第13回 犬童一心さん(映画監督/CMディレクター)
犬童 まあ、いろいろ偉そうなことを言いましたが、全部無視してひと言で言えば、猫ってかわいいですよね(笑)。
加藤 アハハハ。その、猫のかわいらしさってなんでしょうかね。
犬童 これを言葉でどう説明すればいいんだろう……。小さくてやわらかいというのはありますよね。あっ、あとはテンションかな。犬はテンションが高いですよね。喜ぶにしても怒るにしても。でも猫は、トイレの前とかにダーッと急に走り出すことはあっても、基本的にテンション低めじゃないですか。グーグーがああやって座っているのは穏やかですよね。犬はだら~っとしてても、なんかテンション高くないですか(笑)。
加藤 アハハハハ。これは大人だからわかる魅力かしら。
犬童 確かに子どもは一緒に遊べる犬のほうが好きですかね。大島さんが、猫は今の人間社会の中においたら人間が守らなければ生きていけない存在だと言っているのですが、それは猫のことをよく表していると思うんですよ。どこか弱いところがあって、守ってあげたくなる、そうさせることを身につけているというか。
加藤 守ってあげないとだめと思わせている。だから生き延びてきたのかもしれません。
犬童 見ているだけで穏やかになれる。それに、闘犬はあるけれど闘猫はないですよね。
加藤 猫は戦わずに逃げますから無理でしょうね。戦わないために威嚇し合って、ケンカも一瞬ですから。
犬童 僕が思うに、猫って「非戦」なんですよ。敵を作らない。芸人で言ったらタモリさんですよ。(ビート)たけしさんは敵を作って自分が相対することに挑んでいる。でも、タモリさんは敵を作らないので、見てるとほっとしませんか? いつ噛みつかれるかわからない相手だと気が気じゃないけど、戦わないことがわかっている相手だとほっとする。
加藤 すごく面白い哲学ですね。
犬童 僕、『笑っていいとも!』がなくなったときに、「残念」じゃなくて「やばい」と思ったんです。お昼に『いいとも!』をやっているような国が戦争なんかできるはずがないと思っていたから。今、最後の砦は『タモリ倶楽部』。あの番組がなくなったら日本は本当に危ないと思っています(笑)。猫はそういう存在。チャッピーやグーグーがいる横でテレビを見ていると、すごくほっとします。それは猫が非戦で、「戦わない」というオーラを出しているからだと思うんです。第二次世界大戦下で、ララ・アンデルセンの歌った「リリー・マルレーン」がドイツ軍側から聞こえてくると、敵対する連合軍側も黙って耳を傾ける瞬間がありましたが、猫にはそういう力があると思っています。
加藤 そうかもしれませんね。今日はとても面白いお話が聞けました。ありがとうございました。
◆一筆御礼 ~対談を終えて
子どもの頃から猫と暮らしてきた人は猫の存在が当たり前になりすぎて、「猫を見ながら哲学をする」ことが難しくなっているのかもしれません。犬童さんの「猫は非戦」という言葉は、猫が風景の一部になってしまっている私にとって、とても新鮮でした。「猫はタモリさんだ」に至っては、考えてもみなかった発想で、驚きに近いものさえありました。大人になってから初めて生き物と暮らし始めた人ゆえに、猫を冷静に見ることができ、その魅力を客観的な言葉で表現できるのだろうと思います。
家に帰り、我が家の猫たちを見つめながら、犬童さんの言葉を反芻してみましたが、やはり、ただの甘ったれにしか見えませんでした。私がソファに仰向けに寝転がった途端に、お腹の上と胸の上に乗って「やれやれ」と言わんばかりに爆睡する猫たちですから、仕方ないですよね。
撮影:慎芝賢