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性知識イミダス:コロナ禍で問われる性・生殖〈前編〉~避妊・中絶・ピル……「産まない選択」の危機的状況が浮き彫りに

イミダス編

(構成・文/加藤裕子)

「年代にかかわらず、新型コロナウイルス感染が拡大する状況での精神的不安やストレス、生活リズムの乱れ等の影響がうかがえるケースが目立ちました。また、コロナ禍でバイトが休みになるなど経済的に苦しくなり妊娠検査薬やピルが買えない、新型コロナウイルス感染の不安から婦人科の受診をためらうといった相談も寄せられています。同意のない性行為、避妊をしない性行為、避妊の同意を取らない上で行われる性行為はいずれも性暴力につながるということをきちんと知らないまま、本当はしたくないのにセックスに応じている子も少なくありませんし、中には深刻な性暴力被害を受けている相談者もいます」

中絶という選択肢は現実に機能しているのか

 避妊がかなわず、望まない妊娠をした未成年の少女が「産まない」選択をするとき、最初にぶつかるのが親との関係だ。「思いがけない妊娠で悩む子たちには、親との関係性が悪かったり、虐待を受けていたりするケースもあり、『親に相談できない』という声は非常に多い」という(染矢さん)。妊娠の事実を親に打ち明けられないまま、人工中絶手術が可能な時期(妊娠22週未満)を過ぎてしまうということも起こり得る。

「中絶の要件を定めた母体保護法は未成年の中絶に保護者の同意が必要とは明記されていません。ただ麻酔を使う手術になるので、実際には医療機関から保護者の同意が求められるケースが多く、また費用のこともあって、親に言わずに中絶することは難しいのが現実です。
 相談機関に寄せられた件数は氷山の一角で、実際にはもっと大勢の若い世代が悩みを抱えているはず」と懸念する。「ピルコンにメールで相談できる子は自分で情報を取得し、自分の状況を言葉で説明できる力があると言えますが、そういう子はほんの一握りでしょう。本当にどこにでもいる普通の子が誰にも相談できずに性の悩みを抱えているかもしれない、ということを無視してはいけないと思っています。たとえばLINEなどを使い、若い世代が相談しやすい仕組みを整えないといけませんし、そこから必要に応じて医療機関につなげていく方法をさらに増やすべきでしょう」

染矢明日香さん

 実際に、産婦人科に行くことについての心理的抵抗が強いという問題もある。「産婦人科は『妊婦が行くところ』というイメージが強く、それだけで若い女性にとっては敷居が高くなってしまいます。また、周囲も無理解から『遊んでいる』という偏見の目を向けがちです」と染矢さんは言う。「若者が自分の体や性についての悩みを相談できるユースクリニックのような医療機関も、日本ではまだまだ不足しています。さらに、コロナ禍でステイホームが求められる中、家庭内暴力(DV)などによって家が危険な場所になっているというケースも少なくありません。家にいられず、一見優しげな男性についていったら、性暴力の被害に遭ってしまうという例も頻発しており、今のような状況だからこそ、安心して過ごせる避難先の充実が一層求められています」

「オーラルセックスで妊娠したかも」――学校では正しい知識が身につかない

 ネットに大量の性情報があふれる時代であっても、「必要な知識や情報が必ずしも届いているとは限らない」と染矢さんは言う。

「ピルコンに寄せられた10代からの妊娠や避妊に関するメール相談のうち、59%が性交後72時間が経過していました。避妊が十分でなかった性交での妊娠を避ける方法として緊急避妊薬というものがあるのですが、性交後72時間以内に服用しなければ高い避妊効果は期待できません。そのことを知らない相談者が多いということがうかがえますし、妊娠検査や避妊についての知識も乏しい傾向があります。その他、『下着をつけたまま抱き合ったけど、妊娠していないか』『オーラルセックスをした後生理が遅れ、妊娠が心配』など、受精の仕組み自体を知らないと思われる相談内容も約16%ありました。たとえばネットで検索して、妊娠初期症状として体のだるさやお腹の痛みがあると出てくると、『やっぱり妊娠したのかな』と短絡的に思ってしまう子もいるのかもしれません」

 学習指導要領では「受精に至るまでの過程は扱わない」と定められていることもあり、日本の性教育では性交や避妊、中絶について適切で十分な学びが得られにくい。例年、学年末は外部講師による性教育講座が行われる時期でもあるが、突然の休校措置により、それらは軒並みキャンセルを余儀なくされた。生徒たちにとっては、性をめぐる正しい知識や理解を得られる貴重な機会が失われた可能性があると言えるだろう。

