「社会的連帯経済」への誘い17「ケアセンターほみ」地域を支える多文化協働
工藤律子(ジャーナリスト)
2軒の訪問を終えた帰り道、藤田さんは、「今日はとてもいい日になりました」と、感慨深げに言った。同じ国出身の男性2人の笑顔を見られたからだろう。日本人でもそうだが、常にどこか孤独を感じているであろう外国人移住者にとってはなおさら、〈ほみ〉の訪問介護は生活だけでなく、心の支えにもなっている。同じ国出身のヘルパーからの母語での語りかけや笑みは、団地の人口約7000人の半数以上を占めるブラジルやペルー出身の住民の暮らしに、潤いをもたらしている。
訪問介護の利用者は、現時点では高齢化が進む日本人のほうが多いが、今後、外国人の利用者も増えていくだろう。幸い、〈ほみ〉の介護ヘルパーは30〜50代が中心で、一般の日本人ヘルパーよりも若く、勤務時間も長く取れるため、人手は確保できると言う。ただ、ブラジルやペルー出身の利用者への対応には、日本人利用者に対してよりも工夫が求められる。日本人は介護ヘルパーの役割を比較的よく理解しているが、「介護は家族の仕事」と考えている中南米出身者は、「ヘルパー」を「お手伝いさん」のように考えている人も少なくないからだ。
「年末の大掃除とか、生活保護の手続きの同行通訳とか、介護事業の枠外のことを頼まれることも多いんです。そういう時は、協同組合の『助け合い活動』でカバーするようにしています」
上江洲さんはそう説明する。高齢協には、困りごとを解決する仕組みとして、「助け合い活動」があり、〈ほみ〉では1時間2000円と格安の料金でその依頼を受けている。そうした幅広く柔軟な対応が、地域の多様な人々の暮らしを支えている。
家族と過ごすような空間
〈ほみ〉では、2015年8月から事務所で、障がいのある子どもたちのための放課後等デイサービスの事業「児童デイサービスほほえみ(以後、〈ほほえみ〉)」も運営している。現在、計18人の子どもが登録されており、月曜から金曜の午後3時から6時までの間、毎日6〜9人が〈ほほえみ〉で過ごす。障がい者手帳を持つ子どもなら、知的障がい、発達障がい、身体的障がい、どんな障がいのある子でも利用できる。3時前にスタッフが送迎車で特別支援学校などへ迎えに行き、帰りは一人ひとり自宅へ送り届ける。

