「悪質ホスト問題」ではなく「ホスト問題」だ 〜表面的な対策で性搾取の手口を温存?
仁藤夢乃(社会活動家)
先日、夜の街で少女や女性たちに「アウトリーチ活動」(声をかけてつながるための活動)をしていた時、歌舞伎町の真ん中でホストと思われる男にひどく冷たい態度で詰め寄られ、暗く悲しい表情をしている女性がいた。気になったのでその様子をそばで見続け、男が離れたところで女性に声をかけた。
「なんか男にひどい態度とられてたけど、どうしたの?」
すると女性の目からは涙があふれた。話を聞くと、彼女は18歳で大学に入ったばかりだった。マッチングアプリで知り合った男がたまたまホストで、彼と付き合っていて「夢を応援してほしい」と言われ、お店にも行くようになった。出会って3か月だったが、あっという間に彼に言われるまま風俗で働くようになった。彼女が「体を売るのは辛いからもうやりたくない」と話しても、彼は認めず「俺のこと好きじゃないんだ」と彼女を責めたという。
「私はそこまでしたのに……」と彼女は泣いていた。街にはそうした女性を狙う業者があふれている。もし私たちが彼女に声をかけなかったら、別の男が声をかけてなぐさめるふりをし、さらなる被害に遭っていたかもしれない。
こういう場面に遭遇することはしょっちゅうで、歌舞伎町だけでも毎日、何人もの女性が同じような目に遭っている。歌舞伎町にはホストクラブが300店舗あり、ホストは6000人以上いると言われているが、それ以上の数の女性たちが日々被害に遭っているということだ。
ホストによる暴力を誰もが⾒て⾒ぬふり
別の日の深夜3時ごろ、路上で男に後ろから羽交い絞めにされている女性がいた。彼女は近くのコンビニに逃げ込んだ。私が車から降りて追いかけると、彼女はお酒に酔っていて、疲れて立てない様子で「とにかくあの人から離れたいのにタクシーに乗せてくれない」と訴えてきた。男はホストで、彼女が「帰りたい」と言っても「他のヤツのところには行かせない」などと「営業」がすごくて放してくれないのだという。
彼女と話をしていると男がコンビニに入って来たので、「あなたと離れたいと言ってるから来ないでください」と言ったら、男はいい人のふりをして、「知り合いだから自分がなんとかするので大丈夫です。このままだと酔っぱらっていて心配なので」と話した。
「あなたが彼⼥の首を締めているところを⾒た」と私が話すと、男は「彼女には精神疾患があって、道路に飛び出そうとしていたから助けていただけ」と動揺した様子で言うので、「とにかく今日は私が対応するから。離れてほしいと彼女は言っているから」と私は繰り返した。その間に、女性がおびえた様子でコンビニの店内を移動して男から逃げると、男は「正義面するな!」「部外者には関係ない!」と私に突っかかってきた。「じゃあ今、俺がパニック障害になればいいのか」などと支離滅裂なことも言っていた。
私が「警察を呼ぶ」と言うと男は店から出ていったが、そうしているうちに女性はレジ前に倒れ込んでしまった。そして、「ホストのために風俗堕ちまでしたのに、うちが間違ってたのかな」と泣いていた。
店の前でその男がまだ待ち伏せているにもかかわらず、一部始終を見ていたコンビニの店員は「ここに居られると迷惑なので……」と私たちに告げた。買い物に来た男女連れにタクシーを呼んでもらえないかと助けを求めても、「大変ですね」と返されただけだった。誰も守ってくれない、これが歌舞伎町だよな、という感じの対応だった。
この街の人たちにとっては、こういうことは特別なことではなく日常茶飯事なのだ。むしろ、こうした⼥性に対する暴⼒や⽀配、性搾取で成り⽴っている部分もあると多くの人がそれを容認している。それを一番理解しているのは、街をさまよう少女や女性たちだ。彼女たちには「誰も助けてくれない」という実感がしみ込んでいる。
警察を呼んでも全然来ないので、私は一緒に活動している仲間を呼んでタクシーを停めてもらい、男が自販機で飲み物を買っている隙に女性を車に乗せた。男は追いかけてきて「やってくれたな」「お前を警察に突き出す」と、私に向かって再びキレたのだった。
キャッチもスカウトもやむなし――が行政の姿勢