「コロナ禍で10代の少女たちからの妊娠相談が増えたという報道に対し、『自己責任だ』という反応も少なくありませんでした。でも、性行為や妊娠は相手あってのことなのに、なぜ女性だけが『ふしだらだ』『遊んでいる』と責められ、責任を問われるのでしょうか。受診した婦人科で『自分の身は自分で守らないと』と言われたという声も聞きますが、彼女たちは自分の身の守り方も、守るためにはどういう選択肢があるかということも教えられていません。そんな状況におかれた彼女たちが、どうやって自分を守れるというのでしょうか」と染矢さんは憤る。

あまりにも高すぎる緊急避妊薬のハードル

 ピルコンが2016年に高校生を対象に行った調査では、「72時間以内の服用で効果的な緊急避妊薬があるかどうか」という問いについて68%が「わからない」、21%が「知っている」、11%が間違った情報であると答えるという結果となった。ただでさえ「知っている」が少数派なのに、知識があればそれで望まない妊娠を防げるかといえば、それはまた別の話だ。

「十分な避妊ができず、妊娠を避けたいとなったとき、緊急避妊薬を飲もうと思っても、様々なハードルが存在します」と染矢さんは説明する。

「まず、日本で緊急避妊薬を入手する場合、病院を受診し、処方箋を出してもらうことが必要です。といっても、すべての医療機関で緊急避妊薬の処方が可能ということではなく、また医師の処方箋を持っていっても、薬局によっては在庫がなく、取り寄せないといけない場合もあります」

 ちなみに、厚生労働省は各都道府県で緊急避妊薬を処方している医療機関のリストを公開しているものの、記載がない県もある。

「学校や仕事の関係で、病院が開いている時間に受診できない場合もありますし、休日や夜間には診察を受けられない、住んでいる場所によっては医療機関自体が近くにないという問題も発生します。総合病院では受診まで数時間待ちということも珍しくありません。緊急避妊薬は72時間以内に服用すれば確実に妊娠しないというものではなく、24時間以内の服用なら妊娠阻止率95%ですが、25~48時間以内で85%、48~72時間以内で58%にまで下がってしまいます。こうしたタイムリミットがある中で医療機関にアクセスできないとなれば、緊急避妊薬という選択肢自体が失われてしまうのです」

 オンラインで診療を受け付ける医療機関も存在するが、その場合、受診料や薬代の決済がクレジットカードのみであることが多い。大学生ならまだしも、中高生で自分で使えるクレジットカードを保有しているケースはほとんどないだろう。

 それに加え、緊急避妊薬のコストも大きな負担となる。日本では初診料・調剤料・薬代で合計約6000〜2万円かかり、もちろん保険は適用されない(性暴力被害の場合、ワンストップ支援センターや警察に届け出れば公費負担)。ドラッグストアで数百円で買える妊娠検査薬でさえお金がなくて買えないという声もある中、高額な緊急避妊薬はそれこそ手が届かないものとなってしまうだろう。

 WHOは緊急避妊について「意図しない妊娠のリスクを抱えたすべての女性および少女には、緊急避妊にアクセスする権利があり、緊急避妊の複数の手段は、国内のあらゆる家族計画プログラムに常に含まれなければならない」と勧告しているが、日本では、緊急避妊薬は本当に「緊急」を要するときであっても非常に使い難いと言わざるを得ない。なぜ緊急避妊薬はこれほど入手が困難なのだろうか。

 ひとつには、医療者からの反対意見が根強いのだと染矢さんは言う。「2017年の緊急避妊薬のスイッチOTCの検討会では否決理由として『悪用や濫用が懸念される』という声も上がっていますが、WHOも『緊急避妊へのアクセスが良くなることで性的リスク行動は増加しない』と明言しています。また、たとえ頻繁に緊急避妊薬を利用する女性がいたとしても、『安易に使っている』と非難されるようなことなのでしょうか。それこそ女性ばかりが責められるべき問題ではありませんし、そもそもなぜ緊急避妊薬が必要なのかは、処方には無関係です」
 実は、海外の多くの国々で、緊急避妊薬は薬局で処方箋なしで買うことができ、値段も安い。緊急避妊薬はWHOの必須医薬品リストにも入っている他、「思春期を含むすべての女性が安全に使用できる薬であり、医学的管理下におく必要はない」であるとされている。そのような中、緊急避妊薬を使うために様々なハードルを越えなければならない日本は非常に特殊であると言えるだろう。

ガラパゴス状態の日本

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イミダス編

いみだすへん

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