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性知識イミダス:オトナも知ろう! 思春期男子が学ぶべき「射精道」とは

今井伸(泌尿器科医、SRHケアクリニック静岡院長)

(構成・文/加藤裕子)

 女性の月経に比べ、学校で学ぶ機会が少ない「男子の性」は、大人になってもちゃんとした知識が身についているとは限らない。「特に今の時代は、自然に性を学ぶのが難しい」と警鐘を鳴らすのが、泌尿器科医で聖隷浜松病院リプロダクションセンター長の今井伸医師(追記:2024年10月よりSRHケアクリニック静岡院長)だ。正しい知識がないまま「床オナ」など不適切なマスターベーション(オナニー)の癖がついてしまうと、将来の射精障害や男性不妊にもつながりかねないという。「テクノブレイク(過度なマスターベーションで死に至る現象を指すネットスラング)はあるのか」「精液が汚くて嫌」など、悶々と悩む男子に伝えたい「射精の心得」とは何か。自ら考案した「射精道」で正しい性知識の普及に取り組む今井医師にうかがった。

今井伸医師(泌尿器科医)

深刻な不妊症カップルに足りなかったもの

 性教育というと、産婦人科の医師や助産師が行うことが多いと思いますが、私は泌尿器科医の立場から、中学・高校で男子生徒対象の性教育の授業をするほか、講演やセミナー等で男子に知っておいてほしい性の知識を伝えています。きっかけとなったのは、20年ほど前にある不妊症の夫婦を治療したことでした。ふたりともまったくセックスの経験がないまま結婚し、1年半経ってもセックスできないと病院に来たのですが、話を聞いてみると、性についてまったく知識がないことがわかったのです。そこで1年半ぐらいかけて一から性教育をしたものの、結局うまくいかなかったという苦い経験から、やはり青少年のうちにちゃんとした性の知識をもつことが必要だ、と痛感しました。

 泌尿器科の医師として、これまで不妊症に悩む多くの患者さんを診察してきましたが、男性側の原因で増えているのが射精障害、特に挿入した状態で射精できない腟内射精障害で、不適切なマスターベーションが影響しているケースが目立ちます。

 中でも、「床オナ」、つまりペニスを床や布団、壁にこすりつけるような形でのマスターベーションが習慣化しているケースは厄介です。患者さんから聞いた話をまとめると、床オナではペニスの片面だけ触っている感じなので、腟に挿入して全体を包まれる状態での刺激とはまったく違うものになります。さらに床オナではペニスがふにゃふにゃの半勃起状態で射精することが癖になっていることが多いのですが、腟に挿入するときは完全に勃起しているわけですから、逆に射精できなくなってしまうのです。

 ちなみに、完全に勃起していなくても射精は可能です。初めてセックスをするとき、緊張しすぎてなかなか勃起しない間に精液が出てきてしまうということがあります。勃起するときはリラックスしている、つまり副交感神経が優位であることが必要ですが、緊張しすぎると交感神経が優位になり、勃起しないまま射精してしまうのです。完全に勃起した状態での射精は精液がピューッと勢いよく出ます(実は勢いよく出すのにもコツがいるのですが……)が、床オナを含め、半勃起での射精は精液が漏れ出てくるような感じになります。

 これに対し、やはり腟内射精障害の原因となる「足ピン」というマスターベーションの場合は、勃起した状態で射精ができているので、まだ治療しやすいと言えます。「足ピン」では、足をまっすぐピンと伸ばして括約筋(肛門や尿道の周囲などにある筋肉)を絞ることで勃起力を強めていると考えられますが、腟に挿入した状態だとたいていは膝を開いて曲げているのでピンと伸ばせず、射精しにくくなるのです。それでも、体位を工夫したり(高度なテクニックが必要ですが)、あるいはあぐらをかいてマスターベーションをする練習によって、かなりの改善が見られます。

「床オナ」の矯正は早いほど効果的

 ペニスが一番敏感になるのが、勃起し始めの半勃起の状態です。たとえば、電車の中や授業中に居眠りして起きたときに半勃起の状態になっていて、そのまま歩いたりすると、ペニスがこすれて気持ちよくなり、完全に勃起してしまうことがあるのですが、完全に勃ってしまうと、今度は感覚が少し鈍くなるのです。おそらく、「床オナ」をする場合、亀頭の表面を刺激することで一番敏感な半勃起の状態を維持し続け、性的快感を得ているのだと思います。

 射精障害を治すには、適切なマスターベーションをいかに多く練習するかがポイントです。たとえば「TENGA」というペニスにかぶせて使用するマスターベーション器具を使って訓練するのも効果的ですが、不妊治療に来る患者さんたちは30~40代が多く、「床オナ」を10年、20年も続けてきているため、勃起しないで射精する癖を直すのに非常に時間がかかります。もちろん、本人が意欲を持って積極的に取り組めば治療効果は上がりますが、年齢が上がるに従い、性的欲求は次第に低くなりますし、さらに仕事で疲れていたりするとマスターベーションをする気力がわかず、練習の回数が極端に減ってしまうという難しさがあります。

 一方、思春期から20代前半頃までは性欲も旺盛なので、自然と練習の回数も多くなり、「床オナ」の矯正も比較的容易です。ですから、せめてそれぐらいまでの年齢に、適切な射精とはどういうものか、ぜひ身につけておいてほしいと考えています。 

「射精道」は「武士道」に通じる!

