性知識イミダス:女性特有の病気①婦人科系疾患について知ろう~月経異常は婦人科疾患の危険サイン!我慢せずに早めの受診を
イミダス編
(構成・文/加藤裕子)
女性のからだに特有の病気のうち、婦人科が専門とする「婦人科系疾患」は、主に女性生殖器、つまり卵巣、子宮、腟などに関する疾患を指す。月経トラブルも含めた婦人科系疾患の治療は、思春期から老年期に至るまでQOL(Quality of Life、生活の質)の向上と深く結びついているが、婦人科で相談するのは恥ずかしいと我慢を重ねてしまう女性も多い。中には悪化すると不妊症などにつながる病気もあり、早期発見が大切だ。主な婦人科系の病気にはどのようなものがあるのか、それらの原因や受診の目安など、知っておきたい基礎知識を、淀川キリスト教病院産婦人科の柴田綾子医師にうかがった。

柴田綾子医師(産婦人科)
ライフステージで変化する女性の健康
女性の健康は、女性ホルモンのひとつであるエストロゲン(卵胞ホルモン)の分泌量に大きく影響を受けています。個人差もあるので厳密に年齢で区切ることは難しいのですが、エストロゲンの分泌量が増えていく「思春期」、エストロゲンの分泌が盛んな「性成熟期」、エストロゲンの分泌量が急激に減少する「更年期」、エストロゲンの分泌が乏しくなる「老年期」の4つのライフステージに分類することができ、ステージによってかかりやすい病気も変化します。

「働く女性の健康応援サイト」(厚生労働省委託事業、女性就業支援全国展開事業事務局)などをもとにイミダス編集部作成
それぞれのステージで見ていくと、思春期は月経不順、過多月経、月経前症候群、また症状としては帯下(たいげ)異常(おりものの異常)や不正出血の訴えが多いです。性成熟期に多い病気としては、月経困難症、子宮内膜症、子宮筋腫、更年期では更年期障害、尿失禁、頻尿などが挙げられます。老年期に入ると、萎縮性腟(ちつ)炎という、エストロゲンの減少によって腟の粘膜が乾燥して起こる症状が見られるようになります。ほかにも、やはりエストロゲンの減少が影響を与える骨粗鬆症(こつそしょうしょう)や生活習慣病(動脈硬化、脂質異常症など)にも注意が必要となる年代です。
【月経不順などについては「性知識イミダス:月経(生理)のお悩みQ&A」を、エストロゲンの減少が及ぼす影響については「性知識イミダス:性ホルモンについて知ろう(基礎知識編)」をご覧ください】
月経に関連する病気が増えている
最近増えているのは、子宮内膜症、月経困難症、子宮筋腫、子宮腺筋症、婦人科がん(子宮頸〈けい〉がん、卵巣がん、子宮体〈たい〉がん)です。食生活の西洋化といったライフスタイルの変化がこれらの病気にかかるリスクを高めるとされている他、検査を気軽に受けられるようになったことや、一般の方が病気についての知識を持つようになったことで、病気を発見する機会が増えているという側面もあるでしょう。
しかし最も影響が大きいのは、出産回数の減少などで現代の女性の月経回数が昔より増えていることだと思われます。なぜなら、これらの病気の多くが月経に関連して起こるものだからです。
たとえば、子宮内膜症はそのひとつです。子宮内膜症では、子宮内膜組織が本来あるべき子宮の内側以外の場所に発生してしまいます。これらの組織は、子宮内膜と同じく月経周期に合わせて増殖・剥離し、出血を起こしますが、月経血と違って排出する出口がありません。出血が繰り返されることで、たまった血液が周囲の組織と癒着するなど、病気を悪化させてしまうのです。
また、子宮筋腫や子宮腺筋症は、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌量が高い時期に悪化しやすいことがわかっています。エストロゲンの分泌量を抑えたり、月経を止めたりすると改善されることから、これらの病気にはエストロゲンがなんらかの形で関わっていると考えられます。また、婦人科がんの中でも、子宮体がんは、妊娠・出産回数が少なく月経回数が多い人がなりやすいと言われています。といっても、妊娠・出産はライフプランに関わることです。病気にならないために妊娠回数を増やすという人はいないでしょう。
【図】子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんの人口10万人対の罹患率(1975~2015年)
(人口10万人対の罹患率とは、統計上、10万人のうち当該の疾病に罹患している件数を示す)

