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キム・ドンリョン監督が語る韓国ドキュメンタリー映画界の闇と光(後編)~若い世代の映画人たちの良心と、業界の自浄作用

第30回

木村元彦(ノンフィクションライター、ビデオジャーナリスト)

キム 韓国の多くの独立映画人たちは、あまりに制度に飼いならされていますし、助成金を得たいために互いに正直になれないように見受けられます。その雰囲気に、私は窒息しそうになっています。私は一時期、韓国独立映画協会から独立した創作者たちと集まり、互いの問題について語り、行政に意見を申し立てようとしましたが、成功せず幻滅した経験があります。そんなときに、挫けずに問題提起をし続け、比較上映会をするヤン監督を見て、私もじっとしていられないと思いました。私はヤン監督という同志に出会えてとても感謝しています。
 独立自主映画を撮るというのは難しいことです。日本で在日コリアンの女性として生きながらそんな大変なことをしている人が、作品を剽窃され、巨大な力を持つ釜山映画祭や、仲間同士で顔色をうかがいながら集団的に行動する韓国独立映画人たちから誹謗中傷までされて、胸が裂けるほど苦しかったと思います。ヤン監督はそれに耐えて次々に素晴らしい映画を作られた。そして20年前の事件についてまた声を上げてくれた。感動しましたし、そのことでヤン監督から非常に大きな力を貰いました。

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 本来は、『揺れる心』の映像を剽窃されたNHK大阪が主体となって裁判に持ち込めば、それで決着がついただろう事件である。しかし、ヤン監督は司直にゆだねずにあくまでもクリエイターとして映画人の良心に訴えかけた。それがドキュメンタリー監督としての矜持だろう。
 在日コリアンの監督は韓国ドキュメンタリー映画界の「ドン」と20年以上闘ってきたことになる。つぶされるどころか、『スープとイデオロギー』(2022年)で、ホン監督が委員長を辞したあとのDMZ国際ドキュメンタリー映画祭で最高賞を受賞する。DMZ映画祭の事務局は「偏見も先入観もなく作品をしっかりと評価してオープニング作品にさせて頂いたし、受賞も受けてもらった」とコメント。このあたりを見ても、自浄作用が沸き起こっているようである。

映画『スープとイデオロギー』(ヤンヨンヒ監督、2022年)より

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 ――やはり同じ映画監督として作品に魅了されたことが集う上での求心力になったということですか。

キム 映画祭での受賞が監督に権威を与えるとは思いませんが、『スープとイデオロギー』が多くの賞を受賞し、観客に熱烈に支持されたのは素晴らしいことだと思います。ホン・ヒョンスクが剽窃によって盗んだものは、ヤン監督の、アイデンティティに対する洞察と、その表現形式の独創性でした。
 加害者は集団の力を利用して剽窃事件を隠蔽したため、ヤンヨンヒ監督は大きな苦痛と試練を強いられましたが、彼女は創作者として映画を放棄せず、素晴らしい映画をつくり続けました。私はこの部分を何よりも尊敬しますし、感動させられもしました。結局ホン・ヒョンスク監督は、ヤンヨンヒ監督から何も奪えなかったのです。掌で空を隠すことはできません。

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 韓国の若い批評家たちがつくっている韓国映画のウェブメディア「ヘパリ」は、比較上映会で『揺れる心』と見比べた『本名宣言』についてかなり辛辣な批評を書いている(https://haepari.net/33035394)

「在日の学生を理解するという作りではなく、短絡的に言葉を切り取って韓国人が共感する構成にしている。在日コリアンが本名と通名の間で気持ちが揺れていることを感じ取っていない。監督が無知をさらけ出している」

 書き手は「ゴッドマザー」と言われるホン監督への批判を躊躇なく記しているが、その理由を以下のように打ち明けている。

「自分は当事者ではないし、この問題について語る資格があるかどうか、悩んだが、ヤン監督が寄せた言葉に勇気をもらってペンを執った」

 その言葉とは、「沈黙も記録されます。私たちの言葉と行動の全てが記録され、歴史になっていくのだと思います」である。
 黙ることは、それだけで不条理を承認し、歴史の改ざんに加担することになるのだ。
 余談でもあるが、ヤンヨンヒ監督のパートナーは、かつてノンフィクションライター佐野眞一氏による剽窃事件を徹底的に暴いた荒井カオル氏である。

著者情報

ノンフィクションライター、ビデオジャーナリスト

木村元彦

きむら ゆきひこ

1962年、愛知県生まれ。中央大学卒業。東欧やアジアを中心に、スポーツ文化や民族問題などの取材、執筆活動を続ける。著書に『誇り』(98年、東京新聞出版局)、『悪者見参』(2000年、集英社)、『終わらぬ「民族浄化」セルビア・モンテネグロ』(05年、集英社新書)、『蹴る群れ』(07年、講談社)、『社長・溝畑宏の天国と地獄』(10年、集英社)、『争うは本意ならねど』(11年、集英社インターナショナル)、『徳は孤ならず』(16年、集英社)、『橋を架ける者たち』(16年、集英社新書)、『無冠、されど至強』(17年、ころから)、『コソボ 苦闘する親米国家 ユーゴサッカー最後の代表チームと臓器密売の現場を追う』(23年、集英社インターナショナル)など多数。『オシムの言葉』(05年、集英社インターナショナル)で第16回ミズノ・スポーツライター賞を受賞。

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