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社会運動――変容する目的と手段

吉田徹(同志社大学教授)

 日本でも、近年では社会運動は珍しいものではなくなりました。2015年の安全保障関連法案に対するSEALDsなどによるデモ、#MeToo運動のようなネット上での様々なアクション、あるいは最近では西武そごう従業員のストライキなども話題になりました。こうしたわかりやすいものでなくとも、社会運動はどの時代、どのような場所であっても、様々な形を伴って生まれます。暴力的なものもあれば、ロビイングのような非公式的なもの、集会、宣伝、SNSでの拡散、動画配信等々、そのレパートリーは無限に広がっています。
 そもそも社会運動とは何でしょうか。一般的には「政治参加」、つまり政治的な意思決定過程に影響を与えることを目的とした一般市民の活動の一つとして数えられます。投票やロビイングなどのように、公的な決定に自分たちの声を届ける行為の一つです。もちろん、政治的な抗議運動は群衆反乱や労働争議といった形で、古くから存在してきましたが、とりわけ1960年代の各国での運動の広がりを受け、社会運動という言葉が一般的になりました。
 社会運動には独特の特徴があります。一つは、その影響力や効果を測るのが難しいことです。例えばある法案に反対する、あるいは法案可決を後押しする社会運動があったとして、その働きが直接的に議員や官僚を動かしたのかどうか、検証するのは簡単なことではありません。また、そのときに効果を発揮しなくとも、時間が経ってから市井の人々の意見が取り入れられることもあるでしょう。このように、社会運動がどのような結果につながったのかを正確に知ることは難しいのです。
 さらに、社会運動がいつ、どのように始まるのか、特定するのも簡単ではありません。一人で始めた社会運動があったとして、その後少しずつ時間をかけて何百人から何千人もの賛同者が集まった場合、その起点をどこに求めるべきでしょうか。また選挙などと違って、社会運動の成功の是非は参加する多くの人たちの自発性や協調性があるかどうかに大きく依存しています。それだけ、散発的で、非連続的で、コントロールするのが難しい政治参加の一つです。
 このような特徴を持つ社会運動は、どのように展開されるのか、今回も3本の作品から探っていきましょう。

今回紹介する3作品のDVD。左から『ノーマ・レイ』(発売元:20世紀フォックスホームエンターテイメントジャパン)、『パレードへようこそ』(発売元:KADOKAWA)、『ザ・イースト』(発売元:20世紀フォックスホームエンターテイメントジャパン)

 