低用量ピルは、月経が関連する病気のリスクを下げる選択肢のひとつです。低用量ピルを服用することにより、月経の回数や量を減らせますし、月経痛など月経にまつわる症状を改善する他、卵巣がん、子宮体がんのリスクを減らすことができると言われています。
ただ、海外の多くの国と異なり、日本では低用量ピルの価格が高く、ジェネリックでも1カ月1000~2000円程度はかかります。費用がハードルとなって、自分の健康を守れない女性も少なくないと考えられ、女性のヘルスケア向上のためにも、解決しなければならない問題だと思います。
不妊症と婦人科系の病気の関係
子宮内膜症、子宮筋腫、月経不順(排卵障害)、子宮内膜ポリープなどの婦人科系の病気は、不妊症の原因になります。ただ、これらの病気が増えているから不妊症が増えているとは言い切れません。妊娠・出産を希望し、“妊活”を始める年齢が男女ともに高くなることで、年齢が原因で妊娠しにくくなり、不妊症の定義(※1)にあてはまる人が増え、検査してみた結果、病気が判明する、という側面もあります。
妊娠するために、子宮内膜症や子宮筋腫を手術することが必要になる場合があり、治療に半年~1年、またはそれ以上かかることもあります。スムーズに妊活を始めるために、できれば妊活前に一度婦人科でチェックを受け、早めに病気を治療しておくことをお勧めします。
子宮頸がんワクチンについて知っておきたいこと
子宮頸がんの増加は、副反応への懸念から、日本で子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)が普及していないことが影響していると思われます。現在、海外も含めて多くのデータが揃ってきており、日本で今、公費で受けられる2価・4価のHPVワクチンは、子宮頸がんの60~70%を予防できると考えられています。厚生労働省の専門分科会がワクチン接種後の重篤な症状について調査した結果、ワクチン接種との直接的な因果関係は無いと考えられています。
因果関係はないと言われても、やはり心配だという方もいるでしょう。実際のところ、HPVワクチンに限らず、感受性が非常に高い思春期では、ワクチン接種による痛みなどのストレスが、なんらかの症状を引き起こすこともないわけではありません。たとえば、HPVワクチンは新型コロナウイルス感染症ワクチンと同じく筋肉注射なので、打った後2~3日、痛みや熱が出ることがあります。ほとんどは自然に治まりますが、強いストレスがあるなど、そのときの心身の状態によっては、体調不良が続くこともあると考えられています。そうしたことを避けるには、たとえば受験や、部活の大きな大会を控えている時期を外してワクチン接種するというのもひとつの方法です。接種後にしっかり休める学校の長期休暇の間に接種するなどの配慮も有効でしょう。
また、思春期ならではの心身ともに多感な時期を過ぎたタイミングで接種するという方法もあります。HPVワクチンが10代前半での接種が推奨されているのには理由があります。子宮頸がんは性交渉によりHPVウイルスに感染することで発症するため、初回の性交渉の前に接種することで最も高い予防効果が得られるのです。ただ、少し効果は下がるものの、性交渉の経験後でも、26歳頃までに打てばある程度の効果はあるとも言われています。ちなみに、日本ではHPVワクチンは小学6年生から高校1年生相当の女子が公費接種の対象ですが、その間に打てなかった人も支援が受けられることになりました。2022年度から3年間、1997~2005年生まれ(17~25歳)の女性は無料でHPVワクチンの接種を受けられますので、こうした機会をぜひ活用していただきたいと思います。
産婦人科医としては、子宮頸がん予防のためにできればワクチンを打っていただきたいと考えます。ただし、日本でワクチン接種は義務ではありませんから、私たち医師が今ある情報を提供し、最終的にはご本人とご家族で決めていただくということになります。まずは、打つか打たないかも含めて、かかりつけの医師や婦人科で相談してください。