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連載

映画『教育と愛国』の大ヒットが露わにした「メディアへの期待」

第26回

木村元彦(ノンフィクションライター、ビデオジャーナリスト)

 MBS制作の雄であった田中もまた、報道へのリスペクトを忘れていない。これがMBSのDNAであったとするならば、現在はどうなのか。
 組織および番組改編時に社長を務めていた三村景一氏に、筆者は広報を通じて取材を申し込んだ。三村は1980年代のヒット番組、『夜はクネクネ』の発案制作者であった。『夜クネ』はノープランで大阪の町に飛び出し、ありきたりの予定調和を排してそこで遭遇した出来事を虚飾なく丁寧に放送した。視聴率どころか、「事故にでもなったらどうするんや!」という周囲の反対を押し切って、成立させた実験番組であり、後の観察ドキュメンタリーの源流とも言えた。三村氏は2021年1月の会見で、コロナ禍による環境変化と厳しい経営状況に言及していた。映画とテレビ報道のあり方のみならず、昨今の情報番組のつくり方についても話を聞きたかったが、広報を通じて「今回は取材に応じられない」と断りの電話が入った。

 7月20日。MBSの虫明洋一社長は記者会見であらためて『ほっとけない人』について「視聴率を追いかけるあまり反省すべき点は非常にあった」とコメントした。

 地道な調査報道の結実である『教育と愛国』は、7月31日、封切り2カ月半で3万人を動員した。この達成スピードも異例である。現在も上映は続き、まだ20館の劇場がこれからの公開を予定している。斉加監督は言う。
「たまたま私が目立っていますけど、自分を特別な記者だと思っていません。昔だったら当たり前のことを、当たり前に取材してきただけです」

 成し遂げた数字は、市民の側に立った誠実なニュースを待ち望んでいた視聴者の「飢餓の声」の反映ではなかったか。あえて「報道も商品」と考えるのならば、このヒットにこそ学ぶものがあるだろう。マスメディアとしての信頼の回復とビジネスの成功は相反するものではないことは言うまでもない。

著者情報

ノンフィクションライター、ビデオジャーナリスト

木村元彦

きむら ゆきひこ

1962年、愛知県生まれ。中央大学卒業。東欧やアジアを中心に、スポーツ文化や民族問題などの取材、執筆活動を続ける。著書に『誇り』(98年、東京新聞出版局)、『悪者見参』(2000年、集英社)、『終わらぬ「民族浄化」セルビア・モンテネグロ』(05年、集英社新書)、『蹴る群れ』(07年、講談社)、『社長・溝畑宏の天国と地獄』(10年、集英社)、『争うは本意ならねど』(11年、集英社インターナショナル)、『徳は孤ならず』(16年、集英社)、『橋を架ける者たち』(16年、集英社新書)、『無冠、されど至強』(17年、ころから)、『コソボ 苦闘する親米国家 ユーゴサッカー最後の代表チームと臓器密売の現場を追う』(23年、集英社インターナショナル)など多数。『オシムの言葉』(05年、集英社インターナショナル)で第16回ミズノ・スポーツライター賞を受賞。

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