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連載

「悪質ホスト問題」ではなく「ホスト問題」だ 〜表面的な対策で性搾取の手口を温存?

“ここがおかしい”

仁藤夢乃(社会活動家)

警視庁長官の視察報道に感じた疑問と怒り

 2023年11月、歌舞伎町(東京都新宿区)のホストクラブが集中するエリアを警察庁長官が視察し、その様子がメディアで大きく報じられた。少女や成人女性たちを性売買に追いやって、とことん食い物にする男たちが牛耳る夜の街――そこへ行政・警察組織上層部の男たちがぞろぞろとやってきて、睨みをきかせる様子が映し出されていた。しかしその実、少女や女性に対する被害は置き去りにされ、単に男社会の権力構図をPR的に見せられたように感じたのは私だけだろうか?

 朝日新聞の記事によると23年春、歌舞伎町のホストクラブに勤める男が客の20代女性に「立ちんぼで稼いだら店でも会えるし借金返済もできる」などとそそのかし、新宿区立大久保公園近くで売春の客待ちをさせた疑いで逮捕された。その女性は、男の勤める店に常に20万円ほどの売掛金(ツケ)があったという。記事では「女性に借金を負わせ、売春をさせて資金を得させるという、非常に卑劣な営業手法に対しては、徹底的にあらゆる法令を駆使して取り締まりをする」との警察庁長官の談話も報じられていた(朝日新聞デジタル「『立ちんぼで稼いだら』売春指示も 悪質ホスト、国が警察が対応強化」2023年11月28日)。

 ホストクラブやメンズコンカフェ(男性キャストのいるコンセプトカフェ)などで女性を騙し、借金を背負わせて性売買に追いやる手口については、前回の本連載「風俗で妊娠し、路上で出産した女性を追い詰めたもの」でも紹介した。ホストはターゲットの女性に「色恋営業」(2人が恋愛関係にあると思わせて店に呼び込む手口)などをかけ、「お金を使わないと関係を維持できない」「彼にとって一番の存在になりたい」と、恋愛相手を想う気持ちにつけこんで払いきれないほどの金を使わせる。そうして女性に借金を背負わせて性売買に斡旋し、そこでより多くの金を稼げるようにと美容整形や豊胸を勧めるなどし、借金を重ねさせていく。

 すると今度は、闇金業者や買春者らが借金の返済苦や生活苦に乗じて近づき、相談に乗るふりをして見返りにさらなる性売買を行わせる。やがて電気やガスが止められ、家賃滞納で住居も失うと、「うちに住めばよい」と言って住まいを提供して逃げられなくする。返済が滞ると、「家族や友人にばらすぞ」などと言葉や暴力で脅しをかけ取り立てるのだ。

 この手口は今に始まったことではなく、私が知る限り数十年に渡ってずっと続いてきたものである。先の報道では、今まさに暴き出したかのように警視庁長官が威勢を張っていたが、実は行政や警察はそうした事情をよく知りながら、これまで見て見ぬふりをしてきている。なので私には、とても卑怯なそぶりに思えてならなかった。

「悪質ホスト」の言葉で問題が矮小化させられる

 最近、こうした実態を「悪質ホスト問題」と題してメディアや行政、国会が取り上げるようになったことにも私は危機感を抱いている。そもそも風俗がはびこる街に「良質なホスト」が存在するものでもなく、これはホストによる搾取の問題――「ホスト問題」である。にもかかわらず、あたかも一部が「悪質」であるかのように矮小化して報じられ、議員や行政もまやかしの対策をしている。もしかして問題が解決したかのように見せかけ、結果的にホストによる女性への搾取を温存するのが目的なのでは、とも思えてしまう。

「悪質ホスト問題」というワードには、一部の「悪質」な人や店への対策を取れば問題は解決するのだ、という印象を多くの人に抱かせる効果がある。いずれ「適正AV」のように「適正ホスト」や「適正メンコン(メンズコンカフェ)」などが登場して、搾取の構造は温存されたまま、被害が無かったことにされてしまうのではないだろうか。

 ホストは色恋やグルーミング(わいせつ等の目的で懐柔すること)、集団での囲い込み(例えば店のホスト総出でおだてあげて興奮状態にする)などさまざまな手口を使い、女性に売掛金を負わせて性売買に追い込む。少なくともこの20年間は、私もその実態を自分の目で見てきた。搾取の構造に目を向けずに表面的な対応をするのではなく、搾取の構造に切り込む対策が必要だ。

