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連載

変革への闘い

「ストリートチルドレン」と呼ばれて17 新たな挑戦

工藤律子(ジャーナリスト)

 この時は、結局、ビッキーを自助グループがある建物の前まで連れて行き、自分で来ようと思えば来られるよう、場所を教えるに留まった。彼女と別れた後、ダビが私に、
「覚えているかい? 以前、ビッキーがリハビリ施設からビデオ通話で挨拶したのを」
と言った。それを聞いた瞬間、私はある情景を思い出した。さっきビッキーがいた場所に、まだクリスタルにハマる前の青年たちを訪ねた時のことだ。路上にい続け、アクティーボを手放さない彼らを前に、ダビが「良いお手本を」と、リハビリ施設にいたビッキーとビデオ通話をした。
 スマートフォンの画面に現れた少女は、生き生きとした健康的な笑顔で、路上にいる仲間たちに話しかけた。そして、仲間たちは、自分たちの不甲斐なさを察してか、彼女に向かって熱心にこう語りかけた。
「ビッキー、もう二度とここへは戻ってくるなよ!」
 ところが、彼女は戻ってきてしまった。それは、ダビにとって、言いようもなく辛い現実だった。
 その後、私たちは再び、ダビと街を歩いていてビッキーと出くわした。その時、彼女は、交差点で車のフロントガラスを磨く仕事をしていた。ダビの姿が目に入ると、最初はすうっと逃げようとしたが、思いとどまり、そばに来て歩道に座り込んだ。
 前回会った時とは別人のような虚ろな目と少し汚れた服で、「まだリハビリのための自助グループへは行ってない」と打ち明け、「だって彼氏が――」と言い訳を始める。そんな少女の横にしゃがみ込み、ダビは、必死で語りかけた。
「彼氏ではなく、自分のことを考えるんだ。キミは賢い子で、優秀な成績で中学を卒業するところだったじゃないか。キミは、価値のある大切な存在なんだよ。なのに、薬物をやり続けることで、今、その素晴らしい自分を自分で傷つけているんだ」
 その声を黙って聞いているビッキーの目に、涙が溢れてきた。だが、彼女には、その痛みと悲しみを自己再生のエネルギーに変える力が、もう残っていないように見えた。
 それでもダビは、彼女を見かけるたび、近づいて語りかけ続けている。その裏には、こんな信念がある。
「1人ひとりの痛みにきちんと寄り添いさえすれば、彼らの人生は変わる」

道端で再会したビッキーは、クリスタルへの依存が進んでいるようで、精気のない目をしていた。ダビは彼女に、なんとか自分を見つめ直してもらえるよう、話しかける 撮影:篠田有史

「テキオ」、本格始動

 職場が一時滞在施設に変わってまもなく、ダビは私たちに、ある計画を打ち明けた。それは、路上活動を専門に行う独自の団体を運営する、というものだ。
「実は団体自体はもう2018年にできていて、市民団体としての政府登録も済ませてあるんだ。ただ、まだ資金がないから、これまでは細々と、ボクらが個人的に活動を続けているだけ。これから本格的に、活動を軌道に乗せたいと思っている」
 その団体は、「テキオ・ポル・ロス・ホベネス(若者のためのテキオ。以後、テキオ)」という名で、ダビが代表を務め、ほかに4人の仲間がいるという。「テキオ」とは、メキシコの先住民が「地域のために集団で無償労働を行う伝統」を指す言葉だ。そこには、路上の子どもや若者のために、皆が協同で働こう、という思いが込められている。
「最初は、カサ・アリアンサ時代に知り合ったイギリス人の友人と共に、路上の若者たちが働けるカフェを立ち上げる計画だった。ところが、資金が集まらず、イギリス人の友人は帰国し、計画を離れた。そこで、ボクとカサ・アリアンサの路上チームで一緒だった仲間4人で、若者たちとのつながりを保ち、その人生を変えるために路上活動を守ろう、と考えたんだ。だから、いわゆる仕事ではなくとも、空いている時間を使って続けている。今後は資金を確保して、路上活動専門のNGOとして自立したい」
 ダビは、一時滞在施設での土日の勤務とそれが明けた月曜日の午前中以外、毎日、ストリートエデュケーターとして、無償で路上活動を続けている。もう1人、「テキオ」の資金集めにも奔走する仲間のモイセスも、時々、一緒に路上をまわる。そして、若者たちを訪ねることに加え、「プロ・ニーニョス」で行っていたのと同じように、子どもをデイセンターにつないだり、学校に入学するための手続きを手伝ったり、定住施設に紹介したりしている。だが、それらの活動にかかる費用は、すべて「自腹」。団体自体には活動を支える資金が、まだない。

「テキオ」の長袖シャツを着て、路上を回るダビ(右)とモイセス 撮影:篠田有史

 それでもダビたちは、少しずつでも活動を理解し応援してくれる人を増やそうと、大学で社会福祉学や教育学を教える教授や学ぶ学生をはじめ、関心を持ってくれそうな人たちや企業に声をかけている。それと同時に、自前のバザーを開いて資金を稼いだり、医療機関の割引を手に入れたりして、路上活動に必要な最低限の予算を確保しようと努力している。学校へ入りたい子どものための書類作成手続き、施設や病院へ連れて行く時の交通費、怪我や病気の際に必要な薬代、誕生日やクリスマスなどの特別な日を一緒に祝うための費用など、お金は常に必要だからだ。
「テキオ」が目指すもの。それは、路上の子どもや若者たちに、未来を描く権利を取り戻すことだ。ダビの相棒、モイセスは、自分たちをこう定義する。
「路上で暮らす子ども、若者、家族と日々、対話しながら、彼らと連帯して活動する。その過程で、それぞれの希望を叶えるために必要な、彼ら自身の、そして社会の変化を、共に生み出す。そんなプロのストリートエデュケーター・チーム」
 私たちは、その活動の詳細を目撃することになる。

著者情報

ジャーナリスト

工藤律子

くどう りつこ

1963年大阪府生まれ。東京外国語大学地域研究研究科修士課程在籍中より、メキシコの貧困層の生活改善運動を研究するかたわら、フリーのジャーナリストとして取材活動を始める。著書に『仲間と誇りと夢と』(JULA出版局)、『ストリートチルドレン』(岩波ジュニア新書)、『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社、開高健ノンフィクション賞受賞)、『マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』(岩波書店)、『ルポ 雇用なしで生きる スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』(岩波書店)、『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』(集英社新書)などがある。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。

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