さんが悪いよ」「そう、セイファーガイドライン思い出してよ」という感じで、リーダー格であっても非は非として指摘されるのだ。もちろん、そんな場ではみんなすぐに謝る。

 人に「おかしい」と指摘し、指摘されたら謝るということへのハードルが思い切り低くなるという効果もある。世の中には、「セクハラだ」「パワハラだ」と言われた途端に逆ギレし、決して謝らない人もいる。そうして事態はこじれにこじれる。が、セイファーガイドラインがある場では、そこまでのハラスメントが起きる前に指摘され、指摘された方はすぐに非を認めて謝る傾向がある。そういう行為を日常的にしているため、日本社会ではなかなかできない「指摘」「謝罪」の練習ができているのだ。

 もちろん、万能ではない。どれほど素晴らしいガイドラインがあったって、人間がいる場では問題は起こる。

 それでも、いや、だからこそ、ルールは必要なのだ。

 あるだけで、読み上げるだけで、少なくない効果を発揮するもの。男女問わず、身を守ってくれる簡単な決まり。

「この場においてハラスメントは許されない」

 飲み会の場でだって、そう宣言することはできる。セイファーガイドラインがもっとカジュアルな形で広まったら、飲み会や人との集まりは、もっともっと楽しいものになるはずだ。

著者情報

作家、活動家

雨宮処凛

あまみや かりん

1975年、北海道生まれ。作家、活動家。反貧困ネットワーク世話人。バンギャル、右翼活動家を経て、2000年に自伝的エッセー『生き地獄天国』でデビュー。自身の経験から、若者の生きづらさについて著作を発表する傍ら、イラクや北朝鮮へ渡航を重ねる。その後、格差や貧困問題について取材、執筆、運動を続ける。『生きさせろ! 難民化する若者たち』でJCJ賞受賞。著書に『一億総貧困時代』『「女子」という呪い』など多数。

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