 そこで今、「悪質ホスト問題」への対策で、掛売りの禁止や規制が論点になっている。店が高額のシャンパン等を提供し、その場では支払えないほどの金額を後払いで使わせたり、担当ホストが勘定を肩代わりする形で女性に借金を背負わせたりするのを規制しようというものだ。なぜならこの手口には裏があり、女性に数十万円から数百万円単位の借金を背負わせ、返せない場合はホストが借金を返済する、ホストが店に罰金を払う、といったルールをつくって彼らに金を回収させる仕組みになっている。そのため、ホストに迷惑をかけたくない、嫌われたくないなどの想いから、体を売ってでも返そうと思い、促されるままに風俗で働くようになる女性が後を絶たない。

地域の業者ぐるみで⼥性を性搾取に誘導する

 23年11月、女子高生に酒を提供したとしてホストクラブ経営者が逮捕された事件でも、店のホストが「売春」を指示していた。少女はホストに「店のナンバーワンになるにはお前の力が必要」と言われて、大久保公園周辺で50人以上の買春男に体を売って、その金で店へ34日間通い、173万円を店に支払っていたそうだ。

 私はColabo(コラボ)の活動の中で、日々こうした被害を目にしている。孤独感を抱えていたり、ホストやメンズコンカフェの男にグルーミングされ、恋愛していると思い込み「彼のために体を売らなければならない」と思い込まされていたりする少女は少なくない。被害者の低年齢化も深刻で、13歳、14歳の少女が被害に遭っていることもある。「(周りの子も)みんなそうしているから」と、それが当然のことであると思い込まされていることも少なくない。

 今回、摘発された店のホストに売春させられていた女子高生は、ネットのアプリを通してホストと知り合い、「付き合おう」と言われて店に通うようになったという。「少女の居場所がわからなくなった」と家族から相談を受けた関係者が探していたところ、ホストと一緒にいるところを発見された。通っていた店からは、他にも複数の少女たちが書いたとおぼしき借用書が、身分証のコピーと一緒に見つかったという。

 Colaboがこれまで出会ってきた少女たちも、まったく同じ被害に遭っている。最初は路上で声をかけられたり、SNSやマッチングアプリなどで気の合う人を探したりしたところ、「たまたまその相手がホストだった」と話す少女や女性たちがいる。それは「たまたま」ではなく、「営業」の名目で行われるホストによる搾取の仕掛けなのだ。

 ホストが友だちや恋人を探しているふりをしてそうしたアプリに登録し、後からホストであることを打ち明けて、それでも本当の恋愛だと思い込ませるため初めは店には誘わず、徐々に店に誘導する手口もある。そして高額な飲食代を請求し、身分証をコピーして借用書を書かせる。それからスマホの電話帳に入っている家族や友だち、学校などの連絡先を写しとって「お金を返さなかったら上から順に連絡していく」と脅し、少⼥を大久保公園に⽴たせる。さらに買春者から受け取った⾦を回収しに来たり、ちゃんと立っているか確認しに来たり、時には見張り役に監視させたりもする。

 このように「ホスト問題」を考えるうえでは、ホストだけではなく、地域に根を張るホストクラブを含めたさまざまな性売買業者や、その周辺の業者が連携して搾取が行われてきたものという認識が必要だ。

被害⼥性は数知れず「普通」の⼥⼦⼤⽣も

 被害に遭うのは、家に帰れない、家族を頼れないなどの事情を抱えた少女たちだけではない。家には安心して過ごせる環境があり、家族との関係もよく、大学に進学しているような若い女性が狙われることも増えている。18歳や20歳になったばかりで経験や知識の少ない女性たちや、地方から出て来たばかりで身近に知り合いが少ない状況にある女性が狙われることも多く、そうした女性たちが、一見「特別な事情がない」のに性売買に誘導されている。

 その背景をよく知らない人たちが「女のほうも好きでやっている」「お小遣い稼ぎだろう」などと語ることで、その構造が覆い隠され、性搾取が温存されていることも忘れてはならない。

著者情報

社会活動家

仁藤夢乃

にとう ゆめの

1989年生まれ。中高時代に街をさまよう生活を送った経験から、10代女性を支える活動を行っている。これまでに夜の街でのアウトリーチ、シェルターでの保護や宿泊支援、シェアハウスでの住まいの提供といった活動を展開。第30期東京都「青少年問題協議会」委員。厚生労働省「困難な問題を抱える女性への支援のあり方に関する検討会」構成員を務めた。TBS「サンデーモーニング」にコメンテーターとして出演中。著書に『難民高校生』(英治出版)、『女子高生の裏社会』(光文社新書)。

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