また別の日には、アウトリーチの活動中、2人の女子大生がキャッチの男に捕まっているところに遭遇した。困惑した様子の女性たちにキャッチがしつこくしていたので近づくと、ホストクラブに誘導しようとしていたらしく「マイナンバーカードある?」と聞いていた。私が声をかけて男から引きはがすと、彼女たちからは「とても怖かった」とものすごく感謝された。一方、男のほうは「店にもう連絡してあるのに!」と怒りまくっていた。
彼女たちは地方から遊びに来た18歳で、新宿がこんなところだとは知らなかったという。キャッチにしつこく付きまとわられ、前をふさがれ断ってもどいてくれず、「お金は全然かからないから」「初回は1000円だけ」などと勧誘されたという。私は、同じような手口で店に連れて行かれて「缶モノ(缶に入ったアルコール)の飲み放題で3万6000円」などと高額請求をされ、借金返済のために「寮」付きの風俗店に囲われていた知的障害のある女性を逃がしたこともある。
キャッチは客を店に誘導するバック(売り上げの一部や紹介・斡旋料など)をもらえる。性風俗やAVなどのスカウトを兼ねていることも多く、年齢確認のためなどと言ってマイナンバーカードなどの身分証を確認し、ホストにつないで借金を負わせる。そうして返済のために仕事を紹介するとそそのかし、性売買に女性を斡旋する。キャッチもスカウトも新宿区の条例違反となる行為であるが、野放しになっていて、歌舞伎町だけでも毎晩200人ほどが出没する。
こうしたホストを取り巻く実態を行政も、警察も、議員も、知らないわけがない。にもかかわらず「悪質ホスト問題」などと言っているのは、冒頭で述べた通り別の意図があるのだろう。新宿区長は、この問題がメディアで報じられると「先ずは業界と対話をします」とSNSに発信した。被害者の声を聞くのではなく業界と対話する。それが新宿区の姿勢だ。
この悪しき社会を変えるにはどうしたらいい?
報道によると、23年1月以降、大久保公園の周辺で買春者の客待ちをしたとして、売春防止法違反容疑で現行犯逮捕された女性は126人だった。そのうち9月以降に摘発された81人について、約4割がホストクラブなどに通うための金を稼ぐことを理由にあげていたようだ。
売春防止法では、買う側は「相手方」として受動的な存在に位置づけられ、第5条の勧誘罪は「売春の相手になるよう勧誘した側(大抵が女性方)」にしか適用されない。大久保公園の周辺では、買う側の男たちのほうから「いくら?」と女性に声をかけているのに、彼らに勧誘罪は適用されないのだ。少女や女性を騙して儲けているホストらも、売春防止法を意識し、斡旋で自分が捕まらないように細心の注意を払いながら女性たちを「売春」に誘導している。つまり、女性が自主的に体を売るように仕向ける、そのように持っていくことに長けていて、研修やマニュアルまで共有されているし、複数人でのグルーミングも日々行っている。
なので、被害の渦中にいる少女たちと知り合うと、「彼のために自分が好きでやっているから」と本気で言ってくることもよくある。少女や女性たちがそう思うようにホストはさまざまな手口で誘導しているし、街の雰囲気もそれが当たり前のことであるかのように維持され、さらにはホストや性売買の問題を正しく報じたり教育したりしない社会も今の状況を後押ししているからだ。
このような社会では、少女や女性たちが自分の被害を被害と認識することもできない。それによって利益を得ているのは誰なのかを、私たちはよく見きわめなければならない。「悪質ホスト問題」対策などというまやかしに騙されてはいけない。新宿区長は「業界と対話」した中で、業界団体をつくって自主規制を行うことを求めたとされる。しかし、裏を返せば自主規制で「優良店」をアピールすることにより、この業界を守っていくという話し合いにも受け取れる。
特に被害が深刻な歌舞伎町では、ホテルや飲食店、酒屋や花屋、美容室、病院や整形業者など、多くの業者が性売買によって利益を得ており、商店街振興組合にもホストクラブが加盟し理事をやっていたりする。ホストや性売買業者は福祉事業にも手を出し、地域の清掃ボランティアにも積極的に参加するなどして社会に貢献しているように見せ、クリーンなイメージを付ける努力も惜しまない。