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性知識イミダス:性的多様性について知ろう(前編)~LGBTって、SOGIって何?

イミダス編

 性的指向とは、ある人のセクシュアルな感情・欲望が主に異性に向けられるか、同性に向けられるか、あるいは両方なのか、それとも対象の性別は問われないのか、ということを表す概念です。
 ……と、短く言えばこのような定義が一般的で、それで概ねよいのですが、さらに深く掘り下げようとするとたちまち難しい作業になりますね。そもそもセクシュアリティとは何なのか。先ほど話に出たジョグジャカルタ原則では、性的指向について、相手に対して「emotional, affectional and sexual」な意味で惹きつけられることだと単語を連ねて定義されていますが、じゃあエモーションとアフェクションとセクシュアリティはどう違うのかと訊かれたら、英語のネイティブ・スピーカーの多くも困るのではないでしょうか。日本語で言えば「性欲」と「恋愛感情」はどちらもセクシュアリティに含まれるでしょうが、相手とセックスはしたくないけど抱きしめられたいとかいった微妙な感情はどうなのか。さらに話を拡げるなら、そもそも欲望とか感情とかを分類するとはどういうことなのか。掘り下げていくとこうした謎が次々に出てきます。
 ちなみに、SO(セクシュアル・オリエンテーション)は「性的指向」と訳すのが主流で、かつて見られた「性的志向」という訳は間違いだとされています。セクシュアリティのあり方は本人の意志で決められるものではないので、意志の「志」という言葉を使うのは適切ではないというわけです。現在では大勢がこうした考えを支持していますが、セクシュアリティは可変的であると考え、そのとおりに実践する人たちもいることは忘れないでおきたいですね。人間の性に関して、最終的な結論などどこにも存在しないのですから。

Q5: SOGIについて調べると、「Gender Expression(ジェンダー・エクスプレッション=ジェンダー表現)」のEを含めた「SOGIE」や、さらに身体の性的特徴である「Sex Characteristics(セックス・キャラクタリスティックス)」を加えた「SOGIESC(ソジエスク)」という言い方があることを知りました。「ジェンダー表現」や「SC」についても教えてください。

 ジェンダーと呼ばれる現象には複数の層があって、性的指向とジェンダー・アイデンティティはそのうちのふたつを取り出したものです。全部でいくつの層を認めるのかは論者によって違いますが、いずれにしても、SOGIには収まらない層にも注目すべきだという声が出てくるのは必然でしょう。
 最もよく取り上げられるのはGender Expression(GE)で、「ジェンダー表現」と訳されています。ごく大まかに言えば、ジェンダー・アイデンティティが主に内面的な部分を表すのに対して、こちらは他人から見えるような部分のジェンダーを表します。服装、メイク、しぐさ、言葉遣いなどですね。

 Sex Characteristics(SC)の方は、生物学的な観点から見られた性別に備わっているさまざまな特徴のことで、簡単に言うといわゆる生物学的性別のことです。生物種としてのヒトは有性生殖する動物の一種であり、雌と雄とを集団としてみた場合、生殖器官の違いをはじめとしてさまざまな肉体的・心理的違いがあるわけですが、それを表すのに「ジェンダー」とは区別される「セックス」という言葉を使っています。ただし、そうした特徴に基づいて出生時に判定される性別「割り当てられたジェンダー」(assigned gender)という言い方をします。肉体のあり方そのものと、それを私たちがどのように分類し、違いを意味づけるかは次元の異なる問題だということです。

 話をジェンダー表現に戻すと、注意しておく必要があるのは、ある一人の人において、異なる層のジェンダーどうしが必ず一致しているわけではないということです。そのため、ジェンダー・アイデンティティを尊重すればジェンダー表現も自動的に尊重される、というわけにはいきません。アイデンティティがどうであれ、表現は表現として把握する必要があるのです。例えば、男性としてのジェンダー・アイデンティティをもつ人でも、ジェンダー表現の面ではいわゆる「女装」とみなされるような服装を日常的にしているケースがあります。学校では性同一性障害と診断された児童・生徒に本人が望む性別用の制服を認めることがある程度広がりましたが、特に性別違和(ジェンダー・ディスフォリア。出生時にからだの形状をもとに割り当てられた性別と、ジェンダー・アイデンティティが一致しない状態のこと)のない生徒でも、自分に割り当てられた制服は嫌だ、違う性別用の制服が着たいという人もいるでしょう(ここでは、男女別の制服という慣習そのものの是非は問わないことにします)。そうした希望を身勝手として片づけずに受けとめるためには、ジェンダーに関するアイデンティティと表現という二つの概念を区別しておくことが有効です。


Q6:SOGIの説明等でよく「性はグラデーション」という言い方を見かけますが、どのような意味でしょうか。

 SO(性的指向)もGI(ジェンダー・アイデンティティ)も、もともとは「男か女か」というジェンダーの二分法を前提とした概念ですが、私たちが経験するリアリティは必ずしもそうした二分法に収まるものではありません。先ほど、性的指向を定義するときに「主に」という言葉を入れておきましたが、同性愛者であると自認する人でも絶対に異性には惹かれないとは限らないし、異性愛者だと自認する人でも同性に惹かれることもあるかもしれません。
 ジェンダー・アイデンティティについては、コアな部分と周辺的な部分を分けて考えた方がいいのでさらに複雑な話になりますが、やはり「自分は純粋100%の女だ、男だ」という人ばかりではなく、例えば「自分の肉体への違和感はないし、男という自覚もあり異性の恋人がいるけど、世間一般で男らしいとされる言葉遣いや服装は苦手で、趣味も女性的とされるものが好き」とか、二分法には収まらないいろいろなあり方があるでしょう。

 そこから、女性、男性というジェンダーを、二つの独立した箱のようにイメージするのではなく、一方の極から他方の極へと連続的に、なだらかに移り変わるような分布としてイメージする見方が出てきました。そうしたイメージを「グラデーション(gradation)」と呼んでいるわけです。
 ちなみに、グラデーションという単語はグレード(grade)の派生語ですから、段階とか優劣の差というニュアンスもあり、差別のない多様性を表すにはふさわしくないという意見もあります。そこで、「スペクトラム(spectrum)」という言葉が使われることも増えています。プリズムで太陽光を分解すると現れる7色の帯のことですね。スペクトラムはレインボー・フラッグという性的多様性のシンボルとしても親しまれているし、綺麗な言葉でいいなと思いますが、強いて言えば、切れ目なくなだらかに分布しているというニュアンスは、「グラデーション」よりも後退するかもしれません(ちなみに余談ですが、虹の色の数え方は文化によって異なり、現在主流のレインボー・フラッグは6色のものです)。

【性的多様性について知ろう(後編)~差別やハラスメントのない社会をつくるには】に続く
【性知識イミダス:性的多様性について知ろう(基礎知識編)】もご覧ください

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