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連載

ロヒンギャを苦しめる『不可視化』の暴力

第2回

木村元彦(ノンフィクションライター、ビデオジャーナリスト)

「ロヒンギャ問題は最近起きたのではありません。軍事政権の時代から今に至るまで人権侵害を受けております。ロヒンギャの人たちはミャンマーのラカイン州に何世紀にもわたって住んでいました。1948年から62年まで、民主的に選ばれたミャンマーの政権というのがありましたが、この時代には少数民族として認められ、国籍も与えられ、人権も保障されておりました。62年に軍のクーデターがあり、それからずっと人権侵害が続いております」

 2012年以降も弾圧は続き、今でもラカイン州北部のシットウェ市にあるIDP(国内避難民)キャンプの中に15万人のロヒンギャの人たちが入れられていること、そしてこの8月から起きている激しい攻撃についての報告がなされた。数千人の人たちが殺され、少女たちがレイプされ、子ども、高齢者などが被害にあっていることなど、深刻な被害状況が口から出る。

「こういったことを主張しているのは我々だけではありません。国連も、アムネスティ・インターナショナルなどの人権団体も、情報を検証したうえで言っています。私が不安に思っているのは、世界がこれに対して動いていないこと。ただし、世界に対して文句を言う前に、日本政府に対して申し上げたいことがございます」

 日本は軍事政権時代も、現在の国民民主連盟(NLD)政権となってからも、ミャンマーと非常に強い二カ国間関係を保っている。ゾーミントゥは、2017年11月、安倍晋三首相がフィリピンに行った際にアウンサンスーチーと会って、1250億円という巨額の経済支援の約束をしたことに触れた。日本はミャンマーに対する最大の援助国であり、投資国である。

「こんなに強い影響、関係をミャンマー軍や政府と持っています。だからこそ、日本政府は、ミャンマー政府にはっきりと、このようなジェノサイドを止めなくてはならないと言う責任があるはずです。日本は平和国家です。そしてアジアにおける民主主義のリーダー国でもあります。であるからこそ、私たちロヒンギャとしては、みなさまに希望をかけている。この悲惨な状況にあるロヒンギャの人たちを何とか守ってください」

 絞り出すような声による切なる訴えであった。ミャンマーに対して日本政府だからこそできる平和構築がある。それをなぜしてくれないのか。アメリカもイギリスもフランスも、先進諸国のほとんどが賛成した採択をなぜ棄権したのか。

 2017年11月、ミャンマーとバングラデシュの政府の間で結ばれた、避難民をミャンマーに帰すという合意についても訴えた。「この合意というのは私たちは絶対に受け入れられません。ロヒンギャはミャンマーに帰されると外国人にされてしまう。そして収容キャンプに入れられてしまう」

 ついにはアウンサンスーチーへの失望も口にした。「2012年、当時のテインセイン大統領はUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の当時トップであったグテーレスさん(現・国連事務総長)に言いました。ロヒンギャというのは我々の国民ではない。難民キャンプに収容するので、UNHCRはこの人たちを第三国に連れていってください、と。まさに当時テインセイン大統領がやろうとしたことを、いまアウンサンスーチー政権が、実行していると言えるのではないでしょうか」

「ロヒンギャ」という言葉を消すな

 最後にゾーミントゥは重要なことを問いかけてきた。

「信じられますか? 実は、日本政府はロヒンギャという言葉を絶対に言わないんです。私たちは自分たちの民族名を捨てたことはありません。それなのに私たちの民族名に言及することさえしてくれません。私どももみなさんと同じように人間です。また日本政府はミャンマー軍のトップと会いましたけれども、その際に、『アラカン州でみなさんがやっていることを理解しております』というふうに言いました。この理解というのはどういう意味なのでしょうか。軍がいまやっていることを支持しているということなんでしょうか」

 2017年12月1日、バングラデシュを訪問したローマ法王もロヒンギャという名前を使い、難民たちに寄り添うことを言明した。しかし、日本の外務省のHPを見るとロヒンギャという記述は無く、「ラカイン州のイスラム教徒(ムスリム)」という書き方がなされている。まさに不可視の暴力である。

 ロヒンギャの問題については日本政府ばかりか、NGOも腰が引けている傾向がある。私は二つの団体からゲストスピーチ依頼を受けたが、ピースボートは、当事者としてのロヒンギャ難民の同席を提案したところ、国際クルーズ船の「ミャンマーへの入港拒否のリスクを考え」てこれを断って来た。AAR JAPAN(難民を助ける会)は「ヤンゴンにもオフィスがあり、そこへの妨害を懸念して」報告会のタイトルを「ミャンマー避難民報告会」とし、報告の中でもロヒンギャという言葉を避けて進行していた。AARの名誉のために言えば、会の途中で私が「ロヒンギャという言葉を使いましょう」という提言をすると、スピーカーは即座に対応して、以降はロヒンギャという言葉が交わされていった。

 団体として危機管理をするという考えは分からなくはないが、ロヒンギャの場合は存在が不可視にされてしまったところからその差別は始まっている。ミャンマー政府の意向を忖度してロヒンギャというワードを消すことはその弾圧に加担してしまうことだ。彼ら彼女らはロヒンギャという名前と存在を否定され、弾圧されているのだ。ならばロヒンギャとして可視化して弾圧を跳ね返さなくては解決にはならない。当事者のアイデンティティーを尊重し、私たちは明確に伝えなくてはいけない。塵芥のごとく扱われている彼らの声を今こそ聴かなくてはいけない。

ロヒンギャ難民キャンプから~迫害の証言1

ミャンマーから国境を越えて逃れてきた女性たちが、凄惨な虐殺と性暴力を証言。

2017年10月、バングラデシュの難民キャンプにて著者撮影。

 

*写真・動画の複写・転載を禁じます。

著者情報

ノンフィクションライター、ビデオジャーナリスト

木村元彦

きむら ゆきひこ

1962年、愛知県生まれ。中央大学卒業。東欧やアジアを中心に、スポーツ文化や民族問題などの取材、執筆活動を続ける。著書に『誇り』(98年、東京新聞出版局)、『悪者見参』(2000年、集英社)、『終わらぬ「民族浄化」セルビア・モンテネグロ』(05年、集英社新書)、『蹴る群れ』(07年、講談社)、『社長・溝畑宏の天国と地獄』(10年、集英社)、『争うは本意ならねど』(11年、集英社インターナショナル)、『徳は孤ならず』(16年、集英社)、『橋を架ける者たち』(16年、集英社新書)、『無冠、されど至強』(17年、ころから)、『コソボ 苦闘する親米国家 ユーゴサッカー最後の代表チームと臓器密売の現場を追う』(23年、集英社インターナショナル)など多数。『オシムの言葉』(05年、集英社インターナショナル)で第16回ミズノ・スポーツライター賞を受賞。

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