午後3時過ぎ。〈ほほえみ〉にやってきた子どもの検温をする日系ペルー人スタッフの新垣ウェンディさん。訪問介護ヘルパーステーションの管理者だが、デイサービスも手伝う。撮影:篠田有史
訪問介護の現場を案内してくれた藤田さんは、〈ほほえみ〉のスタッフだ。1990年の来日後、工場労働者として働いていたが、60歳で退職してからは団地の子どもたちの日本語教室でボランティアをしていた。その後、〈ほみ〉に就職。介護ヘルパーの資格も取ったが、もっぱら子どもたちの支援に携わる。その日の子どもの様子をそれぞれ観察しながら、「毎日、私も子どもになって遊んでいます」と、いたずらっぽく笑う。
子どもたちは、障がいの種類や程度がそれぞれ異なるため、取り組んでいることも様々だ。体が不自由で自分ではほとんど動けない子は、スタッフと音楽を聴いたり動画を観たり。自分でパソコンができる子は、好きな画面を開いて見ながらスタッフとおしゃべりをしたり。好奇心旺盛で、室内を動き回っては皆に話しかける子もいる。藤田さんは、誰か一人に付き添うのではなく、いろいろな子どもたちと、家族のように関わり合う。
そこでは異なる個性の子どもたちが、スタッフと触れ合いながらゆったりと時間を過ごす中で、新たな関心や喜び、生きる力を得ているように見える。家族のつながりを大切にする中南米の人々がつくる空気が、アットホームな空間を生み出している。毎日1日の終わりには、一人ひとりの写真が撮られ、家族への連絡帳に貼られる。
多文化共生が生むバランス
昨年春から〈ほほえみ〉のスタッフに、一人の日本人青年が加わった。吉村迅翔(しゅんと)さん(23)だ。吉村さんは、学生時代に保見団地で清掃などのボランティア活動に参加して以来、この地域の様々な課題を知ることになった。そして2021年6月、大学生3人で外国にルーツを持つ子どもたちの学習支援をする市民活動団体「JUNTOS (ジュントス。ポルトガル語で『共に』の意)」を立ち上げる。長期休みにしか(NPOによる)日本語学習支援を受けられなかった子どもたちが、もっと頻繁に学べる機会を作るためだ。
JUNTOSは、毎週土曜に、地域の集会所の会議室を借りて活動を始めた。ところが、新型コロナの感染急拡大で集会所が利用できなくなり、やむなくオンラインや青空教室に。それを見た〈ほみ〉のスタッフがデイサービスのスペースを提供してくれたおかげで、今はそこで5人の仲間と小学生15人前後の宿題の手伝いを続けている。その縁もあって、大学卒業とともに〈ほみ〉のデイサービスで働き始めた。
吉村さんは言う。
「誰かのために何かするのが好きなんです」
遊ぶ子どもたちに兄のように寄り添い、会話を楽しむ吉村さんの姿からは、思いやりと情熱が伝わってくる。日系ブラジル人の子どもや親とのコミュニケーションを深めるために、ポルトガル語も身につけたと言う。〈ほみ〉のスタッフや、高齢者施設で働くJUNTOSの仲間、障がい者の職業訓練に携わる福祉事業所などから学びながら、将来、外国にルーツを持つ人たちのための福祉事業を起こす計画をしていると語る。
「もともとはホテルマンになりたかったんです。でも、ホテル業界のサービスと違い、本来は誰もが受けられるはずのサービスでも、受けられない人がいる。その人たちのために働くべきだと思ったんです」

パソコンで遊ぶ少女と、年長の友人か兄のように会話する吉村迅翔さん。撮影:篠田有史
〈ほみ〉では、藤田さんや吉村さん、そのほか大勢の日系人スタッフと日本人スタッフが協力して事業を計画、運営している。代表の上江洲さんは言う。
「(協同組合として)毎月1回、ヘルパー会議を開き、いつもスタッフ皆の意見を聞いて、物事を進めています。介護の依頼があれば、内容によって適任者を見極め、本人の意思を確認します。スタッフ同士、何かわからないことがあれば、すぐに電話で相談し合うようにしています。そうすることで、スタッフ一人ひとりが安心して働けるんです」
時間厳守など細かいところに注意を払う日本人と、明るく大らかなブラジルやペルーの人たち。多様な仲間が協働する職場は、まとめるのが大変な面もあるがメリットのほうが大きいと、上江洲さんは考えている。
「日本人と外国人、両方いることで、良いバランスが生まれる。職場でも地域でも、互いが相手の文化や習慣を大切にし、分かり合う努力をすれば、誰もが豊かに過ごせる空間が創れると思います」

取材当日、夕方まで「ケアセンターほみ」にいたスタッフと利用者の一部が、集合写真の撮影に応じてくれた。前列右が藤田パウロさん。後列左から3人目が訪問介護ヘルパーステーションの管理者で日系ペルー人の新垣ウェンディさん、4人目が上江洲恵子さん、5人目が吉村迅翔さん。撮影:篠田有史
高齢者生活協同組合「ケアセンターほみ」
事業開始:2011年6月1日
スタッフ:18人
事業内容:訪問介護、障がいのある子どものデイケア
モットー:あらゆる垣根を越えて、異なる個性が共に考え過ごす、豊かな空間を創る