 腟内射精障害の患者さんたちに対し、1日に何度も同じ指導を繰り返すうち、「これを箇条書きにすればいいのではないか」と思い、「射精道」としてまとめることにしました。構想に3年ほどかかりましたが、まずは「最初に射精を覚えたときからこういうことを知っていれば大人になってから困らない」という基本を「思春期編」とし、最終的に16箇条になりました。僕自身の講演でも使うほか、さまざまな方の性教育でも紹介していただいています。

「思春期編」では男子学生向けに「オナニー」という言葉を使っている。「妊活編」や「中高年編」も構想中

「射精道」というネーミングは「武士道」から来ています。武士道で説かれているのが、武士、つまり刀を持っている者のあるべき姿だとするなら、陰茎(ペニス)を持つ男子がペニスを使うときに守らなければならないルールが「射精道」、というコンセプトです。刀がペニスで、刀を使う訓練がオナニー(マスターベーション)、そして実際に刀を使う立ち合いが本番のセックスという位置づけになります。

 刀を持っている武士だからといって、訓練もせず、いきなり斬り合うのではあまりにも危険です。それと同じで、セックスをするためには普段の鍛錬(マスターベーション)が必要であり、本番で使うペニスという持ち物も大事にしないといけません。また、弱い者や罪のない人を斬ってはいけないというのが武士の矜持(きょうじ)だとすると、性欲だけで突っ走ってペニスを滅多やたらに使うのはよくない、ということになります。

 また、学校という場所で射精について教えるわけですから、僕個人の意見ではなく、「常識としてこうあるべきだ」という社会通念的な要素も入れ込みたいと考えました。それもあって、先生方も好意的に「射精道」を受けて入れてくれているようです。

 いつ頃から「射精道」を教えるかという点では、射精をするようになる小学校高学年頃がスタートだと考えています。成長の度合いによっては、その年齢の男子全員が知っておく必要はないかもしれませんが、少なくとも早熟な子の目に留まるようにしてあげたいですね。

「射精道」の16箇条は、できるようになってしまえば、複雑でも難しいことでもありません。たとえば「十、出てくる精液はティッシュで受け止めるべし」など、中には「そんなの知ってるよ」と言われるようなものもあるかもしれませんが、これは「精液は意外と遠くまで飛ぶので、周りにかからないように」という意味で入れていて、思春期の男子であれば知らない子もいる可能性があるわけです。そういう男子たちのためにも最低限押さえるべき、知っておかないと困る内容を過不足なく入れることにしました。

射精の「練習」に励むべし

「射精道」で最初に掲げたのは、「一、オナニーを基本とする」です。

 マスターベーションもろくにしないでいきなりセックスという大事な本番を迎えたとして、最初からうまくできるとはとても思えません。自分自身の思春期を振り返ってみても、マスターベーションを始めた頃は、思いもしないときに勝手に精液が出てしまったりして、自分の思い通りに射精できるようになるまで半年以上かかりました。つまり、うまく射精するにはマスターベーションという「練習」を繰り返し、コツをつかむことが必要なのです。

 たとえば女性がセックスでいつもオーガズムに達せるとは限らないのと同じで、男性もセックスの度に必ず射精できるわけではありません。これは男性でないとなかなかわからない感覚だと思いますが、射精はたとえば走り幅跳びのように、助走からホップ、ステップ、ジャンプとタイミングよくいかないと、うまくできないんです。タイミングがずれると少ししか精液が出なかったり、精液が出ない“空撃ち”のような感じになったりします。

 いわゆる「いい射精」は、ピッと勢いよく遠くに飛ばすような射精です。昔、寮生活をしている男子学生が皆で飛ばしっこをして、一番遠くまで飛ばせたやつが勝ち、みたいなことをやっていたなんて話も聞いたことがありますが(笑)、これはマスターベーションの訓練という意味で、実はとても理にかなっているんですね。

著者情報

泌尿器科医、SRHケアクリニック静岡院長

今井伸

いまい しん

1997年島根医科大学(現・島根大学) 卒業。島根医科大学を経て、2005年1月より聖隷浜松病院、2019年4月より聖隷浜松病院リプロダクションセンター長・総合性治療科部長。2024年10月より現職。専門領域は生殖医療(男性不妊・がん生殖)・性機能障害・男性更年期障害。日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本性機能学会専門医・評議員、日本生殖医学会生殖医療専門医、日本泌尿器内視鏡学会泌尿器腹腔鏡技術認定医、日本性科学会幹事、同会セックスセラピスト認定医、日本思春期学会理事、島根大学医学部臨床教授。著書に『中高生からのライフ&セックス サバイバルガイド (一部執筆)』(日本評論社)、『セックスセラピー入門 (一部執筆)』(金原出版)、『中高年のための性生活の知恵(共著)』(アチーブメント出版)、『人生100年時代をなかよく生きる シニア世代の愛と性(監修)』(平原社)などがある。

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