『ノーマ・レイ』――職場と女性の解放

 最初に取り上げるのは『ノーマ・レイ』(マーティン・リット監督、1979年)です。本作は、作品賞を含むアカデミー賞4部門にノミネートされ、主演女優賞と歌曲賞を受賞、主演のサリー・フィールドはカンヌ国際映画祭で最優秀女優賞も受賞した、隠れた名作です。
 映画が主題とするのは、実際の労働運動にインスパイアされた、ある一人の女性の職場での孤独な闘いです。舞台は、アメリカの田舎街の紡績工場。シングルマザーでもある主人公ノーマは、他の働き口もないことから一家総出でこの工場で工員として働いています。時代はオイル・ショックによる物価高のただなか、生活は決して楽ではありません。
 この街に突如として一人の人物が現れます。アメリカ繊維労働組合のオルガナイザー、ワショフスキーです。日本では「オルグ」と呼ばれますが、彼の役割は、まだ組合のない企業の従業員を説得して、労働権を守るための労働組合を結成することです。ノーマが働く会社はもちろんのこと、保守的な街の人たちは彼には冷淡です。「お前たちは共産主義者か扇動家か悪党かユダヤ人か、その四つを合わせた奴だ」。南部の保守的な土地であることもあって、彼の取り組みはなかなか理解されません。
 それでも工場の過酷な労働環境は変わりません。ノーマの父母を含め、長時間労働は徐々に人々の健康を蝕んでいきます。あるいは、過酷な環境だからこそ、工員は刹那的に生きざるを得なくなっています。「大企業と金持ちにはかなわない。疲れはビールで流してしまうのさ」。一方、才気溢れ、職場の誰からも好かれるノーマは昇進しますが、それも労務管理員として、知らずのうちに人減らしをするためでした。
 ワショフスキーに好感を持ったそんなノーマは、彼の演説を聴いて、組合員になることを決意します。彼は労働運動の意義を次のようにぶちます。「彼らは祖父と生死をともにして時に闘い、傷をいたわり合い、時にパンを稼いで分かち合い、口を開けば一つの声となって、世間に関わり、黒人も白人も、アイルランド人、ポーランド人、ユダヤ人も一つになりました。それが組合です」。
 大都会ニューヨークからやってきたインテリのワショフスキーの魅力もあって、彼女は熱心に組合員獲得のために奔走します。「組合に入るとどんな得があるんだ?」「ならないと損をするのよ」――大企業であろうが、国であろうが、権力を持たぬ人々が力ある組織と戦うためには、まず団結する必要――ノーマが「UNION(団結)」と訴えたように――があります。労働組合のことを英語では「Labour Union」と言いますが、それは「労働を通じた団結」のことでもあります。
 労働運動の広がりを見て、会社側はある策略をめぐらせます。それは、組合運動が黒人によるものだと吹聴することでした。アメリカの資本家たちは、貧しい白人と貧しい黒人との間を人種で分断させ、対立させることで自分たちの権力を維持しようとしたと指摘したのは社会学者デュボイスですが、黒人という敵をでっちあげることで組合つぶしをしようとしたわけです。こうした違法行為を摘発しようとして、スト決行を呼び掛けたノーマは、治安紊(びん)乱の廉で、逆に警察によって排除されてしまいます。

映画『ノーマ・レイ』より

 彼女の再婚相手は、新婚生活を疎かにし、さらには逮捕までされてしまったノーマを洗脳したと、ワショフスキーに詰め寄ります。「君はノーマの頭を混乱させ、かき回して違う女にしてしまった」。彼は言い返します。「彼女は立ち上がり解放されたんだ」。
 作中では人種や宗教など、アメリカ社会の重要な要素にも光が当てられていますが、労働者の団結とそれを実現させたノーマの女性としての解放が同時並行して描かれるところにこの作品の最大の特徴があります。人当たりは良くても身持ちの悪いノーマは、男性関係で常に苦労していたことが描かれています。彼女は労働運動を通じて父親や工場の経営者たちといった男性社会への依存から自立し、その姿がまた周囲に影響を与えていくダイナミズムが捉えられているのです。
 労働組合の組織率は、多くの先進国で戦後一貫して低下し続けています。アメリカでの組織率は10%に過ぎません。それでも組合員数は2022年には30万人近く新たに増え、組合そのものの数も同年に5割も増えたと報告されています。スターバックスやアマゾンといった、それまで組合結成を回避してきた新興企業でも多くの組合が生まれ、AI利用に対する俳優・脚本家組合によるストライキも支持を集めました。アメリカでは国民の67%が労組を支持しているという世論調査もあり、組織率が低下しているヨーロッパでも2000年代になって労組への信頼が高まっています。
 それでも、労働組合の組織率が減少していっているのは、働き方の変化に加え、働く人々の間のネットワークや協働、相互信頼といった関係性(「社会関係資本」と呼ばれます)が、時代を追って少なくなってきているからです。個人と集団や組織を対立的に捉えるのではなく、個人の解放こそが集団の力を強め、その集団が個人を支援することこそが社会運動が成功する鍵であることを『ノーマ・レイ』は雄弁に物語っています。

 

『パレードへようこそ』――「結合」による運動

著者情報

同志社大学教授

吉田徹

よしだ とおる

1975年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。専門は比較政治学、ヨーロッパ政治。著書に『ミッテラン社会党の転換』(2008年、法政大学出版局)、『二大政党制批判論』(2009年、光文社新書)、『ポピュリズムを考える』(2011年、NHK出版)、『感情の政治学』(2014年、講談社)、『「野党」論』(2016年、ちくま新書)、『アフター・リベラル』(2020年、講談社現代新書)などがある。

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